表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/442

341話:歯医者

今日は1月28日水曜日……来た、来てしまった……。

歯医者に来てしまった、来たくないのに。今、待合室で延々と待ち続けている……。

くそお、しみなかったら絶対にこないのに。


「ヤス兄ってばそこまで緊張することないのにー」


いやなんだよ。あのキュルキュルキュル、キキキキーというドリルの音がどうしてもいやなんだよ。


「痛かったら麻酔うってくれるから大丈夫だよ、ヤス兄」


「麻酔も嫌、あの治療が終わった後もフニャンとした感じが残り続けてどうしても嫌」


「わがままだねー、ヤス兄」


うるさい、ってかサツキはなんでついてきてんだよ。わざわざついてこなくてもいいのに。


「大体さあ、歯医者って何さ!? 前に1回歯医者に行ったときにさ、『痛かったら言ってくださいねー』って言ってさ、めちゃくちゃ痛かったけど、口の中にドリルがガガガガってやってる時にどうやって痛いって言えばいいんだよ!?」


「えー? 歯医者ってたいてい『痛かったら手を上げてくださいねー』とか、『痛かったらブザー鳴らしてくださいねー』って言ってくれると思うんだけど」


知らん。俺のときはなぜか『痛かったら痛いって言ってくださいねー』って言われた。言えるわけないじゃん!


「まあまあヤス兄、今日はきっとレントゲンとって終わりなだけだから、そんなに緊張することないよー」


だったらいいんだけどな……ってよくないよ。レントゲンとって終わりなんだったら、この歯が染みる状態が延々と続くじゃん。早く治して、歯医者なんかには絶対来たくないよ。


「近藤さん、どうぞー」


「ほらヤス兄、よばっれたよー。言ってらっしゃーい」


「サツキはどうすんだ? 待ってんの?」


「うん、ヤス兄がいない家に帰っても暇だしさ。ここで単語帳でも読んでるよ」


おお、サツキが勉強をするなんて、ちょっと兄は感動だぞ。







一部屋一部屋区切られていて、扉を閉めると完全な密室になってしまう部屋につれられた……。

ここではどんなに泣き叫んでも、もしかして声が届かないのかもしれない……。


「はい、こんばんはー。まずはそこに横になってね」


やさしそうな仮面をかぶった鬼が座っている……ちっ、そこで何をするつもりだ。


「そんな緊張しないでね。はい、倒すよ」


緊張を解いた途端に何をするつもりだ。この外道が!


「ええと、そんなににらまれると、ちょっとやりづらいんだけど? ほらほら、笑顔笑顔」


ふん、だまされないぞ。これが世に言う天使のような悪魔の笑顔というやつなのだろ。悪魔は最初は必ず微笑みながら近づいてくるというからな……だれが心を許すか。


「はい、大きく口開けて。あけないと治療できないよー」


……くそ、俺は弱者だ。この悪魔の言うことを聞かなければならないとは……。


「ううん……結構汚れてるねー。ちゃんと歯を磨いてる?」


「うががあう」


しゃべれるかあ! 口に変なもんつっこまれた状態で何をしゃべれというんだ!?


「うーん……まだほとんど虫歯はないみたいだけど、気をつけないとすぐに虫歯になるよ。ほらほら、こうちょっとこすってみると……ほら、何かつくでしょ? これが歯垢なんだけど」


「ふぐがああ」


「うんうん、そうだね。きちんと綺麗にしないといけないねー」


誰もそんなこと言ってねえ! しゃべらせろお!


「で、問診表見てみると、冷たいものを食べたり飲んだりすると、歯がしみるって書いてあるね。どの辺が痛いのかな?」


「うぎ、ぐぎ」


……ええと、とりあえずしゃべらせてくれえ……。唇を引っ張るなあ……。


「ここかな、ここかな?」


「ぎがぐ……」


『違う』といいたいのにうまく言えん。


「あ、ここだなー」


「ひう!!」


「あ、ごめん、刺した」


『あ、ごめん、刺した』じゃねえ! 今、歯茎がえぐられたかのような感覚を受けたぞ。まじ勘弁しろよ。このヤブ!


「うん、ここだね。ここにちょっと虫歯が出来てる。そんなに大きくなさそうだから、今日サクサクっと削って、治療しておこうか」


OK、それでいい。それでいいから早く終わらせてくれ。


「うん、じゃあいくよ。あ、痛かったらこのブザー押してね」


……そう言ってサツキの言ったとおり、ブザーを渡してくれたが……なんか今までの仕打ちを考えるとあんまり押しても意味がないんじゃないかって思う。


「じゃあ、そのまま口あけてて……」


キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル!!


いいやああああ! 誰か、代わってえ!


ブー、ブー、ブー!


「はい、むやみやたらにブザー押さないでね。痛いときだけに押してね」


「でうがっ!?」


あああ、削られていく……歯が……歯が……!


キュルキュルギュルギュル!!


「あががが!」


痛い痛い痛い痛い!! いたいっす! 何かどっか間違えて削ってないか!?


ブー、ブー、ブー!


「だから、さっきも言ったけど闇雲にブザー押すのやめてね。痛いときだけに押してね」


痛いの! だから押してるの! 分かってくれえ! 痛いんだあ! 麻酔プリーズ! いっその事意識を吹っ飛ばしてくれえ!


キュルキュルギュルギュル!!


「あががぎゃがじゃああら!」


「ああ、うん……思ったより深いねー。しみるんだからそりゃそうだよね。まあ、金属は詰めなくても大丈夫だと思うよ。もうちょっと頑張ってね」


頑張れない! 20キロ走るのは頑張れても、この痛みは頑張れない!


ブー、ブー! ブー、ブー!


「うん、痛いとは思うけどもうちょっと我慢してねー、後ちょっとの我慢だからねー」


後ちょっとってどのくらい!? ってかこのブザーまじ意味ねえ!











……終わった……燃えた、燃え尽きたよ、真っ白にな……。


「うん、他には虫歯ないし、きちんと歯磨けば大丈夫かな」


……よ、よかった……こんな思いは1度で十分だ。もう2度と歯医者なんかには来るもんか。


「あ、でもレントゲンとって見ないとわかんないけど、奥の親知らず、4本とも傾いて出てきてるっぽいからこれきっと抜かなきゃダメだと思うよ。それほっとくとまた虫歯になりやすくなるし、歯並びも悪くなるし」


まじか……くそ、親知らずども……まっすぐ生えろよ。


「今日はこんぐらいにして、出来る限り早くに抜きに来てね」


お前のとこでなんぞ誰が抜くかあ!

……そう言ってやりたいけれど、言えない自分が悲しい……。

こんばんは、ルーバランです。


痛かったら言ってくださいといって、言ってもやめてくれた経験はありません。

何のために歯医者さんは聞くんだろう……?


それでは今後ともよろしくです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
オーダーメイド
ええじゃないか
うそこメーカー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ