336話:一生懸命恋しました
結局ユッチはフルコース作るのはやめて、いつも通りの家庭料理。
肉じゃがとかお芋のにっころがしとか……うまうま。ほんとユッチ、いいお嫁さんになれるぞ。
みんなでユッチの家庭料理、おいしくいただき、その後は居間でくつろぎタイム。
ご両人の両親がいつの間にやら仲良くなっている。
「それでは、そろそろお二人のご結婚をお祝いして私、1曲歌います!」
おお、カオルお姉さん。ノリノリやね。
「ゆう! カラオケセット準備!」
「サー、イエッサー!」
おお、ユッチが隣の部屋から素早く家用カラオケセットを持ってきた。
ユッチの家ってそんなのもあるのか。
「あなた、マイク準備!」
「サー、イエッサー!」
ユッチが持ってきたカラオケセットの中から、マイクを抜いてカオル姉さんに渡す。
何かユッチも、旦那さんも手慣れてんな。もしかしてこんな感じにカラオケ大会が始まるのはユッチの家では定番なんだろうか?
「ヤス君とサツキちゃん、バックダンス準備!」
「サー、イエッ……サー?」
ちょい待て待て待て! 打ち合わせも何も無しに勝手にバックダンサーにするんじゃない! いきなり踊れる訳ないじゃん!
「ユッチ、曲入れて! タイトルは……結婚闘魂行進曲「マブダチ」!」
「サー、イエッサー!」
ユッチ、サーなんて言ってないで止めてくれ! マブダチなんて踊れねえよ!
タッタッタッタッタラララー……。
やばいやばい、イントロが流れ始めてしまった。カオル姉さんがノリノリで踊り始めた、俺も真似して踊らないと!
所々に替え歌が入ってるっぽいけど、歌を聴く余裕は俺にはないっす。バックダンスに必死です。
何か楽しそうに俺よりきれいに踊っているサツキを見るとちょっと悔しいっす。
……はあ、はあ。なんとか踊りきれた。
「ヤス兄ってばロボットじゃないんだから、もっと滑らかに踊りなよー」
サツキ、そんな突然指名されて出来る訳ないじゃん!
「次は俺が歌う!」
「サー、イエッサー!」
お、今度はカオル姉さんの旦那さんっすか。
「ゆう、曲のタイトルは『Can you celebrate!』」
「サー、イエッサー!」
ユッチ、そこはサーじゃないよ! 旦那さんの野太い声で安室奈美恵を歌ってちゃダメだろ!
やーめーてー! 安室が、俺の安室奈美恵が汚れていくう……。
「怖かったー、怖かったーでも」
お前が怖いわ……やめて、安室が、安室が泣いているよ。ってかその声でかわいらしく歌うな! ものすごいきもい!
……永遠に続くかと思われたCan you celebrateも歌い終わった。終わってよかった……汚れちまった、汚れちまったよ……安室奈美恵。
「ほら、ヤス君やサツキちゃんも何か歌わないか? 別に結婚にちなんだ歌じゃなくてもなんでもいいぞ」
「あ、ほんとですか。んじゃー俺は……」「あ、私『てんとう虫のサンバ』が歌いたいです!」
……サツキに先越された。マイクに伸ばした手が空しく宙をきる……ってか『てんとう虫のサンバ』て……おいそこの平成生まれの妹よ、お前中学生だろ……ま、いいけど。
サツキがマイクを持って前に立って楽しげに歌う……歌ってホント楽しくなっていいなあ。
「そういやユッチは何にも歌わないのか?」
「え? ボク? ボクはいいよお。下手だもん」
「カラオケに上手い下手は関係ないんだぞ。カラオケで最も大事なのは楽しく歌うこと。ただそれだけだぞ。大体下手な奴はカラオケで歌うななんて言ったら俺とかケンとかカラオケに入室禁止になっちまうよ」
なので、散々心で罵倒したお兄さんの『Can you celebrate』も楽しそうだったから一応ありだ。出来ればあの声なら平井堅とか歌って欲しいけど
「ええ!? ヤスとケンってそんなに下手なのお?」
「へたへた、どへた。でも気にしない。楽しく歌えればそれでよし」
まあ、下手だからって鼻で笑ったりする奴とかがいたり、人が歌っている時に興味なさそうにしてるとつまらんくなるけど。そう言う意味ではケンと行くカラオケが最高だよな、気兼ねしないし。
「ううん、でもさあ……」
何を考えるんだユッチ。カラオケの最中は考える事なんか何もないぞ。
「ユッチ、結婚式の定番曲といえば今3人が歌った『マブダチ』『Can you celebrate』『てんとう虫のサンバ』があがるよな」
「うんうん」
「他に思いつくの、何がある?」
「ええ? そんな急に言われても思いつかないよお」
ま、いいからいいから。適当に言ってみてくれよ。
「……ええと、ええっと…………郷ひろみ『お嫁サンバ』とか?」
……また古いのを。お前らはホントに10代か。知ってる俺も俺だけど。
「知ってるけど歌えないから却下」
「ええ!? ボク歌えるよお!?」
……ユッチ、お前はホントに10代か?
「とにかく却下。他に何かないか?」
「ええと……湘南ノ風の『純恋歌』」
「知らんから却下」
あ、ちょっとユッチの顔がムカってきた。
「ドリームズカムトゥルーの『未来予想図II』はあ?」
「とりあえず却下」
あ、さらにユッチの顔がムカってきた。眉間にしわが寄ってるぞユッチ。
「じゃあじゃあ! スマップの『らいおんハート』お!」
「理由は特にないけど却下」
「却下ばっかりじゃんかあ! 何なんだよヤスう! 特に最後の理由はないけど却下とか意味分かんないしい!」
「何となく言ってみたくなったんだ。悪いか」
「悪いわあ!」
そうか悪いのか……すまん。
「ええとだな、俺はユッチとモーニング娘。の『ハッピーサマーウェディング』を一緒に歌いたかったんだけど……ユッチが中々言ってくれないから」
「だったら最初からそう言えよお!」
すまん、その通りっす。
「で、どう? 歌う?」
「うん、ヤスと一緒なら歌うう!」
おし、ユッチ巻き込み成功。
「んでだな……色々とやりたい事があるんだけど」
「うんうん……」
サツキの歌も歌い終わり、その次、お父さん世代が『パパパパーン、パパパパーン、パパパパン、パパパパン、パパパパン、パパパパン』「I'll love you forever〜♪」と歌いきり、また今度カオル姉さんにマイクが回っていきそうになってる時にストップをかけた。
「んじゃ次! 俺とユッチでモーニング娘。の『ハッピーサマーウェディング』歌います!」
……あれ? なんでユッチの家族がみんなしてこっちを向いて固まってんの?
「ゆうが、歌うのか!?」
「今夜はお赤飯を炊かないと!」
いや、そんなに大げさに言う事ないのに。
「うるさいうるさいい! 別にボクが歌ったっていいだろお!」
……今までユッチってそんなに歌った事なかったのか?
「まあいいや、ユッチ、イントロ始まったぞー」
「あ、おととお……コングラチュレイショーン♪」
イントロが始まったと同時に踊りだすユッチ……何故踊りをマスターしているんだ?
おお、ノリノリな上にめっちゃ上手いじゃんユッチ。何でこんなにうまいのに今まで歌わなかったんだろ。
うう、俺の方が下手すぎてへこむ。実力差が激しすぎる……だけど、気にしない。今は歌を楽しもう。
ささ、ここで俺は一旦退場。そして今回の新婦さんにマイクを渡す……結婚式ではありふれたやり方かもしれないけど、まあ、面白いだろ。
……曲も一旦止めて、新婦のアキラさんの声を待つ一同。
「……ええと、紹介します。大阪でメーカーに勤めている……河辺徹さんです」
アキラさん、ノッてくれてありがとー。
「……仕事一筋の真面目な人です。背は、見ての通り私と同じくらいで小さくて、今日は髪もきちんと整えてるけど、普段はぼさぼさで、顔もいっつも仏頂面で、ほとんど笑った事なんて見た事ありません」
おいおい、アキラさん、いいんすかそんな事言っちゃって。
「でも、別に感情がないって訳じゃなくて、出すのがちょっと不器用なだけの人なんです。ときどきはにかむように笑う顔がとっても好きです」
ごちそうさまです。
「この年になってまるで少女みたいに恋して、好きになれる人に出会えて、結婚できて、とても幸せです」
あちい、あちい、冬なのにあちい。ここは砂漠のど真ん中か?
「お父さん、お母さん……今までわがままいっぱい言ってごめんなさい……何にも手伝いしてこなかったし……反抗ばっかりしてたし……でも……そんな不出来な私を……」
あれ、あれ? ええ? 何で涙ぐんでんの?
「ここ……まで育ててくれ……てありがと……うっ……うございます……」
「うん……うん……」
アキラさんの両親も泣いてるし! 号泣してるし! ええ!? な、なんで!?
「これからは旦那さんとこれからうまれてくる子供と3人、いっぱいいっぱい幸せになります……今までありがとうございました……!」
「うん……! うん……!」
そう言いきると、アキラさんは俺にマイクを返してくれた……。ええと、今返されても……。
周りを見回してみると、新郎側の家族までほとんどがもらい泣きしてる。ここまでみんなして泣いてる中、俺とユッチは歌わなければならないんだろうか?
ふとユッチを見ると、ユッチも困った顔でこっちを見てる……サツキを見ると、『ヤス兄どうすんのー?』みたいに面白そうな顔をしている。
くそお、小悪魔め。こうなったら最後まで歌いきってやる!
「ユッチ、最後まで歌うぞ!」
「ええ!? この中でえ!? ……わかったあ」
ミュージックスタート……。みんながわんわんと泣き止まない中、明るいテンポの曲が部屋に響き渡る……おおい、笑ってくれよう。歌聞いてくれよう。
さあ、最後のセリフだ!
「産休♪」
…………だ、誰も聞いちゃいねえ……サンキューと産休を掛けた究極のネタを。
ただ1人サツキだけがけたけたと笑ってる。ネタに笑ったと言うよりシチュエーションに笑ってやがるなあいつ。
「ヤスのバカあ! 大恥じゃんかあ!」
痛い痛い! 俺のせいじゃない! 泣き出したみんなが悪いんだよ!?
「バカバカバカバカあ!」
ユッチ、殴るなあ!
結局、ユッチは拗ねちゃったけど、みんな大満足のカラオケ大会になりました。
まあ……めでたいのかな?
こんばんは、ルーバランです。投稿遅くなりすみません。
こんな話を書きつつ、虎舞竜の『ロード』を聞いていた自分はものすごいひねくれ者だと思いました。
それでは今後ともよろしくです。