331話:ダブル結婚式?
サツキとユッチが消えてからもうかれこれ30分以上経った。
時間がないからといいつつこんなに待たされるとは……女の準備に待たされる男の気持ちってこんなもんなんかなあと感じながら、待ちぼうけしている。
……こういうのを待たされているときの気持ち、なんて言うんだっけ? ええと、ああ、そだそだ。『俺はこんなところでこんなことをしている場合では絶対無いと思うんだ』だよな。
「お待たせ! ヤス兄!」
ふう……やっときたか。もうちょい待ってる人の気持ちになってくれ……よ?
「どしたの? ヤス兄」
……サ、サツキ……?
「もう、固まってないで何か言ってよ! さっきユッチ先輩を見たときと全く同じリアクションだよ!」
……………………………………。
「ヤス兄、何で何にも言わないの?」
「…………」
「サツキちゃん、ヤスってば完全に固まっちゃってるねえ。よっぽどサツキちゃんが綺麗だったんだよお」
……うん、ユッチの言うとおりだ。
薄水色のドレスをまとって、目と頬と唇に少しだけ化粧をしているサツキ……濃くならない程度のほんとにうっすらとした化粧をまとっている。たったそれだけなのに、こうまで違って見えるんだ……アイラインをキュッとえがいていつもより目がパッチリとさせて、それでいてきつめの印象をいだかせない程度の化粧。
ほんとに俺とサツキって血がつながってるんだよな……俺と同じ遺伝子を持ってるとは思えないくらい綺麗……。
「サツキ……結婚しよう!」
「へ? え、えーと……ヤス兄? 頭大丈夫?」
「俺は正常だ。サツキ、結婚しよう。今すぐ結婚しよう。そしてユッチのお兄さんたちとダブル結婚式を挙げるんだ」
「あ、えーと……ヤス兄? まずは正気に戻った方がいいよ? それに今日はユッチ先輩のお兄さんの結婚式だから無理だよ」
「サツキちゃん、ツッコミどころはそこじゃないだろお!」
ユッチがやんやん騒いでいるが、別に気にしない。
「んー……頼めば何とかなるって。きっとユッチのお兄さん、寛大だから。会ったことないけど」
「どんなにユッチのお兄さんが寛大でも無理だよヤス兄。ヤス兄は16だし私15だし、後2年は待たないと」
「だからサツキちゃん、ツッコミどころはそこじゃないってえ!」
……ちょっとユッチがうるさくなってきた。
「大丈夫だサツキ、法律も年齢も性別さえもぶっ飛ばして行くんだ。大丈夫だ。きっと何とかなる」
「ヤス兄、別に性別はぶっ飛ばさなくてもいいよ?」
「だからサツキちゃん、ツッコミどころはそこじゃないってばあ!」
「ユッチ、ボケ担当のユッチがツッコミを語るな」
「ぼ、ボクはボケ担当なんかじゃないい!」
……そうだったっけ? いっつもボケていたような……まあいいや。今はユッチはほっとこう。
「サツキ、今日が2人の新しい門出となるんだ。まずはここで結婚式を挙げて、そのまま新婚初……」
「あほかあ!!」
スコーン! ……い、いてえ……ユッチに思いっきり頭をひっぱたかれた。
「何すんだよユッチ。バカになったらどうする?」
「もともと大バカなんだから大丈夫だあ! こん……のヤスのバカあ!! 変態い! 甲斐性なしい!」
「そりゃヤス兄は高校生なんだから、稼ぎがなくて甲斐性なしですよね」
冷静にツッコミいれてないでユッチを止めてよサツキ!
「このとうへんぼくう! 優柔不断ん! たわけえ! まぬけえ!」
痛い痛い! ……痛いけど、どこまで悪口が続くのか聞いてみたくなってきた。
「このボケえ! バカあ! アホお! ……ええとええとお……」
「ユッチ、もう悪口のレパートリーはなくなったのか? 少ないなあ、もうちょっと語彙を増やさないとダメだぞ」
「う、うるさいうるさいい!」
や、やばっ!? なんかさっきより力の入れ方が格段にあがってるんだけど!?
「痛い! 痛いってばユッチ! ポカスカ殴るな!」
「殴ってない! 叩いてるんだあ!」
グーでもパーでも一緒だよ! どっちだって痛いから! あいたたた……やめいやめい! ユッチ興奮しすぎだから! ストップストップ!
「ユッチ先輩、せっかくのハレの日なんですから、けんかはダメですよ。それにせっかくドレスを着てるのに着崩れて台無しになっちゃいますよ?」
「ふうう、ふしゅう……」
さかりのついた猫のように、いまだ興奮が冷めやらぬユッチ……こええ……。
そう言えば俺、何でユッチに殴られてたんだっけ? 今ユッチに何か悪いことしたっけ? ……覚えがないなあ……殴られ損な気がしなくもない。
「あ、そろそろ時間ですね。ヤス兄、ユッチ先輩。レストラン行きませんか?」
「ふうう……うん、わかったあ」
お、ユッチのやつ……ようやく落ち着いたか?
「んじゃ行くか。ユッチ、案内よろしく」
「うるさあい! ヤスの変態い!」
……なんか……何もした記憶がないのに……ええと、生まれてきてごめんなさい。