33話:集団宿泊研修1日目、夜
飯ごう炊飯の後、まだ覚えていない校歌を学年全員で暗唱して歌えるまで歌わされた。
1年3組は音程を外しまくりでひどかった。それもこれも、音感0のケンが大声で歌うからだ!
おかげで、こっちまで音が狂った。
その後、夕食になった。今度はもう自分たちでは作らず、バイキング形式だ。
ケンとアオちゃんと3人で、わいわいやりながら食べた。
食べ終わった後、ケンが唐辛子とバナナを持ってきて、
「勝負に負けたやつが、この唐辛子バナナを食うんだ!」
とかぬかしやがった。
ちょっと待て!何故そんな罰ゲームをせねばならない。
「あ、面白そうですね。やりましょう」
何でそこでのるの?自分が食べた時のリスクは考えないの!?
「ヤス、多数決としてこのゲームは採決となった」
「おかしい!全会一致の場合のみ、採決できるよう提案する」
「ヤス君、残念ながらここは民主主義国家です。民主主義イコール多数決が原則なんですよ」
アオちゃん、こんな所にまで政治を持ち込まないでください。
「だが、例外はあってしかるべきだ!だろ?」
「勝負は簡単!ジャンケンで決めるぞ!」
「俺の意見を無視するな!ケン」
「ジャンケン!ポン!」
「イッ!?」
いきなりジャンケンを始められて俺は出すのが遅れた。
結果は、
ケン:パー
アオちゃん:パー
俺:グー
…………あれ?俺遅出ししましたよ?
「ヤス、お前ってそんなに唐辛子バナナ食べたかったのか……あえて負けるなんて」
「いや、違う!ってか、遅出しになっちゃたんだから、ここはやり直しだろ?」
「ヤス君、反則したのに負けたんだから、やり直しなんてありえないですよ、さあバクッと食べちゃってください!」
グワッと唐辛子バナナを近づけてくる。
赤い!バナナが赤い!
俺は観念して思いっきり口を開ける。こう言うのは思い切りが大事だ。
チョビチョビ食べてたって、なかなか無くならない。
嫌な事は一瞬で終わらせるのが吉なのだ。
「甘い!辛い!辛いけど甘い!ってか、唐辛子かけ過ぎ!ケン、水くれ水!」
「水など無い、気合いで流し込むんだ!」
「ケン、訳分かんねえよ!辛くて火を噴いちゃうよ!」
「ヤス君、是非やってください!見てみたいです」
「比喩表現を理解しろよ!アオちゃんをアホちゃんに改名すんぞ!」
「ヤス、上手い事言ってるつもりか知れんが……」
「……うん、微妙です……」
どうでもいいから、水をくれ!
バタバタした夕食が終わり、クラス毎に時間を分けて風呂に入る。
1年3組は真ん中で、前の組が中々出てこなかったから、慌ただしくなる羽目になった。
結構広々とした風呂だ。20人なら余裕で入れるな。
シャワーも20個以上ついてるから、全員で体を洗い始めても大丈夫だ。
俺はシャワーの前に座って、体を洗っていると、隣のケンがちょっかいをかけてきた。
「おい、ヤス、タオルなんかで隠すなよ!」
「やめろよ、ケン、男同士で見合って、何が楽しいんだよ。お前は女風呂でも覗いてくりゃ良いだろ。今ならきっとウララ先生が入ってるぞ」
「ウララセンセを覗くなんて、そんな恐れ多い事が出来るか!だいたい、俺は愛を育みたいだけであって、変質者になりたい訳ではない。」
「……ケン、愛を育むとは具体的にどうなりたいんだ?」
「ヤス、聞きたいのか?俺の壮大な計画を……。ならば語ってやろう!」
あれ、恥ずかしがって言えない、のような展開を予想してたのになんだかスイッチが入ったようだ。
「ウララセンセは鈍感だ。どんなに言っても全然気付いてない!」
いや、気付いてると思うよ。無視してるだけで。
「まずは高校1年生の間に、俺の事を意識させるんだ。ちょっと駄目だけど、手のかかる可愛い生徒って思ってもらえればOKだ。高校2年生になったら、さらに激しくアプローチを開始する。と言っても手をつなごうとかいきなり抱きつこうとかそう言うのじゃないぞ!それじゃただの変態だからな!」
ポンポコさんだけでなく、お前にも言われるのか……サツキにそう言う事してた俺はやっぱり変態なんだな。
「どうアプローチするかと言うと、英語の成績を上げるんだ。そしてあなたの授業がとてもよかったから上げる事が出来ましたって。高校2年生で、俺の印象は、可愛い生徒から頑張りやの私の授業を褒めてくれる嬉しい人ってイメージに代わる。」
英語の成績が上がるくらいで、そんなに変化するかなあ?
「そして3年生、陸上と両立しつつ、教育学部へ入学する為に必死で勉強するんだ。そして合格発表と同時に、『忙しくて会えないなんて寂しい思いをさせません。あなたと一緒になる為に、俺は高校教師になります』って告白するんだ!そして、自然消滅してしまった時の失恋の傷跡が残っていたウララセンセは俺の告白を受け、傷が癒えていくのを感じ、恋に落ちるんだ……」
やっと終わった、長かったな。
「そこはまだ序章に過ぎない!」
「おい!何章まであんだよ!?」
「高校編が序章、大学編が1章、高校教師編は結婚前編、結婚後編、出産編、子育て奮闘編の4章仕立てで、その後、娘の花嫁編、孫の誕生編、老後編と続く。計9章仕立てな壮大な計画だ!」
馬鹿がいる、前から思っていたが、本当の馬鹿だ。
まだまだしゃべり続ける馬鹿はほっといて、さっさと湯船につかる。
気持ちいい、この瞬間の為に生きてると言っても過言じゃないな。
俺は十分に風呂を満喫し、部屋に戻った。
夜はクラス内での隠し芸大会だった。こう言うのはひとりひとりの個性が出ていて、中々面白い。
ただし、気弱な人や、得意芸を持っていない人にとっては苦痛になるものだ。俺とか俺とか。
ウララ先生が、俺たちに呼びかける。
「それじゃ最初にやりたい人、手を上げて!」
今回は何故かケンも手を挙げない。不思議に思っていたのだが……。
「ヤス君、右手、危ないです!ムカデが!ムカデが!」
「えっ!?ムカデ!?」
アオちゃんに耳元で叫ばれ、つい、逃げるように手をどかした。
「おー、今日は積極的だね、ヤス君。じゃ前に立ってね」
「え!?俺が最初ですか?」
「今手を挙げたじゃない?さ、始めて」
やられた!ケンとアオちゃんがこっそりとタッチしてる。俺の苦手な物についてケンに教えてもらってたな。
こうなったら!俺の底力を見せてやる!
「仕方ねえ、1番手ヤス、行くぞ!お題は45連発!」
「あ!『アッシの足!』」
「い!『いす、ナイス!』」
「う!『臼のかけ声、うっす!』」
「え!『円高状態ってえーんだかなあ』」
「お!『お金っておっかねえ!』」
「か!『勝手に叱って!』」
「き!『着物の置物!』」
「く!『クルーが来る!』」
「け!『ケンの化粧、いけしょう?』」
「こ!『コンドルが、よろコンドル』」
「さ!『さる猿、去る!』」
「し!『ジャイアン、しんジャイヤーン』」
「す!『スイカを押すイカ』」
「せ!『生家の成果はこの青果!』」
「そ!『早田さんが死んだそうだ!』」
「た!『端午に踊るタンゴ』」
「ち!『竹林にいるちんちくりん!』」
「つ!『鶴が滑った!』「つるっ」」
「て!「鉄道にて集う」」
「と!『隣の家に塀ができたんだってね』『ヘー』」
「な!『何度も納戸を閉める』」
「に!『ニトロ爆弾の上にトロ』」
「ぬ!『塗り絵を描かぬ、理恵』」
「ね!『粘土、足んねーど』」
「の!『のび太がノビた』」
「は!『ハワイの女の子って、ハ・ワ・イ・イ(かわいい)』」
「ひ!『昼に湧き出たヒル!』」
「ふ!『布団が吹っ飛んだ!』」
「へ!『へそで茶を沸かすぜ!』『へーそー(へえ、そう)』」
「ほ!『ホットミルクをホッと見る』」
「ま!『抹茶を飲むの、待っちゃる!』」
「み!『ミミズク、ミミズ食う!』」
「む!『虫なんて、無視!』」
「め!『眼鏡を取ったら、目がねえ』」
「も!『モジモジした文字』」
「や!『屋根の上ってやーねー』」
「ゆ!『ゆで卵をゆでた孫』」
「よ!『ヨットに乗るぞ、あらよっと!』」
「ら!『ライスをスライス!』」
「り!『りす、すりすり』」
「る!『留守にするっす!』」
「れ!『レールの上に乗れーる!』」
「ろ!『ロンドンで演奏、輪舞曲!』
「わ!『私、渡しましたわ!』」
「ん!『んだんだ文庫ってあるの?』『んだんだ』」
…………ど、どうだったんだ!俺の評価は!?
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち………
かなりの拍手だな!俺、やった、やったよ!頑張ったじゃんな!
「ヤス、君は頑張った!体を張ってくれたよ!スッゲエ面白かった!」
「ほんとか!面白かったんだな!よかった、もしかして外したんじゃないかと心配したんだよ!ありがとう、ケン!自信がついた!俺、45連発の第2弾を考えるよ!」
「そ、そうか!頑張れよ!」
「なんか苦笑いしてるな……そうか、俺にネタを提供してくれたんだな!…………く!『苦笑しながら捨て言葉、「クショー!」』!できたぞ!ありがとうケン!」
「あ、ああ!どういたしまして!」
うん、会場を暖めたし、1番手として最高の仕事をしたな。
「すごかった……」
「親父ギャグ45連発……」
「あんなの恥ずかしくて真似できねえよ……!」
「羞恥心をなくしてこそ芸が出来るんだな……!」
よく聞こえないが、褒めているんだな!そうだ!俺をもっと褒めるんだ!
その後、そこそこの盛り上がりを見せ、最後はアオちゃんが皿回し、ウララ先生が傘の上でボール転がしをして締めた。
うん、よかったな。
こんにちは、ルーバランです。
この親父ギャグを考えるのはかなり大変でした、他の人のHPからとってきたりせず、自分で考えましたよ(笑)
で、せっかくブログを開設したんですが、9月1日からフリーター状態からついに就職いたしまして、ついでに引っ越しました。
まだネット環境がなく、携帯で書いてますが、書くのもネット小説だけで手一杯です。
落ち着いたらどちらも更新しますので、今後ともよろしくお願いします。