326話:百人一首大会
今日は1月13日火曜日。
午後の授業は全部中止になって、その時間全部使って百人一首大会がある。
別に正月にやってるような緊迫したムードの百人一首大会ではなく、100枚を適当に並べてグループ内で取り合うというルールの大会だ。1年生が全部で5クラス、1クラス1人ずつの計5人のチームを作って、対戦をする。
一応クラスごとと個人ごとに順位を決めるらしい。
……へん、こんなので勝ったって嬉しくもなんともないやい。
「なんだかやる気のなさそうな顔をしているな、ヤス」
「当たり前っすよ」
「そして何故そんなにふてくされているのだ?」
「自分の胸に聞いてみてくれ、ポンポコさん」
「……さっぱりわからんぞ」
……嘘をつけ嘘を。
「ポンポコさん、『ももしきや』」
「『ふる き のきば の しのぶにも なほあまりある むかしなりけり』」
「ポンポコさん、『ちはやぶる』」
「『かみよもきかず たつたがわ からくれないに みずくぐるとわ』」
「ポンポコさん、『あきのたの』」
「『かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ』」
……くそお、予想通りだったけど、俺が知っているたった3つだけの短歌を全部スラスラと言われてしまった。
「ポンポコさん、百人一首全部言えるっしょ」
「ふむ……まあ言えることは言えるが」
……やっぱり。ってか俺ってなんて運がないんだよ。そんな百首全部覚えているような人がグループ内にいるなんて不運の何者でもないよ。
「ヤス、試合が始まる前から負けを認めてしまっていてはダメだぞ。往々にして試合が始まる前から勝負というのは決まっているものだが」
「……慰めてんのか落ち込ませようとしてるのかどっちだよ?」
「どちらでもない、ただ事実を言ったまでだぞ」
「ポンポコさん……事実というのは必ずもっとも残酷な一面をあわせもつものだ……そう思わないかい?」
「何悲壮感を出しながらバカなことを言っているのだ」
ふーんだ。俺バカだもーんだ。バカがバカなこと言って何が悪いんだー。
「いいかヤス、普通はどんな試合においても試合が始まる前から勝敗なんていうものは決まっているものだ。何故なのか? それは地力の差というものだな。走る特訓をたくさんした人がかけっこに勝てる。それが普通だ」
今、百人一首大会の話をしていたはずなんだが、いつの間に陸上の話に変わっているんだろうか。
「だがヤス、実力差がどんなにあっても勝ち負けがひっくり返るときがある。それは気持ちの問題だ。古代中国の孫子の兵法でも、士気については重要に説いている。三国志演義でも曹操が食料不足になり兵士の士気が下がっているときに食糧管理の兵士をたたっきり、その兵士を犠牲に士気を上げている」
そして陸上の話から何故一気に三国志の話に変わるのだろうか。
「ヤス、士気は大事だぞ。始まる前から仮に負けだと分かりきっていても士気を下げてはダメだぞ」
……やっぱりけなされている気がする。これはあえてお前は負けるお前は負けるといい続けて、俺の士気を下げようとしているポンポコさんの作戦なんだろうか。完全にポンポコさんの術中にはまってしまってるな自分。
「『それではただいまより、百人一首大会を始めます。私、ウララが上の句をよみあげますのでよろしく』」
……とうとう始まるな。俺とポンポコさん、それと残り別のクラスの3人が床にちりばめられた百人一首カルタに目を注ぐ。
『む』
スパーン!
……はえ? な、何が起きたんでしょうか? ポンポコさん以外のメンバー全員、ポカーンとしている。
「反応が遅いな。決まり字というのを知らないのか?」
や、知らん。
「1字決まりというのがあって、『む』で始まるのはこの『きりたちのぼる あきのゆふぐれ』しかないのだ」
……そんな豆知識しらないっすよ。
「ってか知っててもそんなスピードではたけるはずねえだろ」
「ふっ、試合が始まる前から勝負というのは始まっているのだぞヤス。先生が説明を続けている間、どれがどこにあるのかを調べておくのが百人一首の常套手段だ」
……どれだけ百人一首をやりこんでるんだよポンポコさん。
「『もろともに』」
スパーン!
……や、5字よみあげただけでとられるとか無理だろ。俺なんて先生が下の句詠んでくれないと分からないって言うのに。
「……ふむ、まだ反応が遅れたな。まだまだだ」
ポンポコさん、もう十分強いから! それ以上強くならないで!?
……ええと、戦績……。
ポンポコさん 95枚。
俺 0枚。
それ以外のメンバー 2枚。
3枚はお手つきで消えていった……ってか無理っす。下の句詠まれる前に全てポンポコさんに取られました。もちろんポンポコさんが個人優勝。そりゃ95枚もとったら優勝するよな……。
ものすごいトラウマを作られた百人一首大会でした……泣ける。
こんばんは、ルーバランです。
先日結婚の話をちょこっと書きましたら、自分の周りで2組結婚報告を受けました。
ほんとめでたいですね、おめでとうございます。
そして私にも春来てください。
それでは今後ともよろしくお願いします。