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312話:1年の計は元旦にあり

おせちも食べた。これから居間でごろごろしよう。


「ヤス兄ヤス兄、書初めしようよ!」


……ええ、めんどい。


「俺、今日は1日中ぐうたら寝てたいんだけど」


「ええ? ヤス兄、こんなことわざを知らないの? 『1年の計は元旦にあり!』」


や、知ってるけど。それがどうした。


「1年の事始にね、しっかりと目標を定めて何かをやろうと考えておかないと、その1年はうまくいかないよって意味なんだよ。だからね、書初めやろうよ。それで書初めに目標を書くんだよ」


「別に明日でええやん。今日はぐうたら過ごそうよサツキ。確か書初めって1月2日に書くもんだろ」


「ヤス兄……古きよき風習を守ることって大事だよね」


……何を悟ったかのような顔して語りだしてんだサツキ。


「けどね、形式にこだわりすぎて、本来の意味を忘れてしまうのって駄目だと思うんだよ」


……書初めの本来の意味ってなんだ?


「古きよき物をどんどんと取り壊し、形骸化した形式ばかりを守る日本に未来はあるの!? ヤス兄!」


そんな大風呂敷を広げられても。日本の未来よりも、俺にとっては今日一日をいかにしてごろごろ過ごすかのほうが重要なんだ。


「だからね、別に1月2日に書初めをする必要は無いんだよ。そもそも書初めを1月2日にこだわる意味ってどこにあるんだろうね?」


……さあ。


「だからね、書初めを今やってもいいと思うんだよ」


「ええと、形式にこだわりすぎてって言うなら、そもそも別に書初めやらなくてもいいんじゃない? 今年の目標もマジックかなんかで書いとけばいいんだし」


めんどい事はやらないようにやらないように。特に正月は出来る限りサボってすごすに限る。


「ヤス兄のバカあ!」


ええ!? 何でここで怒るの!?


「ヤス兄、書初めをしないなんて日本人として間違ってるよ! 書初めは日本人の赤ちゃんが生まれたとき、最初に行う儀式のひとつなんだよ!」


んな訳ないやん。赤ちゃんが字書けるわけないし。


「ヤス兄、ヤス兄はまだ高校生なんだよ! 今からそんな会社勤めで疲れた40代後半のサラリーマン子持ちが送る日曜日の過ごし方みたいな日々をしてどうするの!?」


……え? 俺ってそんな風に見えるの? 別に40代じゃなくても10代でも休日は家でごろごろしたいと思うのって普通なんじゃないの?


「ヤス兄、だからこそ今日、今から書初めをするんだよ! これはヤス兄のためなんだから!」


「ええー……」


「返事は『ええー』じゃないよ! ヤス兄!」


「はいはい」


「『はい』は1回!」


「はい」


……どしたのサツキ? 何がそこまでサツキを書初めに突き動かそうとするの?


「ちなみに、ヤス兄が書く文字はこれだからね」


そういってサツキが1枚のお手本を差し出す。ええと……どれどれ。



『新星発見』



「………………おい、サツキさんや」


「んー、何ー?」


「これ、何で俺が書かなくちゃいかんのさ?」


「ヤス兄ってね、高校入学とか、変化がないとずっとずっと同じことを繰り返すんだよ。それはそれで悪いことじゃないんだけど、時には冒険心を持って新しいことを始めたほうがいいと思うんだ。だからヤス兄にはこの『新星発見』って言葉を書いて欲しいんだよ。この言葉には『新しい自分を見つけてほしい』って想いが込められてるんだよ」


「ええとな、もんのすごくいい言葉を言っているように聞こえるけどな。これ俺去年書いたんだよ」


「え? そうなの?」


「うん、中学の宿題で」


あ、サツキの顔が固まった。


「……」


「なあサツキ、弁解したいことはあるか?」


「ふっ、ヤス兄……『立っているものはせめて兄ぐらいは使え』ということわざを知らないの? 楽するためには手段を選ばないよ」


「全然違うけどな、それを言うなら『立っているものは親でも使え』だ」


「お父さんお母さんにはこんなことさせられないでしょ?」


俺にはいいんかい!? ……いいんだよな。なんか返答が分かってしまったから、黙っておこう。










という訳で書初めの準備。なんだかんだと言い合いをして、結局サツキの言うとおりの行動をすることになった。


「サツキはまず『新星発見』を書くとしてだな。目標は何書くんだ?」


「そんなの書いてからのお楽しみだよ。先に答えだけ聞こうだなんて駄目だよ、ヤス兄」


……それもそうか。ええと……俺は何書こうかな。書初めの紙って縦に長いんだよなあ。少なくても3文字。出来れば4文字がいいよな……おし、あれに決めた。

紙を文鎮で押さえ、筆を墨汁につけて、すっと書き始める。字の上手い下手は問題じゃない。これは勢いが大事なんだ。


「よし、できた……」


うん、なかなかの力作じゃないかな。かなり満足だ。


「どれどれー、ヤス兄は何書いたの?」


「ん? 見るか? いい言葉だぞ」



『平和主義』



「うん、いい言葉なのかもしれないけど、ボツ」


「ええ!? 何で駄目なのさ!?」


「向上心が感じられないし、チャレンジ精神が感じられないし、何より面白くないのが大減点だよね」


……書初めに面白さを求めるなよな。サツキ。


「それに比べて私の見てよ。完璧だよ!」


ほほう、どれどれ?



『安産祈願』



「おいおいおいおい!! なんて事書いてんの!? 駄目だろそれは!? ママは高校1年生とか笑えなさすぎだから!」


「お母さんが妹を頑張って産んでくれますようにって思いを込めただけなんだけど……ヤス兄、どんなのを想像したの?」


……サツキめ、絶対俺がこういう反応するって分かってて書いたな。そうさ、その通りに焦ったさ。何が悪い。

ってかまだ妹が出来るかどうかも分かってないのに気が早すぎだろ。サツキの奴。


「次は自分の目標を書かないとね」


そだよ。自分の目標を書く奴のはずなのに、母さんの目標を書くなよな。





2枚目完成、今度はちょっとだけ冒険心を取り入れた文面にしてみたぞ。


「ヤス兄、できたー? 私は出来たよ」


「おお、俺も出来た出来た」


さて、第2ラウンドサツキのはどんなのかな?


「ヤス兄、今度は同時に見せっこしよーね」


「おう、いいぞ」


『せーの!』



『七転八倒 ヤス』


『勇気鈴々 サツキ』



「……」


「……」


「ヤス兄、それ絶対7転び8起きと間違えたでしょ」


「サツキこそ、りんの字が間違ってるぞ。『鈴』じゃなくて『りりしい』の『凛』だからな」


……俺らバカだな。


「……もう1回、今度はまた別のを書こうか、サツキ」


「そだね」






第3回戦、いつの間にか俺とサツキの戦いに様変わりしている、どちらが相手を納得させる言葉を作れるかという戦いだ。


「いくよ、ヤス兄!」


「こい、サツキ!」


何この掛け声と思いながらも楽しんでいるサツキと俺。


『せーの!』



『走りぬく』


『兄いじり』



「……おい、サツキ。それがお前の今年の目標か?」


「うん、この前ケンちゃんとも、今年はどっちがどれだけヤス兄をいじれるか勝負だねって話してたんだよ」


そんな勝負しなくていいから!


「ヤス兄のもやっとチャレンジ精神がある感じの文になったね。それ、ヤス兄の今年の目標にしようね」


……走りぬく……か。頑張って走りぬくか。


「最後はやっぱりこんな文字でどうかな、ヤス兄」


俺の耳元でささやくサツキ。


「ふむふむ……ちょっとというか、かなりくさいけど、それがいいんじゃないかな」


「くさいは余計だよ」


すまんすまん……という訳で、サツキと2人で書いた最後の4文字。



『家族の絆』



うん、オッケーオッケー。いい感じに書けました。んじゃサツキ、言葉どおりこれからも絆を大事にしていこうな。

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小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
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