31話:それからの3日間
月曜日の新入生歓迎会を終え、火曜、水曜、木曜の3日間は比較的穏やかに過ごした。
……まあ、サツキとの朝のドタバタ、ケンとの言い争いを穏やかというのかは分からないが……。
変化があったとすると、たびたびユッチが1年3組の教室に現れるようになった事だ。どうやら、俺からアオちゃんを遠ざけておこうと言う狙いのようだ。
休み時間のたびに、教室にやってきて睨みつけていくのは勘弁して欲しい。
部活の練習は、先週のペースより速くなり、ついていくのが結構きつくなった。
基本的に練習はいつも学校の周りを走って回る、と言う事だ。
ペースは日によってまちまちで、きつくしたいと思えば、速くなるし、今日は疲れていると思えば、スピードを緩めるとの事。
ただ、きつい中でも他の連中とのチームプレイとかがいっさい無く、ただただ自分だけでできる『走る』と言う事、それが俺はだんだんと好きになっていってるのが実感できた。
そういえば、三国志大好きな軍師ポンポコさんは短距離のマネージャーになった。
用具を運び出したり、計測をしたりと忙しそうに動き回っている。
いままでウララ先生だけだと手が足りなかったみたいなで、選手がいろいろしてたみたいだけど、おかげで選手が練習に集中できるようになったのかな?よく知らない。
長距離に来てくれたら、むさい中に一輪の花が咲いたのに……無理か。
長距離より、短距離のほうがやらなきゃいけない事が多そうだもんな。
ケンは、ちゃんと練習してる。ってかウララ先生の飴と鞭の使い分け方がすごい上手い。
ケンはさぼろうとはした事ないけど、いいかっこしようとして、無茶をする。そんな時はまず怒る。しかも頭ごなしに怒るんじゃなくて、何が悪いのかを説明しつつ怒る。さらにすごいのは、道しるべを見せた後に、褒めるのだ。
例えば、流しの方法。前に言ったかもしれないが、本練習の前や後に、70〜80パーセントの力で走ることを言う。
あれは100パーセントで走ってはならない。
理由として、流しと言うものは本練習の為のウォーミングアップの位置づけ、もしくは練習後のクーリングダウンに行う物だ。それに対して、100パーセントで走ってしまっては、本練習と一緒になり、ウォーミングアップにはならない。
また、十分暖まっていない体で100パーセントで走ると、肉離れなど、怪我をしやすい。
もう一つ、全力疾走の時は、フォームの事はあまり考えられない。そのフォームの修正として流しがあるのだ。
ケンは、70パーセントと言うのがよく分からないらしく、どうしても速くなるらしい。
そこで、全力疾走がケンと同じくらいの人と、ケンがスピードを覚えるまで一緒に流しをしてもらう。
ケンが覚えたと判断したら、次からは1人で走ってもらう。
そこまで出来るようになったら、フォームの事を考えながら走らせるようにする、と段階を踏ませて流しを覚えさせていた。
その間に、さらにはフォームが縮こまらないように気を使って実行していた。
70パーセントを意識しすぎて、気持ちよく走れなければ意味が無いらしい。
……先輩によると、流しをここまで出来なかった変なやつはケンが初めてらしいが、目的についてはあまり知らないままやってた人もいるらしく、勉強になったと言う顔をしてた。
……そう言う意味では役に立ってるな、ケン。
そして、出来るようになるたびに褒め、そして次の段階へ進ませる。従順な犬だからあそこまで上手くいくのかもしれないが、それでも見事だ。
長距離メンバーの1年たちはこんな感じだ。
俺より速いヤマピョンは、相変わらず俺の後ろを走る。ペースは全く問題ないみたいで、息一つきらさない。
けど、相変わらず先輩とは話しようとしないし、いつも先輩と一緒にいるマルちゃんやノンキの1年生とも話をしない。人付き合いは最低限でいいと言う俺の言葉を代わりに実行してしまっている。
会話も単語だけで、意味が通じないときもある……。俺が先輩の方に質問にいこうとすると、袖をつかんで抵抗する等、ほんと扱いに困る。
小太りのマルちゃんは、毎回1、2周でダウンして、校門の前で座り他の人が走り終わるのを待っている。
……そのままじゃ絶対やせない!と思うのだが、俺を避けるのでどうもしない。
あの時はやせさせようと思ったが、よくよく考えればやせれないままマルちゃんがふられたってどうでもいい。
よく知らないノンキはやる気が無いようで、ペースについてこようとせず、適当に自分のペースで走り、そのまま時間になったら練習を終えている。
マルちゃんとは話すようになったみたいだが、俺はまだ話した事が無い。
なんかバラバラだな。大丈夫か!?長距離の1年生。
何回か練習して、毎回、学校の周りをぐるぐる走っているばかりなのが飽きてきたので、別の場所を走りたいなと思うようになった。
それで、先輩に別の場所へ走りに行かないのかと聞いたら、部活内の活動中に顧問の目の届かない所で事故を起こされると、顧問の監督不行き届きになるから、教師なしには遠くにはいけないらしい。この周りなら、車もそんなに通らないからウララ先生もグラウンドから走っている姿が見えるので、不慮の事故という扱いになり監督不行き届きにはならないとの事。
5、6年前まではいろんな所を走っていたけれど、その頃にある中学校で顧問が不在の時に事件(顧問の人は事故と言ってるらしい)が起きた為に今のような状況になったんだとか……。
……ここの外周を回っているけど、ウララ先生の姿、ほとんど見えないじゃん。
ぶっちゃけ今の状況も監督不行き届きな気もするのだが……。その辺は大丈夫なんだろうか?
ってか監督不行き届きとかそんなこと言うなら、長距離専門の顧問をつけてもらいましょーよ……。
まあ、こんな感じで3日間が過ぎていった。