30話:新入生歓迎会、終了
ポンポコさんがいるテーブルの席に俺は今向かい合って座っている。
特に話す気はないので、オレンジジュースをチビチビと飲み、時間をつぶす。
「…………」
「…………」
2人共しゃべらず、静かな時間を過ごす。
こんな時間も好きだな。普段はサツキやケンとがやがやとやかましく過ごしているから、なんか新鮮だ。
そういやサツキ、大丈夫かなあ……。ま、サツキなら俺なんかいなくたって平気だろう。
いつも俺を馬鹿にしてるし。
「……君は……」
お?なんか話しかけてきた。
俺も顔を上げてポンポコさんを見る。あ、眼鏡で気付かなかったが、目がおっきい、ぱっちりしてる。それでいて、たれ目なんだな。たれ目と言うのは俺的に結構好きだ。
「本当に変態か?」
初対面の相手に聞く最初の質問がそれかよ!
「……ちがう、確かにすごいシスコンなのは認めるが、別に変態じゃない。女の子に股事件は事故だし、アオちゃんに迫ったりなんかしてない。」
「……そうか、それならいいんだ。世界から変態は抹殺すべきだからな」
怖いよ!ポンポコさん!何が君をそこまでそうさせるの!?
「家族が好きというのは私はいいと思う。私も兄弟がいるが、とても気に入っている連中だ。ヤツラはそんな事言うと調子に乗るから、死ぬまで言わんがな」
「……ポンポコさんも、兄弟いるんだ?」
「いるぞ?兄が3人に弟が2人居る。男ばっかりの暑苦しい家族だ。」
大家族だ!6人兄弟か。どんな感じなんだろう?
「……母親もいないしな」
「え……!?」
なんかまずい事聞いたか?
「ああ、違う。言い方が悪かった。母は、以前、父の単身赴任が決まって、それについて行ったんだ。あの夫婦は本当に困る!もうすぐ50にもなるのに、すごくいちゃつくのだ!小学校の時なぞ、父が会社に有休を取ってまで母と授業参観に来て、教室内で2人でキスをしたんだぞ!授業中に、公衆の目の前で!馬鹿か、馬鹿なのか!?」
ポンポコさん、性格が変わっているよ!
……うちの両親も別にどこでも結構いちゃいちゃしてたりするけど、それって駄目なのか?
「私は恥ずかしくて他人の振りをしていたが、授業が終わったら抱きついてきた、ここまできたら他人の振りなんて出来なかった……恥ずかしかった……」
……ごめん、サツキ。俺、小学校の授業参観、同じ事をサツキにしてた。
今ここにいないサツキに心の中で謝罪をしておく。
「さらにだな、兄弟達もすごいのだ……高校になって、やっとなくなったのだが中学までは………………………………だったり…………」
やばい、さっきから俺がサツキにしてる行動を全部言われてる!ポンポコさん達の兄弟よ。あった事は無いけど、きっとめちゃくちゃ気が合いますね。
これ以上続くと俺の羞恥心が耐えられん!
「そ、そう言えば!」
「……なんだか無理矢理な話題転換だが、なんだ?」
よかった……何とか乗ってくれた。しかし、話す事が思いつかん。……そう言えば、三国志が好きって言ってた!
「ポンポコさんって、三国志が好きだから、軍師って二つ名なんだよね?俺は演義しか読んだ事ないんだけど……じゃあ、どの軍師が好きなの?俺が知ってる人だと……孔明、ほう統、徐庶、姜維……くらいかな。」
「そのかたより方はなんだ。わざとなのか?蜀の人間ばかりではないか。……仕方ない、ヤスと言ったな、君に三国志の面白さを語ってやろうではないか。」
仕方ないとか言いながら、めちゃくちゃ嬉しそうですよ!ポンポコさん!
……しまったな、わざわざ変な言い方しないで、魏とか呉の人間も言えばよかった……
「いや、知ってるよ。魏で言うと、司馬懿、荀いく、程いく。呉では徐盛、陸遜、呂蒙とかいるよね。あれ?呂蒙は軍人だったっけ?」
なんか、そこまでしゃべるとポンポコさんの目が光った気がした。漫画ならば、キラーンって効果音が鳴りそうだ。
「……ほう、そこそこには知っているではないか。演義を読んだというのは本当のようだな。漫画を読んだといった輩であると、有名どころ以外は忘れる傾向が強いのだが、そういうことは無いようだな。三国志を知る時に、まず漫画を手に取るというのはとっつきやすさという点から良い手段だとは思うが、それで満足せず、小説も読んだ方がいい。君は語りがいがあるぞ」
やばい!言わない方がよかったか?これは長引きそうだ。何か手は無いか……
「本来ならば、正史三国志も読んでいた方が嬉しいのだが、演義しか読んでいないのならば、それで話を進めようか。いいか、三国志を愛するならば、魏、呉、蜀だけではなくて、きちんと黄巾の乱の時代から、最後に呉が滅ぼされ、晋による天下統一がされるまでを考えなければ駄目だ。この間には、魏、呉、蜀、だけでなく多くの国が建ち、滅んでいった。それぞれにドラマがある。だからこそ魏、呉、蜀の軍師だけでなく、別の国にいた軍師も見ていくべきだ。例えば、君主が策を取り入れてくれなかった悲運の軍師と言えば、呂布の元にいた陳宮、董卓の元にいた李儒などだな。確かに彼らの策はあまり実行されなかったが、その知謀は他に遅れをとらないと思わないか?」
始まってしまった!しかもなげえ!ノンストップ、ほとんど息継ぎなしで語り続けてるよポンポコさん。
「……ふむ、乱雑に人を並べていっても混乱してしまうようだな。ならば、時系列で話せば分かりやすいな。最初から語っていこうか」
やめて!読んだ時10時間以上、いやもっとかかったんだよ!話してたら確実に20時間越えるよ!
「そういえばさ!」
「なんだ、私が三国志の話を語っているのに、邪魔をするというのか、それでも君は三国志を愛しているのか!」
愛してません!そこそこ好きだけど、愛しているなんて言えません。
「まったく、自分も語りたいからと言って、人の邪魔をするのはいただけないな、きちんと君の番もあるから待っていろ」
そう言う理由じゃないですよ!この話を終わらせたかっただけです!
……その後、新入生歓迎会が終わるまでの1時間半、ずっと語り続けられた……ってか俺の番はどこへ?
「じゃあ、そろそろ遅くなってきたので新入生歓迎会はこれで終わります!みなさん気をつけて帰って下さい!」
ポンポコさんの話を聞いてたら、ウララ先生から終了の号令が聞こえた、この時まだ、黄巾の乱の収束までしか話してない。
3人の義兄弟の契りの場面をしゃべり過ぎです。確かに重要ですが、3人のそれぞれの視点から演技までしなくていいです。……ってか、まだ軍師出てきてませんよ。軍師について語るんじゃないんですか?
「む、残念だな。今日はここまでか、また語り合おう。その時には正史も読んでいてくれると嬉しいぞ」
語り合ってない!ポンポコさんがずっと語ってただけ!
もういいです……。別の人としていて下さいよ。
「ん?不満そうだな……もしかして君は日本史の方が好きなのか?」
よし、ここでうなずいておけばもう俺にはとばっちりは来ない!
必死でうなずいた!がくんがくんと首が揺れる。
「ふむ、私も源平合戦、建武の新政の前後、安土桃山時代、現代史ならば大好きだ。他の部分でも1日程度なら語る事が出来るぞ。今度はそれにしようか?」
ってどんだけ歴史好きなんだよ!源平合戦だとポンポコさんは何日話し続けるの!?
もういいです……。別の人として下さい。
でも、このポンポコさんと言う人はとても面白いと思った。こんな人となら仲良くなってもいいかなと思う。ポンポコさんの兄弟達とも気が会いそうだし。是非会ってみたい。
一人当たり、400円を徴収して、ウララ先生が代表して払う。
店を出た後、解散となった。
その後は、ケンと帰った。もうずいぶん遅くなっちゃったな。
ケンと適当な話をしながら家路につく。
ケンと別れ、家に着いた時間は、22時。ねぼすけのサツキはもう寝てるかな?
「ただいま……ってサツキ玄関でどうしたんだ?まさかずっとそこにいたの!?」
玄関でサツキが膝を抱えてうずくまっていた。
「……あ、おかえり。……ヤス兄、遅かったね」
サツキがこちらに顔をむけた後、すごく悲しそうな顔になった。
「……あ、ごめん、今日陸上部の新入生歓迎会だったんだ」
「あ、そうなんだ……遅くなるんだったら、今度から連絡してね!」
「……ごめん」
「いいよ、別に。ヤス兄だって高校の付き合いがあるでしょ?せっかく新しい環境になったんだから、楽しまないとね!」
無理して笑おうとするサツキがいる。
サツキがこういうやつだって事忘れるなんて、どうやら人付き合いなんてどうでもいいとか言っときながら、ケン以外の高校の人たちであるヤマピョン、ウララ先生、ポンポコとかとしゃべってて、浮かれすぎてたみたいだ。
「ごめん、絶対に今度からはきちんと連絡する……いや、もう遅くならない」
サツキの頭をなでながら、そう言う。サツキはうっとうしそうな顔になったり、ホッとした顔になったり、よく分からない顔をする。
「いいって。ヤス兄がいつも明るくなってくれるのは私も嬉しいし」
ふう、サツキにこんな無理した顔をさせるなんて最低だな、俺。
今後こんな事が無いように、明日からはもっと気を引き締めていかなきゃ!
ついでに、いつでもサツキと連絡が取れるように、俺も携帯を持つかな……。