290話:作戦会議
12月15日、月曜日。
テストは……やばかった。今日から順々にテストが返ってきてるんだけど、軒並み平均点をきると言う大惨事に見舞われてしまっている。これから返ってくるテストもほとんど手応えと言うのを感じていないから、きっと同じくらいの点数なんだろうなあ……。
やっぱりテスト週間にも関わらずユッチの誕生日、ついついユッチとサツキと遊んでしまったのが痛かったな。……まあしょうがない。ユッチの笑顔のほうがテストより大事だ……何アホな事考えてんだ自分。
今は昼休み。また屋上にのぼってポンポコさんとユッチ、今日はもう1人キビ先輩が参加してと昼ご飯を食べながら話してる。
「それでは第3回、『長距離陸上部の顧問は誰だ!?』作戦会議を始める」
ポンポコさん、前回と微妙というかかなり作戦名が違っている気がするのですが……野暮な事を聞くのはやめよう。
「第2回はユッチが途中退場してしまったため、ほとんど話が出来なかったな。その後ヤマピョンが部活に来なくなったり、テスト週間に入ってしまったりして中々時間がとれなかったが、今日こそ具体案を詰めていこう」
隊長、未だにヤマピョンは部活に来ていません。ま、それは置いとこう。
「前回の戦績を報告しよう。前回私とヤスの2人で顧問になってくれる先生を探しに歩き回った。結果、全滅だった」
『ヤスがいるから嫌』なんて言われた、悲しい出来事が思い出される……。
「が、まだ聞いていない先生もいる。その中で部活の顧問になっていない、あるいは顧問にはなっているが、大して忙しい部活の担当ではない先生をピックアップしてみた。2年数学担当の元木先生、1年音楽担当のララ先生、1年生理科担当のキキ先生の3人だ。今回はこの先生達がターゲットだ」
ふむふむ……キキ先生ってあのキキ先生だよな。なんとも顔をあわせにくいんだが。ムムちゃんは元気にしてるかなー。
「ウララ先生に確認したところ、この3人の先生なら、本人さえやる気になってくれたなら、時間的にも余裕があるので顧問になってくれることも可能だと言うことだ。しかし、前回と同様ただ歩き回ってお願いするだけではきっと顧問にはなってくれないだろうと思う」
……ふむふむ。
「そこで聞きたい。何かいい作戦はないか?」
……さあ。
「はいはいはいはいはあい!」
「ユッチ、元気でよろしい。けどな、『はい』は1回でいいぞ」
「……ヤスってば、なんだか口うるさいお父さんみたいだあ」
やめい、この年でお父さんなんて呼ばれたくないわい。
「それでユッチ、ユッチの作戦とはなんぞや」
「部活参観! 先生達にね、『ボク達こんなに頑張っているんです!』って見てもらえば、きっと誰か1人くらい、顧問になってくれる先生がいるよお!」
……先生達ってそんなに性善説に基づいた行動をしてくれるもんなんかなあ。
「ユッチ、残念ながら長距離陸上部は弱い、そして私とヤスくらいしか今のところやる気になっている人がいない」
「……そうなんだあ。そうだよねえ……いい案だと思ったのにい」
いや、普通に考えたらきっといい案だぞ。落ち込む必要はないぞ、ユッチ。
「人質とって脅せば誰だって言う事聞くんじゃない?」
「キビ先輩、犯罪ですから!」
漫画みたいに上手くいく訳ないじゃないですか!?
「そういうヤスは何かない?」
「んー……やっぱり外堀から埋めていくのが一番だよな」
「ヤスう、『そとぼり』ってなんだあ?」
「昔々、そこら中で戦がまだまだあったとき、自分たちの村を守るため村の周りには堀があったんだ。城跡を見ると白の周りってでっかいくぼみがあるだろ?」
「うんうん」
「んでだな。城を攻める時にはまずその外堀を埋めると、どこからでも攻められるようになるんだ。この事から、外堀を埋めると言うのは、ある目的を達するために、周りにある障害を取り除く事、もしくは遠回しな作戦をとる事を言うんだよ」
「ヤス、それが顧問を手に入れようという話と何か関係あるの?」
ええと、実はあまり関係ないんです。最近覚えたうんちくを語りたかっただけっす。
……こんな事は言えないな。
「えっとですね。何が言いたかったかと言うと、直接先生本人にお願いしても断られるんだったら、先生の家族とかをまず説得してから、家族に『顧問をやれ!』って言わせたらやってくれるんじゃないかなあとか思ったり」
「ヤス、どうやって家族にお願いするのだ?」
「……さあ?」
今適当に思いつきで言っただけだし。
「……ヤス、そう言うのを『机上の空論』と言うのだ」
はい、その通りです。すみません。
「ヤスう、『きじょうのくうろん』ってなんだあ?」
「机の上でやってみたら、どう考えても上手くいくのに、実際にやってみると全然上手くいかない。頭でっかちになってて動きが全く伴っていない考えの事を『机上の空論』というんだぞ」
「ふうん……じゃあ『きじょうのくうろん』なんて言わないで、そう言ってくれればいいのにい」
机上の空論と言ったのは俺じゃないです。俺に文句を言わずポンポコさんに言ってください。
「あ、でも前にヤスってキキ先生のお子さんと仲良くしてたよねー」
……ムムちゃんの事っすね。別に仲良くしてた訳ではないと思います。
「キキ先生も愛娘のお願いだったら聞いてくれるんじゃない?」
「ふむ……それならヤスがとりあえずキキ先生の攻略係だな」
えええ!? なんかキキ先生には恨まれてるから嫌ですよ!?
その後、なんだかんだとポンポコさんとキビ先輩に説得され、キキ先生をおとさなくちゃいけなくなってしまった……なんてめんどい仕事を押し付けるんだ。
「頑張れヤスう! 応援してるう!」
……ユッチ、応援してくれるなら交代してくれ。