29話:新入生歓迎会、中盤
全員の自己紹介が終わり、各々が好きな席に移動し、各自で話し始めた。
自分の今居るテーブルにも、先輩達数人が来て、話しだす。
立ちっぱなしで話すのも嫌だろうし、俺もここから移動したい。……席譲ってケンの所に移動するか。
というかヤマピョン、自己紹介終わったんだからいい加減袖を離して下さい。
なんか、こいつの世話係を押し付けられ、生け贄にされた気分だ。
「ヤマピョン、俺は席移動するつもりなんだけど……」
「……お、俺……移動……い、嫌……?」
俺は移動するのは嫌なんだけど……?という事だな。きっと。
「うん、移動したくないんだったらそれでいいし。じゃ、俺は行ってくるから」
そう言い残し俺はグラスを持って、ヤマピョンとわかれる。
きょとんとした顔をしてたけど、まあ放っといても大丈夫だろう。
あ、サツキへの連絡まだしてないな……。でも公衆電話ないっぽいし、また後でいいか。
とりあえず、ケンのいる所へいく。
……ケンはウララ先生と会話中だった。
「ウララセンセ、何でそんなに冷たいんですか!?さっきのスルーパス、華麗で素敵でしたよ!でも俺をもっと構って下さい!犬は寂しくなると死んじゃうんですよ!」
告白のスルーすら褒めるのか……。たまには怒ったらどうだ?
後、それは犬じゃなくてウサギだから!
「寂しくて構って欲しいのはヤス君でしょ?ケン君は平気だもんねー」
それ違うから!だいたい、まだその言葉覚えてたの!?それケンが言ったの最初のホームルームだったよ!?
ケンは頭をなでられると、ものすごく嬉しそうになってしまった。
お前、そんな簡単に扱われるなよ。完全に手玉に取られてる……俺は情けない……。
「うん、平気だもん!」
「ケン、気持ち悪い!!『もん』って言うな!『もん』って!」
俺はケンに一言つっこんでおいて、ケンとウララ先生のいるテーブルの席に着いた。
「……なんだよ、ヤス。俺と先生の甘い時間を妬きにきたのか?」
「甘い時間って思ってるのお前だけだから!先生は計算してやってるって!あの胸にだまされるなよ!」
「……ヤス、お前は先生をなんだと思ってるんだ?」
「ケンをたぶらかしてる上に、くっつこうとも突き放そうともせず、キープしてる悪女」
うん、まさにそんな感じだ。我ながらいい表現が出来たな。
「…………」
「…………」
「ん?ケンどした?いきなり黙って」
「…………先生の顔見てみ?」
「え、ああ?」
そういや、先生隣に座って…………ってやばい!また思いっきり本音を言ってしまった!
「ヤス君、君とはいつかじっくり話し合わないと行けないみたいね……」
「いや、俺に対する行動と、ケンへの仕打ち以外は良い先生だと思ってます!英語の授業もわかりやすいし、発音きれいですし。俺もあの授業なら英語の成績あがるかもなー」
「今更褒めたって無駄よ。しかも最初の半分は褒めてないし」
「褒めてませんから。実際もっと接し方を改めるべきだと思います」
「えー、君たち2人にはこんなに愛情注いでるじゃない?まさに二つ名の狙い撃ちどおりに2人をピンポイントで狙ってるよ。何がそんなに不満?」
ケンの頭をなでながら、そんなことを言う。
もうケン、顔を緩ませるの禁止!情けなくて顔見てられねえよ!
「というかそれってひいきになってません?いけませんよ、教師がひいきしては……ってかウララ先生の二つ名ってそんな所から取ったんですか?」
「ひいきじゃありません。今後問題になりそうな生徒を先に手懐けておこうとしてるだけです。二つ名は別に由来がありますよ。「山本リンダ」の「狙いうち」という曲からです」
聞いた事ないな。どんな歌だ?
「ウララーウララーウラウラデーウララーウララーウラウラヨーという歌ですね。高校野球の甲子園でよく流れていますよ」
……あんま野球の話はしたくないが、まあしょうがないな。
「本当はこの歌は絶世の美女が男共を落として玉の輿に乗ってやるわって歌なんで、甲子園に流すのってどうなんでしょうね?」
「うわ、ウララ先生ってやっぱりそう言う性格なんですか?」
「…………ウララって入ってるから選んだだけなんですが、そう言う目で見るんだね、ヤス君は。本当にヤス君って口が軽いね、次の授業は覚悟してなさい!」
「ごめんなさいすみません許してください申し訳ありませんでしたもう2度と言いません」
「許しません、これは私の生徒に対する愛の鞭ですからね!」
「ウララ先生はサドですか?今日もトップバッターで自己紹介させたり、過去の汚点を暴露させたりして、それが先生の愛の鞭って言うなら先生はサドに決まってます!」
もう俺はさっきから本当に先生に何の遠慮もなく言いたい放題言っていた。
この先生の雰囲気がそうさせたのかもしれない。
「あれはヤスの自爆だろ?ウララセンセのせいにするなよ」
ケンが先生を援護するが、お前もずいぶんひどい仕打ちを受けてる気がするよ。
なんでそんなにウララ先生を好きになれるのかが分からん。胸か?決定打は胸だったのか?
「いや、ケンは今目が曇ってるんだ、いつか振り返って今の自分を想像してみろ、なんであの先生にしっぽ振ってたんだろうって過去の自分を呪う事になるぞ」
「……ヤス君、明日から覚えてなさい……」
……やばい、完全に先生を怒らせてしまった。さっきから口はいくらでも軽くなってしまっている。ケンが近くにいるからかな。
……また死神が先生の中に降臨したみたいだ。
先生の手に鎌が握られているのがわかる。
あれで俺の肉体と魂を切り取るんだ!危険だ、危険すぎる!
これ以上ここにいるのは怖いので、逃げてきた。
さっきいた所へ戻ろうかと思ったが、もう席が埋まっていて、自分の居場所は無いっぽい。あ、ヤマピョンが縮こまってるな。たまには頑張れ、ヤマピョン。
さてどうしようかなと周りを見渡してみた。
アオちゃんがこっちに手を振っていたが、黒い弾丸ことユッチが、俺に向かって威嚇している。絶対こっちに寄ってくんなよと……。
まあ、元々そっちに行くつもりは無かったんだから、どうでもいい。
そんな訳で、ドリンクバーで新たに飲み物を手に入れて、適当に空いてる席に座る事にした。
その席には軍師、ポンポコがいた。