288話:ちょっとだけ頑張ろう
アップも終えて、今日の練習開始。
「それでは、400メートルのスタート地点に立つ。そしてサツキに200のスタートラインに立ってもらい、それぞれがタイムを読み上げるからな」
ふむふむ。確かにサツキが200メートル地点に立っている。
あ、今手を振った。
「先ほども話したが、400メートルを80秒。つなぎの200メートルが100秒。これを15本。今回、つなぎの200メートルをゆっくりなペースに設定したつもりだから、何とかなると思う」
了解っす。
「400メートルを80秒で走れれば、5000メートルで17分が切れる。17分切りが果たせたら、とりあえず静岡東部地区ではちょうど真ん中あたりのレベルまでに追いつくな」
……これでようやく真ん中レベルか。まあ、4ヶ月で真ん中レベルまで達せるってのは結構すごいよな。
「んー……俺って結構強くなってんのかな? あんまり実感ないけど」
「大会がないから実感がわかないのも仕方ないかもしれんな、来年春を楽しみにしておけ」
ラジャッ! ポンポコさん、来年のインターハイ予選、見てろよ。
「それではそろそろ始めるか」
ポンポコさんに促されてスタートラインに立つ。今日の練習であるインターバル走の開始。
「では行くぞ、1本め、よーい、スタート!」
ポンポコさんの合図と同時に走る。
タッタッタッタッ……、ところでポンポコさん、400メートル80秒ってどんなもんのペースで走ればいいんだ?
今までペース走では96秒とか、速くても88から90秒くらいでしか走った事ないから全然分からん。
……分からないままとりあえず走り続ける……200メートル通過。
「41、42、43……ヤス兄、43秒!」
……おそ。400メートルを80秒で走らないかんのに、200メートル通過が43秒じゃいかんだろ。
……こっからペースをあげて巻き返さないと!
腕を一旦だらんとさせて、気持ちを切り替えた後ペースをあげる。
タッタッタッタッ……さっきより風を強く感じる。スピードが上がっているってことだよな。
よし、このペースで行こう。
タッタッタッ……ポンポコさんが大きくなってきた。
「ヤス、78、79、80、81……81秒!」
……ちぇっ、ちょっとだけタイムが遅くなったか。走り終わっていったん足を止め息を整える。
「ヤス、とまるな! 歩くな! ゆっくりと走れ!」
ポンポコさん、息ぐらい整えさせてくれ。……ポンポコさんに促されて少しずつ走り始める。
「ヤス、100秒以内にサツキのいる地点まで走るのだぞ! 遅れては意味が無いぞ!」
……オニ……オニがそこにいるよ。まあ、100秒もあるんだからそんなに急がなくても大丈夫だろ。
そう思ってのたのたと走る。
「ヤス兄、スタート30秒前! 急がないと遅れるよ!」
……100秒って思ってた以上に短いんですね。あわててスピードを上げてスタートラインに立つ……あれ? 100秒もあったのにあんまり疲れが抜けてないっすよ。この状態で2本目?
「10秒前、5、4、3……2本目よーい、スタート!」
サツキの声にあわせて2本目をスタートする。
1本目は前半遅くて後半速かったからな。一定のペースで走れるよううまくペース配分しないと……。
タッタッとうまくペースを考えながら走る。80秒……80秒……。
「38、39、40……41秒!」
げっ、これでもまだ遅いのか。ペース配分ってほんとに難しいな。
ペースをちょっとだけあげて、うまく80秒にもっていけるよう走る。
はっはっ……15キロ走ってるときでもこんなに速く息が切れることなんて無かったのに、スピードが上がるだけでいきなり息が切れるな。
まだ2本目立ってのに、こんなんで15本もできるんだろうか。
「77、78……ヤス兄、80秒だよ!」
……おし、今回はうまくいった。
……でもきつい。2本目ですでにきついです。
「8本目、よーいスタート!」
サツキの声とともにスタート。ようやく折り返し地点まできた。まだ残り半分もあるのか……。
「ヤス、ファイトだ!」
頑張ってまーす……。
「79、80、81……ヤス兄、82秒!」
はっはっはっはっ……さっきから思いっきり走っているにもかかわらず、80秒が出せなくなってきた。
かなりきつい。けど残り半分もある……無理だろ。
「ヤス、いけそうか?」
「きつい……はっはっ……後7本なんて無理」
「ヤス、先の事は考えるな」
……何の話だよ、ポンポコさん。
「後7本もあるからきついと思う。『とりあえず次の1本だけ、ちょっとだけ頑張ってみよう』と思ってみる。その1本終わったらやめようくらいに思っておいていいぞ」
……ラジャ。
「それでは9本目行くぞ。よーい、スタート!」
……とりあえず、この9本目だけ、ちょっとだけ頑張ってみよう。
「ヤス! ラスト15本目いくぞ、よーい、スタート!」
ポンポコさんの声とともに、15本目スタート。へろへろになりながらも何とかここまでこれた。
10本目から12本目あたりはこれ走ったらもうやめよう……と思いながら走ったけど、毎回毎回サツキとポンポコさんに叱咤され、『次走ったらやめよう』と思いながらも、何とか走ってこれた。13本目ぐらいになると、終わりが見えてきたので頑張れた。
……ようやく最後の走りだ。最後は80秒以内で走れるよう頑張ろう。
タッタッと1本目2本目のときのような軽快な走りはできず、ドタドタとしたみっともない走り方になってしまってる。
それでも最後まで走りきってやる!
「38、39、40……ヤス兄、41秒!」
……ちぇ、ちょっと遅れてんのか。
「後200だよ、頑張って!」
サンキュ、サツキ。
……ラスト200メートルだ。
だんだん、ゴールに立っているポンポコさんに近づいてきた。
「ヤス、ファイトだ! 74、75、76、77、78……79秒!」
……ゴール! 終わったあ!
ゴールとともにばたりとグラウンドに倒れる。
……ぜえ……はあ……。
ほんとは走りきっていきなりぶっ倒れるなんてもってのほかなんだけど、休ませてくれ……。
「ヤス、お疲れ。頑張ったな」
……ポンポコさんも今日はきつかったのを見越してくれたのか、何も言わずにいてくれる。
「初めてのインターバル走の経験だったから、かなりきつかったと思うが、これをやると少々スピードが速くてもついていけるようになるからな」
……了解っす。
「陸上競技場が使える毎週土曜日は、これからこういうスピード練習をするからな。覚悟しておけよ」
……まじすか……こんなきっついのが毎週あるんすね。
「そんなこの世の終わりのような顔をするな。慣れれば今日ほどはきつくなくなるはずだ」
ポンポコさんのきつくないはかなりきついに入ると思われますたい。
「平日は今までどおり長い距離を走る。こちらも徐々にペースを速いペースに切り替えていこう」
……オニだ……真のオニがここにいるよ。
おはようございます、ルーバランです。
『あとちょっとだけ頑張ってみよう』と言うのは、マラソンランナー君原健二さんの考え方です。
マラソンを走っているとき、『あの電柱まで走ったらやめよう』と思いながら走るそうです。私もその言葉を参考に走ってました。
http://plaza.rakuten.co.jp/judodistance/diary/200804160000/
↑とりあえずこのページとか見てみると、もう少し詳しく載ってます。
この考え方はミヒャエルエンデの『モモ』という本の『ベッポ』という登場人物も同じ考え方だったりします。気が向いたら、図書館へ行って『モモ』、読んでみてください。
それでは今後ともよろしくお願いします。