284話:受験勉強、サツキと
「ヤス兄、勉強教えて」
……3者面談から家に帰ってきて、最初の一言がこれ。
「夏休みに約束したよね。勉強見てくれるって。でもヤス兄全然見てくれてない」
「や、それはサツキが部活から帰って夕飯食べてケンと遊んだ後にすぐに寝るからだろ? 教える時間がないじゃん」
「そんな事ないもん、勉強しようと思えばできたもん」
……『やろうと思えばできた』と言うのは『できなかった』と同義なんだぞ、サツキ。
「……まあ、構わないけど。どれ勉強すんの? 苦手教科をとりあえず無くそうと思うんだけど、サツキの成績ってどれくらいだったっけ?」
「数学3、国語2、英語4、社会2、理科2、体育5、音楽4、美術3、技術家庭が3」
ええと……28か。まあ、大山高校の合格は31くらいって言われてるから、どうにかなる成績だろ。
「ってか社会とか理科が悪いのは暗記しろとしか言いようがないんだけど」
「それじゃ暗記の仕方を教えてよ」
「……知らん。メモリーツリーでもやってみたら? 全く俺は覚えれなかったけど」
万人受けしないやり方を進めるなよな。まったくもう。
「自分ができなかったやり方をおすすめしないでよ。ヤス兄」
「んー……はっきり言ってあんなしちめんどくさいやつ作るより、俺的にはただひたすらに問題集を解いていくほうが覚えられたな。サツキは英語の成績はそこそこじゃん。どうやって覚えたんだ?」
「え? えっとね、単語帳を読むだけだよ?」
……それだけで英語を覚えられるとはうらやましい。
「それじゃ、国語はどうやって成績あげるの?」
ええと、俺も国語は成績3だったからそんなに自信ないんだけど。
「現状を知るんだったら、とりあえず何か問題をやってみるのがいいよな……とりあえず何か呼んでみるか? 太宰治の『羅生門』とかどうよ」
「別にいいよ?」
よし。んじゃ羅生門を読んでみよか。
「……ある日の暮方の事である。一人の下人が、羅生門の下で雨やみを待っていた」
「そういえばヤス兄、羅生門って何?」
「京都にあったでっかい門のこと。今はもうないけど、花園児童公園っていう公園の中に羅生門跡というのが残ってるらしいぞ。見てもしょうがないような石碑が残ってるだけだけど」
「へー」
……興味ないのに聞いたな。サツキのやつ。
「広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている」
「ヤス兄、キリギリスは怠け者ってほんとなのかな?」
「や、実は結構働き者らしいぞ。キリギリスの活動時期は夏から秋にかけてで、冬は卵なんだって。だからありに食べ物をもらいにいくことなんてありえないし」
「へー、そうなんだ」
「むしろアリの方が怠け者なんだぞ」
「あ、それ知ってる。実はアリは80%しか働いてなくて、残り20%は働かないってやつだよね」
「そうそう、それ」
「でも働かないアリも、環境が変わると働くようになるんでしょ?」
「実は違うらしいぞ。働くアリ達を全部引っこ抜いた環境に変えると、働き始めるのは次に働いていたアリ達なんだって」
「え、じゃあ働かないアリは?」
「働かないまま。怠け者はどうなろうとも怠け者ってことらしいよ」
「へー」
「でも、まだその話は研究中らしい。堂々と言い切るのは絶対に駄目だぞ」
間違った常識として広まってしまうと後々訂正がとても大変だし。
「何でヤス兄そんなこと知ってるの?」
「全部ケンから聞いた」
とそんなことはどうでもいいじゃん。……今は羅生門の話だろう。今は2:8の法則の話でもアリとキリギリスの話でもないぞ。
「続きを読むぞ。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをする市女笠や揉烏帽子が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない」
「そういえばヤス兄、著作権って何年なの?」
「50年だぞ。だから太宰治とか森鴎外とか芥川龍之介とか夏目漱石の話は誰がウェブ上に公開しても、誰が出版してもいいんだぞ」
「へえ、それじゃ中身を適当に書き換えて出版しても問題ないんだ」
……問題ないけど、普通はやらないな。
「というかヤス兄、これって勉強になるの?」
……ええと……きっとならないけど。
「もっとちゃんとした勉強やろうよ。これじゃいつものおしゃべりと一緒だよ」
サツキが口を挟むから先に進まないんだと俺は思う……しかし、ちゃんとした勉強ってどんなのなんだろう?
「んじゃ羅生門はおいといて、適当にどっかの問題に答えてみよう。ネットで適当に見つけてきた問題を言ってくぞ。改正中学の問題『あなたが、人の人生や経験を知って、頭を下げたい気持ちになったときのことを、思い出して書いて下さい』」
「地面に500円玉が落ちててラッキーと思ったとき」
……確かに頭下げて拾おうと思うけどそういうことじゃないと思う。
「『どうやら謙虚さがなくなると、人間でも機械でも何でも『わがまま』になってしまうようである』というところを読んで、あなたは何を考えましたか」
「わがままの何が悪い」
……悪かないけど。その答えだと多分落ちるよ。
「『不意に悲しくはないはすなのに、涙が流れた』とありますが、ではなぜ涙が流れたのでしょうか」
「あくびをかみ殺したから」
……うん、確かにあくびをかみ殺すと涙出るよね。
「田舎がいいか都会がいいか、どちらか一方の立場に立ち、論じなさい」
「地元がいいよね」
……ええと、こういう問題の場合はとりあえずどちらかの立場に立って答えないと0点っすよ?
「あなたが後世に残していきたいと思う日本語を一つ挙げ、その理由を書きなさい」
「確信犯」
……すでに誤用されまくりの日本語なんですが。
「サツキさ、絶対まじめに答えてないだろ。国語の記述は一般的な答えを書かないと正解にならないんだぞ」
「でもさヤス兄、まじめに答えて何が楽しいの?」
……サツキ、そんな事いってると落ちるぞ。
「とりあえず、こんなことやっててもサツキの実力どれくらいかわかんないし、過去問やってみて今どれくらい出来るのか調べてみたら?」
「うーん……そうする。ありがとヤス兄」
そう言うとサツキは勉強机に向かい、過去問をやり始めた。最近父さんが買ってきた『静岡県公立高校入試問題 平成21年度版』……俺も去年やったなあ。
「ヤス兄、今日中に1年分終わらせるから。寝ないで待っててね」
もうそろそろ21時なんですが……5教科やったら2時過ぎそう……寝させてよ。
おはようございます、ルーバランです。
働かないアリはやっぱり働かない↓
http://cbn.la.coocan.jp/blog/2009/02/post_40.html
このブログの方の私見でしたが、働かない2割のアリは防衛的役割なのだとか。働かない2割のアリがいると研究発表した人の環境は研究室で、外敵がいないから働いていないように見えるとの事……。
誰かこの話が本当かどうか研究してくれないかな。
それでは今後ともよろしくです。