283話:3者面談
12月2日火曜日。今日はサツキの3者面談の日。
中学3年生での3者面談と言えば、やっぱり進路の話。
俺が中学3年の時は早かったなー。
『……大山高校にします』
『わかった』
……5秒。学校の中でも最速。母さんが私が来る意味なかったねって苦笑いしてた。あれはあれで思い出だ。
「ヤス兄、今日はお母さん来てくれるから、授業参観の時みたいに中学校に来なくていいからね」
「や、俺は行くぞ」
高校進学という大事な分岐点に立っているサツキ。どこに進学するかでそれからの3年間がだいぶ変わってくる。俺もその話し合いに参加して、サツキの話を聞きたい。
「別に来なくて大丈夫だよ。私は大山高校進学するって決めてるんだし。学校裁量枠ってので確実にいけると思うし」
や、まあ確かに東海大会出場、県準優勝選手ならその辺の適当な高校なら人間的に問題なければ無条件合格出しそうだよな。
「でも俺は行く」
「……ヤス兄、頑固だねー。好きにすればいいんじゃない? また変質者と間違えられないでね」
あれは先生が悪い。俺が悪いんじゃない……はず。
さてと……こっそりというか堂々と5時間めの授業から抜け出し、サツキのいる中学校へ。
ケンに色々とお願いすると悲惨な目に遭うと言う事は1学期の授業参観の時に身にしみているので今回はアオちゃんにお願いする事にした。
まあ……アオちゃんもケンと同じくらい何か変な事言ってくれそうな気がしたけど……しょうがないな。
のんびりと歩きつつ、サツキの通う中学校に到着。確かサツキのクラスは3年4組だったな……ちょうどサツキの3者面談の時間が始まるくらいだろ。
教室前まで来たら、もうサツキと母さんは中に入ってるみたいで、すでに次の人が待っている。
……あちゃ、ちょっと遅かったか。
「何でダメなんですか!?」
……サツキ?
何が理由でもめてるのか知らないけど、教室内からサツキの叫ぶ声が聞こえた。
……サツキの進路で議論になるような事ってほとんどないような……何をダメだしされたんだろう。
「サツキさん、ちょっと落ち着いて。ダメとは言ってないですよ。私はただサツキさんが大山高校以外をあまり調べていないようなので、他にも高校があるから、そんなに急いで結論を出さずに考えましょうと言っただけです」
「考えました、結論を出しました。大山高校に決めました。お母さんもお父さんもヤス兄も賛成してます。これ以上何か考える必要がありますか?」
……ないな。
「でも、家族のご意見だけでなくもっと大勢の人の意見も聞いてみましたか? 私に相談してもらっても構いませんし。3者面談と言うのはそう言う為の場なのですから。別に私でなくても他の先生の意見を参考にするのもいいと思いますが」
「家族以外に誰の意見を聞く必要があるんですか? 私が高校を受験できて、思いっきり部活ができて高校生活を満喫できて……そんな生活ができるのはのはお父さんがいてくれて、お母さんがいてくれて、ヤス兄がいるからです。中学卒業したらハイサヨナラな先生に何を尋ねろと言うんですか?」
サツキ、先生にもずけずけ言ってますな。中学卒業したら中学の先生とは無関係ってのはその通りだけど。
「でもですね、ご家族の意見を否定する訳ではないですが、私たち先生のほうが色々な高校を知っていますよ。先生でなくても友達と話し合ったりしてもいいと思います」
その言い方は俺や母さんの意見を否定しているだろ……あ、母さんが静観を決め込んだ。
「友達は友達、私は私です。私と私の友達は、友達がこうするから私もこうするなんて馴れ合いの関係ではないので、どこに行くか知っていればいいです。進路は自分で決めます」
かっけえ。妹ながら先生に啖呵を切るその姿……さすが俺の自慢の妹。
「でもですね……」
「先生、大山高校の何がダメなんですか?」
「いえ、ダメとは言ってないですよ、でも」
「さっきから『でもでも』ってダメって言ってるようなもんじゃないですか!」
……まあ、どう考えてもダメって言ってるように聞こえるな。サツキに一票。
「大山高校、結構遠くありませんか?」
「ヤス兄も通ってます。別に遠くありません!」
どうどう、声のトーン落とそうな、サツキ。外で待ってる次の人らが興味津々だぞ。
「授業参観に何故かいた……あの兄ですか。同じ高校を目指すんですか」
「……悪いですか?」
睨みつけながらそんな発言をするなよサツキ。もっと穏やかに面談しようよ。
外で見てる俺がヒヤヒヤするから。
「いえ、悪いとは言ってないですよ? でも、サツキさんはソフトテニスで東海まで行っていますよね? せっかくなのでテニスが盛んな高校に行った方がいいと思うんですよ」
「大きなお世話です。私は高校では陸上やるって決めてるんです」
先生に向かって大きなお世話とか言わないほうが……サツキ、先生には媚売っとけばいいんだよ。それが一番内申点がよくなる道っすよ……そう思いながら全然媚を売れなかった自分が言うこっちゃないなあ……。
「そうですか。けれどサツキさんの成績だと、大山高校は冒険と言うほどではないけど、安全と言う訳でもないところですよ。もう少し安全圏を狙っておいたほうがいいのではないですか?」
サツキ、1学期の通知表が5なのは体育だけだったよな。主要5教科はテストで変な回答しかしないので成績が2ばっかり。確か平均するとオール3くらいだったような……真面目にやれば4ぐらいすぐにつくはずのくせに。
「別に一般入試受けなくても学校裁量枠って言う推薦枠で入れませんか?」
「ソフトテニス東海大会出場の事ですか……残念だけど大山高校にはソフトテニスの裁量枠はないですよ?」
……え? そうなの?
教室の中をのぞいてみるとサツキも母さんも知らなかったみたいで、2人揃ってぽかーんとしてる。
「はい、サツキさん。ここを読んでみてください」
「あ、はい……『大山高校学校裁量枠その1。体育的活動について。陸上競技、野球、ダンス、ハンドボール、バスケットボール(女)、バレーボール(女)における実績、適性、活動意欲(県大会出場以上、又は同程度の資質能力を持つ者)とする』……あれ?」
あ、ほんとだ。ソフトテニスはないんだね。
「なので、サツキさんの実績を使いたいのでしたら、美島南高校などのがいいかと思いますが」
「いいんです! 私は大山高校行きたいんです!」
「でしたら、一般入試になりますね。けれど、もう1度考え直しませんか?」
「先生、しつこいです! 私はヤス兄と一緒の高校行くんです!」
……やば、顔が笑ってしまう。そんなに俺と一緒の高校行きたいと思ってくれてるなんて。
けどちょっとだけクールダウンしような。先生が何と言おうと気にすんなって。
「サツキさん……私はあなたを心配して言ってるだけですよ。その言い方はないと思いませんか?」
「別に先生に心配なんかしてもらわなくて結構です!」
「……私はサツキさんの為を思って言ってるんですが」
「私の為じゃなくて先生自身の為ですよね? 先生の受け持ちの中で高校に落ちた人を作りたくないからですよね? 私の為だと言うんでしたら第1志望の高校に受かるように応援してください」
サツキ、それは大体の先生において真実だと思うけど、そんな事を本人には言わないほうがいいと……もしかすると本当にサツキの為を思ってるかも……それはないな。
「……わかりました。サツキさんの第1志望は大山高校ですね。頑張ってください」
ふう……ようやく落ち着いたか。手に汗握る面談だった……普通ってこの進路相談ってほとんどが雑談で終わるものなんじゃないのかね。何でこんなケンケンゴウゴウと議論し合ってるんだろうね。
「ありがとうございました」
がたがたと席を立つサツキと母さん。
サツキってば母さんがいなかったら、先生につかみかかってたんじゃないかってぐらい興奮してたなあ。
ま、サツキ……一般だとこれからちょっと勉強せんといかんから大変かもしれんけど頑張れ。
おはようございます、ルーバランです。
サツキの発言がひどい、先生がかわいそうと思った人は、きっといい人です(^^; 私はひねくれてます(-_-;
それでは今後ともよろしくです。