280話:仲直り大作戦
今日は11月28日金曜日。
部活が始まる前のひととき、サツキと俺の2人で仲直り大作戦を実行する。
元気がなくずっとうつむいているユッチの前に2人で並ぶ。
「どもー、ヤスです」
「どもー、サツキです」
「2人合わせて、『怠慢センチメンタル』です!」
……ユッチ、無反応。芸人さんが登場するとき、観客が無反応ってきっついんだろうなあ。
「俺、『コンドコント』のが好きなのに……」
「いいの! 私は『怠慢センチメンタル』が好きなんだから」
そりゃサツキが好きなほうにするけどさあ。
「……2人揃って何やってるんだあ?」
いじいじとありをつついていたユッチがようやくノロノロと顔を上げる。
……そんな真っ暗な顔してないで、ユッチにはニコニコしてて欲しいな。
「まま、無用なツッコミはいいから、とりあえず俺らのコントを見てください」
「……どおぞお……」
どおぞおと言いつつ、また顔を下に向けてありをつつき始めるユッチ。
……ものすごいローテーションっぷりだな。まずはこのへこみっぷりを元気づけないと。
「ども、ユッチを元気づける兄妹コンビ『怠慢センチメンタル』! それでは最初のお題から、ショートコント『鼻』」
「ヤス兄って最近調子に乗ってるよね?」
「どこが!?」
「ラブレターもらった事を鼻にかけたり」
「6歳の子にもらっただけだから!」
「テストの点がよくて鼻高々になってたり」
「ああ、それはちょっと自慢」
「何度も聞かされてちょっと鼻につくんだよね」
「いいじゃん、自慢したいんだもん」
「そろそろヤス兄の鼻っ柱をへし折りたいんだよね」
「ふっ、折れるもんなら折ってみろ」
「てりゃ」
バキッ。
「鼻が! 鼻があ! ツーンと来るツーンと! ってかサツキ、寸止めはどこいった!? 打ち合わせでは寸止めして、んで意味ちゃうやろって突っ込んで終わりのはずだろ!?」
「殴るって楽しいね、ヤス兄」
「サツキ、変な事に快感を覚えないで!」
……無言のユッチ……俺、殴られ損じゃね?
「ええと……それでは次のお題、ショートコント『ケンカ』」
一旦2人の距離を置き、サツキが俺のもとに駆けてくる。
「ヤス兄ヤス兄、今日新しい服買ったんだよ! 見て見て!」
「んー、かわいいかわいい」
「ヤス兄! 見てないじゃん! 何で見てくれないの?」
「見てる見てる、似合ってる似合ってる」
「おざなりな返事してないでよ! そんな事言うヤス兄、嫌い!」
「そうか、でもお「……うううう……ふぇえええん……」
『嫌い』って言葉に反応したみたいで、ユッチが泣き出してしまった……泣くなよユッチ。これただのショートコントだよ。
ユッチが泣いてしまって、こっちのショートコント全く見なかったので、締めの言葉が最後まで言えずに終わってしまった。
「ヤス兄、普通にユッチ先輩に色々話したほうがよかったんじゃない?」
「……やっぱりそう思うか? 俺もそう思ったんだけど、ショートコントにしてみたくなった」
「ヤス兄……ホントに仲直りさせる気あるの?」
「あるある! 俺はどんなときでも大真面目!」
「……ほんとう?」
「ほんとうほんとう! 俺さ、空も飛べるはずってホントにずっと思ってて、手をバタバタさせながら一生懸命ジャンプしてたよ。木から落っこちてでっかいたんこぶ作ったけど」
「そう言えばヤス兄って小学生までいつか空を飛ぶんだって叫んでたね。微笑ましいと思っていいのかなあ?」
「他にも、魚はずっと海の中にいられるんだから人間だって水の中で一生暮らせるんじゃないかって一生懸命風呂場で特訓したぞ」
「ヤス兄が前に風呂場で溺れてたのってそう言う事だったんだねー……バカ?」
必死で俺の真面目っぷりを説明してみたけど……ジト目でサツキが睨むよ。
「……ううっ……ぐずっ……」
ユッチ、そんなに『嫌い』って言葉に反応しなくたっていいのに。
アオちゃんだってものの弾みで言っちゃっただけなんだからさ……多分。
「ユッチ先輩、ほら泣かない泣かない。いい子いい子」
……サツキ、ユッチは高校1年生だぞ。幼稚園児を相手にしてるんじゃないんだぞ。
「サツキちゃああん……ヤスがいじめるよお……」
……おい、何で俺がいじめた事になってるんだ? 情緒不安定すぎだぞ、ユッチ。
「ユッチ先輩、いじめっ子のヤス兄なんて気にしちゃダメですって」
「誰がいじめっ子だ誰が。それを言うならサツキのほうがいじめっ子だろうが」
「私いじめっ子じゃないもん、いじりっ子だもん」
別にうまい事言えと要求したつもりはないぞサツキ。
「ほらヤス兄、何かいい事言ってユッチ先輩元気づけてあげてよ」
……サツキ、それは無茶ぶりすぎないか?
いきなり泣いてる人を元気づける魔法の言葉なんてみつからないっすよ? それでも何かしら言葉をかけないと……ええとええと。
「イルカとクジラの違いは……大きさだけなんですよ」
「ヤス兄、悩んだ末にトリビアでパクリ?」
……サツキが凍えるような視線を俺に送るよ、そんな視線で見ないで!
「……ううう……」
あああ、ユッチ泣かないで!
「ええとだな……ユッチ、キンキキッズを知っているか?」
「ボクジャニーズはトキオしか聞かなあい……」
……そですか。
「キンキキッズの歌にだな、こんなタイトルの歌があるんだよ。『愛されるより愛したい』」
「……それでえ? ……ぐずっ……」
「これってさ、友達同士でも言えると思うんだよ『好かれるよりも好きでいたい』みたいな感じでさ」
「……どおいうことお?」
「アオちゃんに嫌いっていわれてもユッチは好きでいればいいんさ。ただそれだけ。そしてそれをアオちゃんに伝えればいいんだよ」
「……でもお……」
「ユッチはアオちゃんの事、好き?」
「……うん……」
「その気持ちをアオちゃんにいってみ? きっと上手くいくから」
「……うん……わかったあ」
まだあんまり元気がないけど、部室の中にいるアオちゃんのところへのそのそと歩いてった。
部室の中に入ってしばらくした後、何だかユッチの嬉しそうな笑い声が聞こえてきたから、きっと成功したに違いない……うん、万事解決。
「ユッチ先輩、上手くいってよかったね。でもさヤス兄、ちょっといい?」
「んー、何だサツキ?」
「オチはないの?」
「ないよ!? 何でオチがいるのさ!?」
「ヤス兄だから」
……そんな役回りいやだ。
おはようございます、ルーバランです。
ふと思ったのですが、『好かれるよりより好きでいたい』じゃなくて『好かれなくても好きでいたい』って一歩間違えたらストーカーですね(ー_ー;
それでは今後ともよろしくです。