277話:就寝前、サツキと
「ヤス兄、バカ?」
「……言わないでくれ、サツキ」
ユッチがサツキの部屋で泣きつかれて眠ってしまったらしく、ユッチを残してサツキだけ下におりてきた。
今アオちゃんはお風呂に入ってきてるんだけど……俺の戦績を聞いた瞬間のサツキの一言がこれ。
「ヤス兄、バカ?」
「……何度も繰り返さないでくれ、サツキ」
サツキに言われなくたって分かってるよ。俺だってこの1時間くらい、俺は何やってんだろうなあと思いながらアオちゃんのノロケを聞いてたんだよ。
「何で私がユッチ先輩のことを励ましてる最中に、アオちゃん先輩のノロケにつきあってるの?」
「ごめんなさい……」
なんか口を挟めなかったんだよ……違うな、ただ面倒だっただけだな。
「アオちゃん先輩とユッチ先輩を仲直りさせなきゃいけなかったんじゃないの?」
「そうなんだよ。俺も最初はそのつもりで話を聞いてたはずなんだけど……どこで間違えたんだろう?」
「バカ」
なんだろう、すごいぐさっとくる一言です。サツキ、ジト目でそんな事を言わないでくれ。
「しょうがないじゃん、サツキだってきっとアオちゃんを目の前にすると反論するのも面倒になるぞ」
「バカ」
ものすごい軽蔑したかのような目で言われるこの一言……立ち直れなくなりそう。サツキがひどいよ。
「もういいじゃん俺の事はさ。それよりサツキ、サツキはユッチの事、元気づけてあげられた?」
「まだ全然なんだよね、アオちゃん先輩に嫌いって言われた事がすごいショックだったみたい」
そりゃしょうがないよな、ユッチってほんとアオちゃんの事大好きだし。
「やっぱりユッチ先輩を元気づけるのは、アオちゃん先輩しかいないと思うんだよね。なのにヤス兄ってば……」
「だからごめんってば」
しつこいぞ、サツキ。
「また明日、2人を仲直りさせる為に頑張らないとだよね! 今度も私ユッチ先輩担当、ヤス兄アオちゃん先輩担当でお願いね!」
「えええ!? やだよ、またノロケになるかもしれないし」
今までクラスでも部活でも、彼氏の話してるところ見なかったから、ものすごい誰かに話したかったんだろうなあ……でも、俺がその話し相手になるのはいやだ。ゴーヤ先輩も彼氏いるんだから、ゴーヤ先輩とそう言う話すればいいのに。
「私もいやだもん。ヤス兄、私が嫉妬したり、ドキドキしたり、ほんわかしたりする話が嫌いなの知ってるくせに」
「大丈夫だサツキ、アオちゃんのノロケは嫉妬もドキドキもほんわかもしないぞ。ただ『めんどくせえなあ』と思うだけだぞ」
「もっといや、私はユッチ先輩を励ましたいの」
……サツキ、ユッチの事好きだもんなあ。いつも頭をなでている。サツキ、一言だけ思うのだが、ユッチは年上だぞ?
「と言う訳で頑張らなかったヤス兄は居間で寝る事!」
「えええ!? 何でさ!?」
「ユッチ先輩とアオちゃん先輩に私の部屋で寝てもらったら、空気が重苦しくてしょうがないでしょ? ユッチ先輩がヤス兄の布団で寝るの」
「何でユッチ? 大体ユッチ今サツキの部屋で寝てるんだからそのままサツキの部屋で寝させてあげればいいじゃん」
「そうするとアオちゃん先輩がヤス兄の部屋で寝る事になるでしょ? 彼氏がいるのに他の男の人の布団を使って寝るのっていやなのかなって思って」
……そんなもんなのか? それだったらそもそも男友達の家に泊まりにくるのどうよと思うんだけど。
「そうだサツキ! 久しぶりに一緒に寝ない?」
「や」
1文字ですよ奥さん。1文字で拒絶を表されました。
「いいじゃんサツキ、2人で暖め合おうよ」
「や」
……こんな事で俺はめげないぞ。
「サツキ、寝よう」
「変態」
……ま、負けるものか。
「夏休みだって一緒に寝たじゃん」
「……………………………………」
あれ? 突然黙っちゃって。どうしたんだ? サツキ。
「ヤス兄、そんなことはナカッタヨ?」
なぜ片言になる。そして顔がまっかっかだぞ。サツキ。
「いや、でも一緒に」
「ヤス兄、そんな事はなかったんだヨ? いい思い出でもダメな思い出なんだよ? 私は全てを忘れるんだから、ヤス兄も全てを忘れてよ」
「いや、めっちゃ覚えてるだろ。顔真っ赤だし」
「いいの! あれはなかった事にするの! 私が『おにーたん』なんて言った事はなかったの!」
「『おにーたん』は言ってないぞ。にゃんにゃんと顔をこすりつけてくれたけど」
「…………ヤス兄のバカ! バカ!! 忘れて!」
痛い! なぐるな! 俺はサンドバッグとちゃうから!
「いつつつ……分かったっすよ。サツキと寝るのは諦めたけど……ほんとに居間しか俺の寝るとこがない?」
「居間でいいでしょ? こたつで寝れば?」
……サツキが冷たいよう……しょうがない、もう一個客用布団があるし、それを居間にしいて寝るかあ。
……自分の家なのになんで?