274話:コイバナ
今日は11月27日木曜日。
部活が終わった後、ユッチとアオちゃんがうちに泊まりに来た。今日はケンが久しぶりに泊まりに来ないからサツキと2人だと喜んでいたのに残念……。まあ、大勢なら大勢で楽しめるからそれはそれでいいんだけど……1個だけ納得できない事がある。
「ええと、一言いいか。毎度毎度お泊り会をするのは俺もかまわないし、楽しいからかまわないんだけどな、俺んちの頻度が高い気がするのは気のせいか?」
「気のせいですよ、ヤス君」
嘘をつけ嘘を。アオちゃんの家なんてそもそも行ったことないんだぞ。狭いから無理だって聞いてるけど、一度くらい遊びに行ってもいいかなあと思う。アオちゃんの家はダメなのか?
「いいじゃんヤスう、ボクの家とアオちゃんの家、学校から遠いんだもん」
まあ、それはそうだけど。
「いいじゃんヤス兄、私たちの家で」
「構わないことは構わないんだけど……サツキも他の家に遊びに行ったりしたくない?」
「んー……私は私の家が一番好きだよ。ヤス兄の料理も食べられるし。ヤス兄がいつもいるし。私、ヤス兄に『おかえり』って言ってもらうの結構好きなんだよね」
……うん、やっぱり我が家が一番だよな!
我が家最高!
「それではただいまから第1回、『みんなのコイバナを語ろうの会』をはじめたいと思います!」
パチパチパチ……。
アオちゃんの宣言とともに、まばらな拍手が居間に響く。
今日はお泊まり会で、コイバナをしようという話で集まってる。ものすごいアオちゃんが乗り気。夕飯も食べ終わって、昨日のアオちゃんの交換日記に書かれてたコイバナをしようという流れになった。
「何ですか、みんなノリ悪いですね。私1人で開会宣言して、私1人で元気に拍手しているのは少々寂しいですよ」
「だってボク語るような思い出話ないもん。そんなことアオちゃんならしってるくせにい」
「いえいえ、実はユッチにも私も知らない隠された秘話があったりするかもと思いまして」
「ないよお! だってボク男嫌いだもん」
……ええと、ユッチさんや。分かってると思うけど、俺は男ですよ?
「男嫌いになったのは中1くらいからだったじゃないですか。小学校の頃はなにかありませんでしたか?」
「ないよお。ボクはその頃は好きな人なんていなかったもん。それで中学校はいってからずっと男嫌いだもん」
アオちゃんや、間違いなく人選を間違えてると思います。好きな人がいなかった人とコイバナしようと思っても無理だろ。
……そしてアオちゃんにもユッチにも本当に言いたい。俺は男ですよ?
「ユッチ先輩は小学校のころは男嫌いじゃなかったんですか?」
「そうだよお? 男子に混ざってサッカーとかドッジボールとか、運動場を走り回ってたんだあ」
「へえ、それでなんで男嫌いになったんですか?」
「……ええとお……それはあ……」
「ユッチ、『それは?』」
俺も聞きたくなってついつい口を挟んだ。
「うるさいうるさいい! とにかく嫌いなんだあ! 男はやなやつばっかりだあ!」
……ええと、俺ほんとに男なんだけど。男に思われてないのかなあ。というか、俺、嫌われてるのかなあ……。
「ユッチ先輩、ヤス兄が落ち込んでるので、何かフォローしてあげてください」
「そうですよ、ヤス君も『一応』男ですよ?」
……俺、一応なの? 半分女とか全くないですよ。正真正銘の男ですよ?
「ええとお……ううんと、ヤスはなんていうか、男らしくないからあ」
「……男らしくないって何?」
俺、そんなに女女してる? 女々しい? 男らしいとは思ってなかったけど、ズバッと言われるとちょっと傷つくな。
「ユッチ先輩、フォローになってないですよ?」
「えっとえっと……よくわかんない」
そりゃねえよ……答えがないってきつすぎ。
「いいじゃないですか、とりあえずヤス君はユッチが唯一普通に話せる男ってことなんですから」
「ケンも別に平気だろ?」
「ううんと……ケンも別にそんなに苦手じゃないけど、ヤスのが平気だあ」
……喜んでいいんだよな。とりあえずこの場面は喜んでもいいはずだよな。
「ケンちゃんとヤス兄だと、ヤス兄のほうが男として見られてないって事だよね」
できる限りそう思わないようにしとこうと思ってたのに……サツキ、わざわざ言わないでくれよ。
「ま、まあまあ、ユッチの話はそれくらいにしておきましょうか。次はヤス君かサツキちゃんのコイバナを聞かせてくださいよ。お二人ともカレカノがいたりはしないんですか?」
「ないな、今までに0人」
「私もー」
「私、人選を間違えたのでしょうか……」
うん、間違えてる。ものすごい間違えてると思う。カレカノが今までにいたことがない人を3人連れてきたってコイバナは盛り上がらないだろ。最低限今彼氏がいるゴーヤ先輩を連れてこないと話は続かないんとちゃうか?
「それじゃ、3人にお聞きします。今好きな人はいませんか?」
「いないよお?」
「サツキ」
「このバカ兄。どうどうとそんなこと言わないでよ」
「まあ、いいじゃん。みんな知ってるし」
「私、やっぱり人選を間違えたのでしょうか……」
だからそうだって。
「アオちゃんのコイバナすればいいんじゃないの?」
「……そうしましょうか」
……するのか。冗談のつもりだったのに。
人のコイバナって、25%はノロケ、25%は浮気、25%は別れ話、25%は玉砕話だよなあ。
アオちゃんの話はどれに入るんだろうね。