260話:ねむねむ
今日は11月11日火曜日。手紙事件の翌日。
さっきから何度も呼んでるんだけど、まったく布団から出てこようとしないサツキ。
そろそろ起きろよ。
「サツキー、朝だぞ。起きろー」
「ううん……後5分」
「サツキの後5分は3時間だから駄目。遅刻するからさっさと起きろー」
「ううん……いやー、神様が私にもっと寝ろって言ってるー」
「神様って誰だよ、神様はいないっていっつもサツキいってるじゃん」
「私が神様ー」
……訳がわからん。寝ぼけてるわけじゃなしにただ寝たいだけだろ妹よ。
「サツキは人間。神様じゃないから今日も元気に起きよー」
「ヤス兄、お母さんみたーい。へんー」
うっさい、似合わなくて悪かったな。ってかサツキめ、もう完全に起きてるだろ。布団から出てこい。
「神様になれないんだったら女王様でいいー」
「はいはい、サツキ様。そろそろ起床の時間ですよ。起きましょうね」
「私に命令するなー。私は女王様なのだー、ヤス兄、私にひざまずけー」
今日はなんだか変だなー、サツキ。何があったのやら。
「はいはい、我が家の王女様。下賎なわたくしめの諫言をどうか聞いてはくださいませんか?」
「ひざまずいたら聞いたげる」
……めんどいけどやったるかあ。
フローリングの床に膝をつけ、頭をたらして、サツキに対してひざまずく。
「これでよろしいですか? サツキ様、ささ、起きてくださいな」
「や」
……………………………………………………ムカ。
「もう女王様ごっこは終わり! 起きた起きた!」
「私は私の事を客観的にみて、まだ睡眠が必要だって分かるの。だから寝るの」
「どんな言い訳だよ! 人はそんな風に客観的に自分のことは見られないって!」
「私は自分の事を客観的に見る事が出来るのー。あなたとは違うのー」
……いや、確かにずいぶん前に『あなたとは違うんです』って言ってやれって話したけどさあ。俺に言わないでくれよ。
「遅刻するぞー。中学って遅刻したら居残りで勉強しないといけなくなるから、高校に部活来れなくなるんじゃないか?」
「後5分なら遅刻しないよ、ヤス兄」
ここで俺とやり取りしてすでに5分は立っていると思う。遅刻が刻一刻と迫ってきてるんだが。
「朝ご飯食べられないぞ? サツキ」
「いいもーん。10秒チャージするから。今は安眠の方が大事ー」
その味気ない食事はないだろう。惰眠をむさぼるためだけにどれだけ多くのものを犠牲にするんだ、サツキは。
「そんなこと言うならサツキには弁当も10秒チャージでいいか?」
「……うーん」
そこは悩むなよ! 何をどう考えても惰眠よりも快食だろう!?
「今日のお弁当何ー?」
「炊き込みご飯、ミニトマト、ブロッコリー、デザートに柿」
「寝るー」
まじ!? 俺の弁当10秒チャージに負けるの!?
「満足できないサツキには白身魚のフライ! タルタルソースつき!」
「……うーん……」
まだ悩むの!?
「マカロニサラダもつけちゃおう!」
「うーん、それじゃ起きよっか」
……そこまで頑張らないと食べてもらえない俺の弁当っていったいなんなんだろう……。
「うーん……ねばってみるもんだねー。ねばればねばるほどお弁当のグレードが上がるんだよね。これから毎日ねばろっかな」
「やめい! そんなことするならほんとに10秒チャージにするぞ!」
こう言いつつ、お弁当を作り始めてから1回も10秒チャージにしたことがないからサツキも調子に乗るんかも知れない。
明日あたり本当に10秒チャージにしてみよっかな。でもなあ……サツキに食べてもらわないとお弁当作る張り合いがないし……悩ましい。
「あ、そだそだ。サツキ、ほれ、交換日記」
「ありがとー、ヤス兄。さあさあ、ヤス兄は今日はどんなこと書いてるのかなー」
「おい、ここで読むな! 俺がみてないところで読めって!」
自分が書いたものを自分の目の前で読まれるってなんとも恥ずかしい。毎回サツキにはそう言ってるんだけど、毎回俺の目の前で読んでニャハハと笑う。まったく、サツキと言うやつは。
「…………」
「あれ? どしたのサツキ?」
いつもは笑うはずなのに。んーと……そんな黙るような文だったっけ……あ。
「あの暗号文がわかんなくて悩んでるんだろ! 俺もさっぱりわかんなくてさあ、サツキはどれか1個でもわかった?」
「……」
「あれ? サツキってば何でそんなにむっつりしてんのさ?」
「……」
「おーい、サツキ?」
「ヤス兄のバカ、マヌケ、オタンコナス!」
…………………………は?
俺の方を向かずにどたどたと階段を下りていく。さっきまですっごく機嫌がよかった気がするんだけど、突然怒り始めるなんて……何で?
昨日の交換日記、なんか悪いこと書いてあったかなあ……。
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今日の交換日記 さつき
こんばんは、サツキです。
今日はちょっと怒ってます( ̄∩ ̄#
手紙もらったくらいで浮かれるな、ヤス兄!
ヤス兄なんてもう知らない○=(`◇´*)o
あ、アオちゃん先輩。誕生日おめでとうございます!
プレゼント、お邪魔じゃなかったら使ってくださいね(*^◇^)/゜・:*【祝】*:・゜\(^◇^*)
それじゃ!
おはようございます、ルーバランです。
今さらですが、サツキはブラコンです。
それでは今後ともよろしくお願いします。