26話:新入生歓迎会、開始
部室に行き、着替え、その後新入生歓迎会の会場へ行く。
ここの高校の近くにはいい店が無いみたいで、電車で隣の駅まで移動だ。自転車通学してる人は、そのまま自転車で隣の駅まで行くらしい。
「あ、ケン、サツキに今日遅くなるって連絡しとくから先に行ってて」
「あいよー、了解」
公衆電話を探して、サツキの携帯に電話をかける。
最近公衆電話減ってるよなー。携帯が普及してるからしょうがないんだろうけど、携帯持ってない人には不便だ。
「お客様がおかけになった電話は、現在、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、かかりません。お客様の――。」
ちっ、サツキのヤツ、電源切ってんのかな。それじゃ携帯の意味ないじゃん。
もう後2回かけ直したが、やっぱり電源が切れててかからなかった。
仕方ない、後でまたかけ直そう。
行った所は駅から15分ほど歩いた所にあるファミレス。ファミレスを選んだのは、ドリンクバーだけで長い時間入れるからとのこと。30人が入れる大会場にしようか迷ったらしいが、高校生の資金を考えてファミレスを選んだそうだ。
うん、その考えはいいと思うぞ。でも、予約なしでつっこむのはあまりにも危険だ……「30人なんですけど空いてますか?」なんて聞くやつは普通いない!まだ混んでいる時間前に来れたから何とか全員座れてよかったが、もし座れなかったらどうするつもりだったんだ……。
禁煙席にしてもらって、出来る限り近い所に全員が集まり、オーダーする。
ってか、誰も食事を注文しなかった。全員がドリンクバーのみの注文だ。
客席の4分の1を俺たちが占めた上に、ドリンクバーしか注文しないってどれだけ営業妨害なんだろう。
オーダーと同時に全員でドリンクバーに殺到……って他の客がドリンクバーが使えなくなってる!まずいって!20人以上もそこに行列作るなよ!
せめてテーブルごとに代表者がいこうよ!
全員がドリンクを持った時点で、ウララ先生が、挨拶をする。
「じゃあ、みなさん!今から新入生歓迎会を始めます!」
パチパチと一斉に拍手する。かなりの大音量がファミレスの店内に響く。さっきからいいのか!?
「最初の自己紹介の時間だけは今座っているテーブルについていて。全員の自己紹介が終わったら、各自自由に好きな所に移動して構わないから。でも、お店に迷惑かけちゃ駄目だよ」
もう十分迷惑かけてます!さっきから店にいるお客さんがうるさそうにちらちら見てるの気がついてないんですか?ウララ先生!?
……もう今後は気にしないようにしよう。気にしたら負けだ。
「じゃあ、どっちからにしようか?フレッシュな1年生からか、老けこんだ3年生からか」
ウララ先生!老けこんだはひどいです!まだ先生よりも若いんですから、みんなフレッシュですよ。それをいうなら、先生が一番老けこんでます。
「……今失礼な事考えたヤス君からね!1年生のみんな、恨むならヤス君を恨みなさい!」
何で分かるんだよ!先生はエスパー?……じゃあ、先生きれいですよー。
「さあ、ヤス君。早くお願いします」
今度は心を読んでくれなかったか……。
「1年3組、こんど……」
「ヤス君!本名なんて言わなくていいですから、あだ名と二つ名、陸上経験、今後やる種目、過去の汚点、そして自己主張をお願い」
「なんで!?本名が一番大事じゃないんですか?しかも過去の汚点ってなんですか?必要ないです!」
先生、訳分からない事言わないで下さい。ついでに言わなきゃいけない事結構多いな。
「本名なんて分からなくても、その人だとわかる言葉さえあれば、それで十分じゃない。だいたい、呼ばれ方って多すぎると思う!人によってそんなに呼び方が違ってたら、聞いてる人って混乱すると思わない!?サザエさんなんて、<サザエ>、<姉さん>、<お姉ちゃん>、<ママ>、<磯野君のお姉さん>、<サザエさん>、<奥さん>って多すぎよ!」
そんなに呼ばれ方にこだわりがあるのか。でもあの話、別に見てりゃ誰の事指してるのかすぐわかるだろ?
「ヤス君だって今現在、既に妹さんから<ヤス兄>、男性陣からは<ヤス>、女性陣からは<ヤス君>。3つもあるのよ!」
妹からヤス兄って呼ばれてる事、何でそれを先生が知っているのかを問いたい。しかも全部に<ヤス>ってはいってるんだから分かりにくくもないだろ?
「これに、本名を入れて見なさい……<近藤><近藤君><康明><康明君>の4つが増えて、呼ばれ方は計7つ!私はそんなに覚えられない!」
それぐらい覚えようよ、先生。ってか覚えてるじゃん!しかも先生が、ちゃんと本名言ってくれてるんだから、言ってもいいんじゃね?
「それに、本名を名乗ると、呪いをかけられるんだよ。親からもらった大切な名は心の中にしまっておく事にしなさい」
「先生初めてあったとき、しっかり名乗ってましたよ!?今更何言ってんですか?だいたい呪いをかけられるのは、忌み名とか真名とかです!」
「そんな分かりきった事をつっこまなくて結構よ、そんな訳で、今日言うのはあだ名と二つ名だけで十分なの。」
「どんな訳ですか!?脈絡が無いです。それに、それならあだ名だけでいいじゃないですか!あだ名と二つ名の2つ覚えるのはそれこそ面倒ですよ!」
「二つ名があった方が面白いのあるかもしれないじゃない」
「超自己中ですね!この変人教師!!」
…………………………………………はっ、しまった……つい本音が出てしまった。
……おそるおそる先生の顔を見ると、死神が乗り移って、俺の魂を今まさに狩ろうかと言う恐怖の笑顔をしている。
「……はやく自己紹介始めましょう、過去の汚点は必ず言うこと」
先生の笑顔が怖い……。
「……はい……」
今のも過去の汚点なんだが……その事言っても通じなさそうだな。
あの先生には勝てない……。
「……1年3組、あだ名は<ヤス>、二つ名は<猫娘>。中学までは野球部だったので陸上経験はありません。入部したら、長距離をやっていこうと思ってます。過去の汚点は……いくつかありますが、軽めの物を……『中学校1年生のプールの授業の時に、飛び込んだら下に同級生の女の子が居て、その子の顔面に、俺の股を激突させ、しかもその勢いで、海パンが脱げた事』です……自己主張は特にありません。」
「……うわっ……」
「ほんとに過去の汚点をしゃべった、馬鹿だあいつ」
「今のが軽いって?俺なら恥ずかしくて、絶対引きこもりになるよ。一体何して生きてきたんだ?あいつ」
……あれ?
「ヤス君、過去の汚点は私の冗談。これからの人はわざわざ言わなくてもいいですよ」
え!?何それ?俺1人の暴露大会!?
ひどい、ウララ先生!大体さっきまでの恐怖の笑顔で冗談言われても通じません!
「ちなみにその子とはその後どうなったの?」
「……それを言うのは勘弁して下さい……」
その時は本当なら女の子の首がめちゃくちゃ危なかったけど、プールにほとんど浸かってたからか、奇跡的に怪我をせずにすんだ。
……今はどうしてるんだろ、きっと元気にしてるんじゃないかなぁ……。
こんにちは、ルーバランです。
プールに飛び込む時は前方に注意して、人がいないのを確認してから飛び込んでください。
ヤス君のような真似はしないでください。
もし事故が起きたらこんな風に笑い話になりませんもんね……。
今後ともタスキをよろしくお願いします。