244話:お久しぶり
今日は10月25日土曜日曇り。今日も陸上競技場へ練習に来てる。
今日がポンポコさんとの最終試験。月曜から金曜日まで15キロをキロ4分で走りきった。今日は10キロをキロ3分50で走れとのお達し。
これがクリアできたら、今後スピード練習も徐々に取り入れていこうとポンポコさんが言ってくれた。ポンポコさんいわく、本来は長い距離をずっと走り続ける練習だけというのはあまりよくないらしい。
「ポンポコさん、何で?」
「理由はただ1つ」
……なんやろ?
「私が飽きる」
………………………………なんでそんなに主観的な物言いなの?
「『ヤスが同じ練習ばかりしていたら飽きるから他の練習も取り入れたい』みたいな言い方してくれないの?」
「なにを言う? 所詮言葉なんぞ全ては主観的だぞ。『あの人はこう思ってるんだ!』『ここにトイレが無いとみんなが困るんだ!』なんて全ては自分の意見にすぎない」
や、どうなんだろう?
「みんながそう思っていると言いたいのなら、その辺りを利用する人たちにアンケートをとるなりインタビューするなりして、みんなの意見をまとめないとダメだ。100人いて80人が『そこにトイレが欲しい』と言えば、みんなの意見になるかもしれない」
……そう言われればそうかも。
「『私が見てて飽きるからヤスには同じ練習ばかりさせたくない。』説得力は無いかもしれないが、全くもって嘘は混じっていないぞ。人の気持ちを読もうと頑張った時期もあったが……私には無理だったから……だから私はどれだけ説得力がなくとも『あの人はこう思っている、だからこうしたい』なんて意見は言わないようにしている」
つまり、ポンポコさんは全ての事を主観的に話すのか。まあ、分かりやすいよな。
逆にあの人がこう思ってるなんて言葉を使いまくってる人なんて、自分の意見は無いんか!? と突っ込み入れてしまいたくもなるよな。
「俺を見て飽きることなんてないさ、今後も記録伸ばしてポンポコさんを魅了させてやるよ」
「……ふっ」
……鼻で笑われたあ。かっこつけてくさいセリフ言ったのに、めっちゃショック。
「はいはーい! みんな、ちゅうもーく!」
ポンポコさんと俺、そして別の話をしてたユッチ、アオちゃん、サツキ、ゴーヤ先輩、キビ先輩の計7人がウララ先生の呼び声に反応して、振り返る。
「さて、今日は練習に入る前に、嬉しいお知らせがあります!」
なんやろ? 本当にウララ先生、嬉しそうだ。そんなにいいことなんだろうか?
「とうじょーう!」
……ものすごくもったいつけて、たいした事無いことだったらなんか言ってやろ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あ、あれ?」
なんだそりゃ、なんにもないじゃんか。
「も、もう1回ね……打ち合わせちゃんとしたのにな」
ボソッと変な言葉が聞こえたぞ、ウララ先生。
「はい、とうじょーう!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あ、あれえ? ちょ、ちょっと待っててね?」
……どんな事を目論んでたのか知らんけど、相方がボロボロのようですな。
「……ほら、恥ずかしがらなくても大丈夫だから。もっとシャキッとして、出てきてよ」
ものすごく恥ずかしがりやのようですな。誰が出てくるんだか。
……あれ? おお……まじで!?
「…………お、おはよ……ござい……ます……」
ウララ先生に引っ張られながら、出てきた人物は蚊の鳴くような小さな声で挨拶をした。
現れたのはヤマピョン。夏休み前に部活に出てこなくなり、それから合宿前に1回、新人戦の時に1回会って以来、ずっと会ってなかった。
いつ来てくれるかなとずっと待ってたけど、やっと来てくれたんだ……思わず顔が笑ってしまう。
「平日は、怒ってばっかりだった2年の長距離の先輩がいるから来るのが怖いってヤマピョンから相談されてて、それなら土曜日にきてみたらどう? って誘ってみたの。そして今日、ヤマピョンが来てくれました! これから一緒に頑張っていきましょう!」
うん、頑張っていこう。
「……こ、こ、こ……これから……よ、よろ……し……く…………」
「よろしく、ヤマピョン」
今日から1人じゃない。一緒に頑張っていけるメンバーが出来たんだ。
その後、今日の練習メニューである15キロ、キロ4分をヤマピョンと一緒に走った。ヤマピョンは今まで部活に来てなかったにもかかわらず、15キロを俺と一緒に走りきってしまった。今までずっと1人で走っていたとは言ってたけど、才能の差をちょっと感じてしまう。
ちょっと悔しかったけど、それよりも来てくれたことがなによりもうれしい。また来週からもよろしく、ヤマピョン。
今日の交換日記
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10月25日 あおい
こんばんは、あおいです。
サツキちゃんへ、ヤス君が社交的になっちゃったら、少しずつ妹離れしてしまうかもしれないって心配してるみたいですけど、大丈夫ですよ。ヤス君のシスコンは早々簡単に治りません。
学校でヤス君と話しますと、8割方サツキちゃんの話ですよ? 最近ちょっと耳にタコができてきました(^^
今日はヤマピョン君が久しぶりに部活に来ました。
みんなうれしそうでしたけど、ヤス君が一番うれしそうでしたね。ようやく一緒に練習できるメンバーが1人出来たのですから、当たり前かもしれません。よかったですね。
ところで、ちょっとだけ悔しかったこと。何で私が話しかけた時だけヤマピョン君、返事してくれないんですか? ユッチが話しかけてもサツキちゃんが話しかけても、ちゃんと会話してましたのに、何故か私が話しかけた時だけ
「…………」
とずっと無言でした。いつ返事してくれるんでしょう……とじっと見つめていましたら、逃げ出してヤス君の後ろに隠れました。
何でわざわざ逃げるのでしょうか? ……私、そんなに怖いのでしょうか?