241話:ヒロインって
お弁当、ゴーヤ先輩たちに明日も作る約束を押し付けられてなんとなくブルーな気持ちで午後の授業に向かった。
……眠い。昨日ユッチと夜通し語り明かしたからなあ……もうちょっと早めに寝ればよかった。
ようやく午後の授業も終わって、これから部活だ。
はあ、今日も15キロかあ……なげえ。このペースで走れば1週間で100キロ行くぞ。
4週間で400キロメートル。東京から名古屋まで行けちゃうやん。
「はあ……」
「ヤス、しょぼくれた顔してるな。もうちょっと元気出せよ」
ケンと廊下を歩きながら部活へ向かう最中。意味もなく元気なケンがちょっとだけ小憎らしい。
「部活動のはずなのに、毎日毎日1人で走っているとこんな気分になってくる」
「そうか?」
そうだよ。ケンも1人で延々と走ってみろよ。
「こう、部活動ってさ『部長! もうできません……』『何を言っている、頑張るんだ!』『でも、もう足が……』『このぐらいでへこたれるな! いいか、お前は大山の柱になれ』……みたいなノリがあってもいいんじゃないかなあと思うわけっすよ。何が悲しくて600人も生徒がいながら1人でテッテケ走ってなきゃならないんだろうと時々思うんすよ」
1人でできないことを集まってするからこそ価値があるんじゃねえのかなあとかくさいことを考えてしまう。
「ポンポコさんがスポコンなノリでヤスにいろいろ教えてくれるだろ? それで満足しとけよ」
確かにポンポコさんはスポコンで俺に陸上を教えてくれる。だが……。
「ポンポコさんってマネージャーだろ? マネージャーって言ったら一般的なイメージだとヒロインなわけだよ」
「ヤス、恋愛漫画の読みすぎ」
そんなことはない、世間一般のイメージではマネージャー=ヒロインのイメージはどこにでもあると思うぞ。
「やっぱりマネージャーといったらさ、暑い中練習して、汗を流して頭から水かぶってるときに『はい』ってタオルを手渡してくれるような事してほしいじゃん。それとか『あちー』ってだらだらしてるときに、冷たいポカリをほっぺにびしっと押し付けて『ほらあ、しゃきっとなさい!』みたいに鼓舞してくれる子とかがいいよな」
「……変質者? 妄想たくましいやつだな」
いいやん、想像の中でくらい。ポンポコさんなんて絶対そんなことやってくれなさそうだし。
むしろポンポコさんなら疲れてぶっ倒れてる俺に『ほら、さっさとたって歩け』って言いそうだ……ってか言われたな……なんだか悲しくなってきた。
「マネージャーと部長では求められるポジションが違うとおもわねえ? スポコンなノリで頑張っていこう! って言ってくれるのが部長。一生懸命頑張ってるそんな中、癒しの空気を運んでくれるのがマネージャー」
サツキがタオルくれたりジュースを持ってきてくれたりするなんて事をしてくれたら最高なんだけど、サツキは俺に対してそんなこと絶対してくれないしなあ……。
「だからそれはヤスの妄想だろ? 人に押し付けんなよ」
「勝手な想像だから気にしないでくれ。ただまあ、俺の中のマネージャーのイメージはそんな風なんだよな。けどポンポコさんはお師匠様って感じで全然マネージャーって感じじゃないんだよなあ。ってかポンポコさんってあんまりヒロインってイメージじゃないじゃん? ってかまったくないじゃん」
「ヤス、ポンポコさんに失礼だぞ」
「それを言ったら陸上部女子ってヒロインっぽいイメージの人って誰もいないけど」
ポンポコさんとゴーヤ先輩は男勝りだし、ユッチはお子様だし、キビ先輩は肉好きだし、アオちゃんは変人だし。
「ヤス、陸上部女子を全員的に回す発言をしたな」
「ケンしか聞いてないんだからええやん。ヒロインといったら可憐! 清楚! 純粋! うちの陸上部女子には誰もいない!」
「ヤスう! 覚えてろお!」
「……」
「……」
……ええと……何でユッチが聞いてんの?
「隣の部室、女子陸上部だって忘れてないか? ヤス」
「覚えてるけど、そんなに声って聞こえるもんか?」
「ヤスの声なんて丸聞こえだあ! 絶対絶対覚えてろお!」
そんなに聞こえるものなのね……。
着替え終わって部室から出ると、陸上部女子の面々が勢ぞろいしてました。
……ええと、皆さんめっちゃこわいっす。白い目でユッチ、アオちゃん、ポンポコさん、ゴーヤ先輩、キビ先輩ににらまれてる。まさに蛇ににらまれた蛙状態です。特にポンポコさんがものすごく冷たい。自業自得と言えばそれだけなんだけど……。
男子とかサツキに助け舟を求めようと視線を送ったけど、だれもかれもが見て見ぬふり……。
今日1日、陸上部はみんなおれの敵になった。
……俺は1人だ。
こんばんは、ルーバランです。
ふと思いましたが、この話のヒロインは誰なんでしょう?
最初の登場人物の設定では、名前のある女キャラはサツキとポンポコさんの2人で、ポンポコさんがヒロインでした。そんな設定はどこかに消えましたが。
それでは今後ともよろしくです。