231話:謝れば大抵のことは許される……かも
「……」
「ごめんなさい」
「……」
「ごめんなさい」
「……」
「ごめんなさい」
反応してくれない。ポンポコさん、すっごい怒っているみたい。
……そりゃそうか。勝手に部屋に侵入して密室にしたあげく、寝ているポンポコさんの胸をまじまじと見ようとしたんだから。
ポンポコさんはパジャマ姿のままベッドの上に腰掛け、俺を見下ろしている。俺はと言うと、フローリングの床の上に正座中。
床に額をこすりつけ、土下座しながら延々と謝ってます。
「ごめんなさい……」
「今、ヤスはどのことについて謝っているのだ?」
かなり不機嫌な声音で質問してきた。頭を上げたけど、ポンポコさんはそっぽを向いたまま一向にこっちを向いてくれない。
「ええと……駅伝に出る気が無いなんてふざけたことを言っていたことと、胸を見ようとしていたことです」
「……」
怒っていて本当に怖いんですが……。
返事をしていただけないでしょうか。
「えと……ポンポコさん?」
「それで、今は駅伝に出場する気持ちは?」
「ありますあります! やる気ばりばり!」
「本当か? 午前中、全く出る気がないと言っていたではないか」
うん、その通りです。
「ぶっちゃけ、あのメンバーと出場すると言うのは正直気がすすまないっす」
「……」
「それでも、今は出たいっす」
「なぜだ? 出る理由は無いぞ」
「今まで、全くもって使えなかった自分なんかを精一杯サポートしてくれて、励ましてくれて、いろいろと教えてくれた、ポンポコさんのために出たいっす」
ポンポコさんの為に……そう考えたら、すごくやる気が出た。それを教えてくれたサツキに感謝。
「…………………………………………………………」
ありゃ、外したか? また全く返事をしてくれなくなっちった。
「…………………………………………………………ふふっ」
お、笑ってくれた。
「聞いているこっちが恥ずかしくなるようなセリフを吐くな。私の顔が赤くなる」
……確かに俺は何を口走ってんだ。めっちゃ恥ずかし。
顔がめっちゃ熱くなってきてしまった。
「ふふ……駅伝を走る人としてはヤスのその言葉はあまりいい心がけではないが、今はそれで十分だ。頑張ってくれよ」
ふぅ……ようやく俺を見て笑ってくれた。今、許してもらえたって事なんだよな。
「ところで、そこまで宣言したのだ。いい成績を残すことを期待しているぞ」
「……頑張ります」
「そうしなければ許さないからな」
……許してもらえてませんでした。でも、もう怒ってみないみたいだしいっかあ。
「そう言えば、1個聞きたいんだけど」
「ん? なんだ?」
「なんでポンポコさんって俺にこんなに親身になって教えてくれるの? 不思議でしょうがないんだけど」
夏休み頃から不思議でしょうがなかったこと。
ポンポコさんが俺に懇切丁寧になって教えてくれる理由って無かった気がする。
「そうだな……ヤスがやる気になってくれたことが1つと……もう1つがとても大きな理由なのだが」
「……もう1つは?」
すごく楽しみだ、俺ってどこかにそんなに魅力が!?
「よく言うではないか。『出来の悪い子ほど可愛い』と。教えていることを3歩進んで2歩下がるくらいにしか覚えてくれないが、それでもそんなヤスがどれくらいモノになるのか、楽しくて仕方ないのだな」
……なあ、今の褒め言葉だよな。誰か褒め言葉だと言ってくれ。
「大丈夫だヤス、ヤスはきっとやれば出来る子だ」
……ポンポコさん、ありがとう。少しだけ寒い心が温かくなったかもしれない。
その後しばらくポンポコさんの部屋でとりとめの無いことをつらつらと話していたのだが……
「さて、そろそろだな」
「……ポンポコさん、何のこと?」
「罰に決まっているだろう?」
「まじ何のこと!? 許してくれたんじゃなかったの?」
「駅伝のことはいい成績を残すと言うことで一時的に許した。もう1つの方は全く許していない」
……もう1つの方?
「寝込みを襲おうとしたのだろう?」
なんかランクが上がってる!?
「ポンポコさん! 未遂です! 何もしてないっす!」
「ヤス、未遂は罪だぞ? 殺人未遂、傷害未遂、恐喝未遂……さあ、罪にならないものはあるか?」
「……ええと」
確かにそうなんだけど、何かが違うような……。
「無実だと言い張るのならば、私を泣かせた罰と言うことで」
……言い返せない。さっきまで目が赤かったもんな。
ポンポコさんに手を引かれ、1階の居間まで連れてこられた。
そしてそこには、ポンポコさんの兄弟、一さん、二さん、三太さん、四狼、五王の5人が勢揃いしてます。
みなさん……顔が真っ赤、頭から角が生えてきそうな勢い。ポンポコさんを泣かせた俺をとても怒っている様子が目に見えて分かる。
俺が居間のど真ん中に座らされ、一二三四五兄弟&ポンポコさんが俺を取り囲むように座る。
なんだこの圧迫感。何をされるのだろう……。
「さあヤス君、ここにうつぶせに寝転がろうか」
一さんの命令によりうつぶせになる。この状態では何も反抗できない。
「バンザイして」
バンザーイ……。両手を上げた所で、四狼と五王に両手をつかまれ、身動きできないようがっちりロックされた。
ついでに二さんと三さんが俺の足をもつ。全く身動きができない。
「ええと……これから何をされるのでしょうか」
「死ぬよりも苦しい楽しみを与えてあげるから、安心しなさい」
どっちだよ!? 苦しいの? 楽しいの?
ポンポコさんと一さんが俺の両脇に座る……なんかヤバそうな雰囲気がぷんぷんですよ。みなさん。
「な、な、何する気なんすか!? ええと、手をにぎにぎさせてないでください! ……あっ、あはっ、あはっ…………な、なにするんで!? はははははははっ!」
脇やめて! 脇弱いの! 俺脇ダメなの!
「あはっは、は、は、ははっ、だめ……ひぃひぃひぃひぃーっひっひっひっ! やめてやめてやめてや! っはははははっ!!!」
足もやめて! 足の裏弱点なんです! 首筋もだめえ! 太ももとか、そんな所触らないでー!!
「あひっあひっ! あはっははあははっははははっは! ひぃひぃひぃ……ひぃ……あはははあはははは!!」
い、息が……。
「はっ……はっ……はぁ、ははっは! た、たすけ……」
『だーめ♪』
こ、こいつ……ら……。
も、む、むり……。
「あはは……ひひひ……ふふふ……へっへっ……おほほのほー」
……よ、ようやく終わった……ピクピクと痙攣を起こしてます。終わってから10分以上たっているのに、立ち上がれない。
まだ笑いが止まらない……。
まさに苦しみと楽しみ、天国と地獄でした……。
「今度妹を泣かせたら、こんなもんじゃ済まさないからな」
……了解しました、一さん……。
俺は二度とポンポコさんを泣かさないと心に誓ったある日の夕暮れ。
おはようございます、ルーバランです。
くすぐって息が出来なくなっている人を見るのは楽しいと思います。そう思う自分はきっと変人です。
それでは。