229話:ポンポコさんの兄弟
あれから、ユッチ達とはすぐに分かれてポンポコさんの家に向かい、ようやくポンポコさんの家についた。
いつもはサツキについてきてもらってたんだけど、今回は1人でポンポコさんの家に向かう。
すー、はー……。
インターフォンを押すだけというのにすごく緊張してしまう。
「緊張するな、いつもと同じように挨拶して、いつもと同じように謝って、いつもと同じように笑えばいいんだぞ」
……インターフォンを押す人差し指の震えがさっきから止まらない。
拒絶されたらどうしようかと言うこの恐怖が俺を踏みとどまらせてしまっている。
「いやいや、ごめんなさいを言わないといつまでたってもポンポコさんに嫌われたまんまだぞ。俺……」
自分で自分にいい聞かせながらもなかなか最後の一歩が踏み出せん。
「あれ? ヤスじゃん、そんな所で突っ立ってどしたの?」
……後ろから声をかけられて、ふと振り返るとポンポコさんのお兄さんの1人、三太さんが立っていた。なんだかお久しぶり。
買い物帰りなのか右手にエコバッグをもってる。
声をかけられると思ってなかったので、ちょっとびっくり。
「あ、お久しぶりです。ちょっとポンポコさんに用がありまして」
「……用件は?」
俺がポンポコさんの名前を出した途端、いきなり雰囲気が変わった。そ、そんな声を低くしないでください。めっちゃ怖いっす。
「ええとですね、ちょっと今日ポンポコさんを怒らせてしまいまして」
「……今なんと?」
さらに1オクターブ声が低くなった。ヘビに睨まれたカエルの心境を少し理解した。
「今日ポンポコさんを怒らせて」
「……」
最初は柔和な顔つきだった三太さん。いつの間にか般若のような顔つきになっている。
こ、こええ。漫画とかだと三太さんのバックからズゴゴゴゴゴ……みたいな効果音が聞こえてきそう。
「……貴様だったのか」
な、なにがでしょうか。三太さん。
「部活から帰ってくるなり妹が部屋に閉じこもってる原因となったのは貴様か!」
そ、そんなにポンポコさん、落ち込んでるんでしょうか……。
「妹を泣かせたのは貴様かー!」
な、泣いた!? それはや、やばいっす……。
「死刑!」
三太さん、俺の話もちょっとだけさせてください!
言い訳しようと口を開いた瞬間エコバッグから大根を取り出して振り上げてきた。
「ちょっと待って! それ絶対めっちゃ痛い!」
「妹が貴様につけられた心の痛みはこんなものじゃない!」
まだ三太さんには何も説明してない! ……ポンポコさんを泣かせたって事で、きっとその時点で情状酌量の余地はないんだろうな……。
頭上からすごいスピードで大根が落ちてくる。
「ストップストップ!」
俺が声を張り上げた時は時既に遅し。目の前が真っ白になる。
ボキッ!
大根が自分の頭上で2つに割れた音がした。同時に自分の頭にも鈍痛が走る。
「いったあ……」
「ち、今ので夢の世界へ旅立たせるつもりだったのに、まだ意識があるか。こうなったら次はフライパンだな」
……なんか不穏な言葉が聞こえた。フライパンて何? フランスパンの聞き間違いだよな?
エコバッグからフランスパンが出てくることを期待していたのだけど、やはり出てきたのはフライパン。
それを大きく振り上げて、俺に迫ってくる。
「三太さん! それは夢の世界じゃなく死後の世界へ旅立っちゃいます!」
「それもまた一興!」
いや! 全然面白くないから!
迫ってくる三太さんから逃げるため、急いで玄関まで行き、ドアを開けてポンポコさんの家の中に逃げ込む。
急いで鍵をかけなきゃ!
慌てているせいかなかなか鍵がかからない。三太さんがドアノブをひねって開けようと言う瞬間、ようやく鍵をかけることに成功……。
ふう、助かった。
「こらあ! ヤス! ここを開けろ! 今開けたら許してやる!」
めっちゃ許す気0じゃないっすか!? そんな口調で言われてもここを開けるわけにはいかないっす!
「……三兄、さっきから何騒いでんの? ってヤスじゃん、今日はどうしたの?」
背中の声を聞いて、後ろを振り返れば四狼。
「四狼! ヤスをふんじばれ! ポンポコを泣かせた張本人だ!」
……三太さんが声をかけた途端、四狼の顔つきが変わった。
親の仇にでもあったような顔。そこまで俺が憎いか。
「待ってろヤス、今から包丁を持ってきてやるからな……」
四狼……発言が過激すぎる。こちらを警戒しながら、台所の方へ向かっている。ほんとに包丁を持ってくる気じゃないだろうな……。
しかし、この状況はどうしよう……どちらに逃げようとも敵が待っている。前門の虎、後門の狼……。
自分が身動きとれずにいる状況を見て、もう俺が動くことが無いと判断したのか、一旦台所に消えた四狼。
四狼がいなくなった、三太さんは中に入って来れない……動くなら今がチャンス。今なら2階にあるポンポコさんの部屋まで障害物は何も無しでいける!
四狼がまた姿を現す前に玄関からポンポコさんの部屋まで一気に駆け上がる!
半ばまであがった所で四狼がまた台所から姿を現した。
「待てや! てめえはポンポコの部屋には絶対入れさせん!」
やばいやばいやばいやばい! まじで包丁もってやがる! 何考えてんだよあいつ!
残りの階段を一気に駆け上がり、一番手前のポンポコさんの部屋に逃げ込み、近くにあったものでつっかえ棒をたてて四狼の侵入を防ぐ!
「てめえ! あけろや!」
どんどんと激しい音を立ててドアを叩くが、つっかえ棒が邪魔をして四狼は中に入って来れない。
四狼に何を言われようと、絶対に開けません……助かった。
……ポンポコさんにあいにきただけで、なぜこれほどまでに障害があるんだろうなあ。
さ、とうとう本番のポンポコさん……一番の難関、ちゃんと許してもらおう。