225話:さけべ
まだ今日の昼休みは結構時間が残ってる。
屋上には誰もいない。さけぶには絶好のタイミングだ。
「んじゃユッチ、今からさけぼっか」
「うん!」
すごくうれしそうに返事をしてくれるユッチ。それじゃ、一緒にさけぶか。
すぅ……はぁ……すぅ……。
「県大会に出場するぞー!」
「県大会に出場するぞお!」
「東海大会に出場するぞー!?」
「東海大会に出場するぞお!! ……ヤス?」
「全国大会に出場するぞ?」
「全国大会に出場するぞお……なんでさっきから疑問系なんだあ! ヤスう!」
「や、だって現状の俺、地区大会36位だし。この状態で全国に出場だあってなんだか……」
「気持ちで負けるな、ヤス」
……んなこと言っても、言葉に出しても心で無理だと思うことはなんとも本気でさけべないっす。
「ヤスの言うとおり、現実と向き合うことも大事だ。だが、それと同時に、大きな目標も立てよう。小さな目標を立てても、『いつかできる』とあまり努力できない。全国出場という大きな目標を立て、必ず達成するのだと強い気持ちを持とう」
それは聞いたけど……俺にとっては雲の上というか……。
「全国大会出場なんて夢物語に聞こえる」
「思っているだけでは夢はいつまでも夢だぞ、ヤス。夢を描くのは楽しい。夢を追うことは苦しい。だが、夢を達成した瞬間はもっと楽しい。できなくても、夢を追っていた時期は苦しくとも振り返ればとてもいい思い出だ」
ポンポコさん、どれだけ壮大な夢を今まで追っていたの?
「……と私の父が言っていた。だからヤスもがんばれ」
……ポンポコさんの父はどんな夢を描いて、追っていたんだろうか。
人生の先達者の意見、しっかり参考にさせていただこう。
「んじゃユッチ、やり直しさせて」
「いいよお!」
ユッチが快くOKしてくれた。
すぅ……はぁ……すぅ……。
「インターハイ、強豪校がどうしたー!」
「インターハイ、強豪校がどうしたあ!」
「俺たちは、ぜったいぜったい県大会に勝ち進むぞー!」
「ボクたちは、ぜったいぜったい県大会なんかで負けないぞお!」
「東海大会でも、観客の度肝をぬいてやるぞー!」
「ボクたちは東海大会出場選手ぐらい、軽くぶったおしてやるんだあ!!」
「全国大会に出場するぞおー!!」
「全国大会で大活躍だあ!!」
……ふぅ。
「なんか、さけぶとすっきりするなユッチ」
「ほんとだあ、なんかすっきりしたあ」
恥ずかしいって気持ちも、屋上に俺ら3人以外誰もいないからか、特に沸いてこない。
「さけぶとストレスが発散できるというからな。思っていることを言葉にすることで開放が手に入り、大声を上げることそれ自体がストレス発散に役立つ」
「へえ、そうなんか」
毎日がストレスの人には効果絶大? 俺も時々さけぼっかなあ。
「特に誰にも聞かれていないところでさけぶのが効果が高いらしい。誰かに聞かれていると思うと、それがストレスになる」
いわゆる、『王様の耳はロバの耳』効果だな。あれは結局聞かれちゃって……その後どうなったんだっけ?
馬鹿には見えない服を着てるんだと言い張る王様に対して『はだかの王様』って言いたくて全然いえなかった王様の執事や側近の人たちはストレスがたまって仕方なかったに違いない。
屋上には誰もいないので、確かに恥ずかしい気持ちはわいてこない。ストレス発散には絶好ですな。
「ヤスもユッチも、学校生活や家で、いろいろとストレスがたまっているのではないか?」
「まあ、俺はいろいろあるな」
「僕も結構たまってるよお?」
ほんとか!? 最近のユッチ、いっつも明るいしストレスとは無縁かと思ってた。
「ここでたまには大声でさけんでみたらどうだ? ここなら私たち以外誰も聞いていないぞ」
「あっ、それ面白そう! ボクやってみていい?」
……ユッチ、そんな簡単にのせられるなよ。
「いいぞ、どんどんやってみてくれ。ヤスはどうだ?」
「ポンポコさんがやるなら」
人にやらせて自分だけ逃げようったってそうはいかねえよ。
「私のストレスはヤスで発散しているから大丈夫だ」
……はい?
「イライラしてストレスがたまって、何かにあたりたくてたまらないときは、ヤスにどぎついメニューを言い渡して楽しむ。これが私のストレス発散方法だな」
「……それはひどくないっすか? それで怪我したらどうするんすか」
ポンポコさんのメニュー、信じてやってきたのに。時々ストレス発散に使われていたとは。
ってか俺がぜーぜー言ってるの見て楽しむってどれだけSなんすか。
「怪我しない程度に考えてやっている。ヤスのレベルアップにもつながるのだから気にするな」
気にするよ! そんなことサラッと言わないでくれ!
「じゃあ、先にボクが叫ぶう!」
ユッチ、そんなにストレスがたまってるなんて思ってなかったけど、ユッチは何をさけぶんだろ。
ユッチのさけびがちょっと楽しみ。