224話:待ってる時間も
今日は10月17日金曜日。
お昼休みののんびりした時間帯。ケンと校庭に来て昼食中……だったのだが。
「見つけたぞヤス、今日という今日はやってもらうからな」
「……ポンポコさん、勘弁してください」
「残念だったなヤス、とうとうみつかっちまったなあ」
……今までずっと逃げていたのだが、とうとう昼休み、ポンポコさんに捕まってしまった。
「いいや、勘弁なんぞしない。夏休みの時に昼休みは屋上に来て叫ぶと約束してたではないか」
約束とは当事者間の合意……双方がいいよって言って初めて成り立つものだと思います、一方が強引に決めた取り決め、それは強制というものだと思います、ポンポコさん。
「私は毎日屋上で待っていた。だが、待てども待てどもヤスは来ない」
そりゃ行きたくねえんだもん。
「こうなったら引っ張ってでもヤスを連れて行く。そう一念発起して校舎内を探したが、全然ヤスがみつからない」
そりゃ隠れたもん。ポンポコさんの姿が見えたら逃げたし。
「1つ聞きたいのだが、何が嫌なのだ?」
「恥ずかしいだろ。ポンポコさん、ようく考えてみてくれ。誰もがまったりと過ごしている昼休みに校舎の屋上で、俺が1人で大声で叫んでいる……みんながニヤニヤと俺の事を指を指すのが想像できちゃうじゃんか」
「ヤス、人の噂も75日だ、人の噂なんてすぐに消えてなくなる。ヤスがどんなに恥ずかしい事をしようと75日経ってしまえば皆忘れる。気にするな」
「このことわざを聞くといつも思う……75日ってなげえよ! 俺は75日も耐えられません」
「75日とは、季節が変わる事を言うのだ。春から夏に変わってしまえば、噂なんて忘れてしまう。だから悪い噂が立てられようと、季節が変わってしまえばみんな忘れるんだからくよくよするなということわざだ」
へえ、知らなかった。
「だからヤス、ヤスがどんな変な事をした所で季節が変われば皆忘れる。屋上へ行ってやろうじゃないか」
嫌です。どれだけ他人がその事を忘れようが、本人にとっては一生の傷になって残るんです。
「ちなみにしってるかヤス、英語だとこれは『世間の噂もたった7日』と言うことわざに変わるんだぞ」
よく知ってるなケン……しかし、7日と75日ってずいぶん差がある気がするのは気のせいか? 75日は嫌だ。
「ヤス、遊びでも本気の勝負でも、ヤスはギリギリの所でいつも負けているだろう? ついこの間もアオちゃんとサツキにコンマ数秒の所で負けていた」
「大きなお世話です」
ほんとに大きなお世話じゃ。
「ヤスは負け癖がついている!」
……ものすごく大きなお世話じゃ。
「気持ちで最後の最後、相手に負けているのだ。思いっきり叫んで負け犬根性を全て吹っ飛ばして気持ち改革だ」
「めんどいから嫌。そんなんで負け犬根性無くなるんかい。ってか負け犬って言うな」
「そう言い訳をして何もしないから負け組になるんだ」
……でも、勝ち続けるって、いつも自分を精進し続けながら、負けないように気を張っていないといけないんだろ。大変じゃん。や、そもそも「勝ち組」「負け組」という言葉はあるけど、個人的には今を思いっきり楽しんでいる人が勝ち組と思います。
「ヤス、拒否権も黙秘権もヤスには無いのだ。おとなしく私についてきて、叫ぼう」
犯罪者ですら黙秘権はあるのに……どれだけ俺の権利は無いんだろう……?
「ああ、ヤスう。やっと来てくれたんだねえ」
ケンは1人教室に戻ってポンポコさんと俺と2人で屋上にのぼって行ったら、ユッチが誰もいない屋上の中、1人でちょこんと座っていた。
……なんでここにユッチがいるんだっけ?
「ユッチっていっつも昼休み、ここに来てたの?」
「そうだよお。だって約束したじゃん、一緒に叫ぼって。ボクが屋上に来てなかったら、約束が守れないだろお?」
確かに、ユッチとはそんな話をしたかもしれないけど、ずっと来なかった俺を律儀に待つ必要は無い気がする。
「俺、屋上で叫ぶの嫌だって言ったじゃん。ずっと来ない可能性だってあっただろ?」
「嫌だって言っても、いつか来るかもしれないからさあ。やっぱり待ってたいって思ったんだあ」
「来てよって言えばよかったじゃん。毎日あってんだから、いつでも言う機会があっただろ?」
「来たくなってから来て欲しいなあって思ったんだあ。いやいややるのはつまらないだろお?」
そりゃそうだけどさ。
「来るかどうか分からないのに待ってたんか……待ってる時間ってすごく長く感じられてつらいだろうが」
待ってる時間って言うのは、何かしてる時間よりもすごく長く感じられてしまうもんだし。
俺には無理っす。30分待ったら、帰るか探しに行くかしそうだ。
「別に気にしないよお。待ってる時間も、楽しみの1つだもん。楽しみの時間は、長い方がいいもん」
……ごめんなさい。今まで来なかった事、ユッチにすごい悪い事してたな。明日からちゃんと来るようにしよ。
おはようございます、ルーバランです。
「待ってる時間も〜」というセリフの元は『H2』のどっかです。知らなくても特に問題ありません。使っていいのかという問題はありますが……優しい目で見逃してください。
それでは。