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222話:みんなで頑張ろう

「……」


「えと……サツキ?」


「……」


「えと……ユッチ?」


「……」


「なあ、アオちゃんさあ」


「……」


誰か、この重苦しい空気をどうにかしてくれないか。俺がいない間、この3人の間でどんな会話があったか知らないけど、夕飯出来たぞって呼びにいった瞬間からこの空気だった。ユッチもサツキもアオちゃんのブルーな空気に伝染したのか、めっちゃ暗い。


「な、なあ! とりあえず夕飯にしよう! 俺、ものすごく色々考えた結果このメニューにしたんだぞ。夕飯はおいしく食べようぜいぜい!」


「…………」


……笑うことが大好きで、落ち込んでいる時間がもったいないと思っているサツキや、どんなときでもいつでも元気なユッチまでここまで落ち込むとは……ネガティブな気持ちというのは伝染すると聞いた事があるけど、本当なのかも。


「さてさて、俺が考えた今日のメニュー。キャベツ、ねぎ、豚肉、いか、あげ玉、そして小麦粉と卵等々で作った生地のもと。そして目の前にはホットプレート……見て分かる通り、お好み焼きだあ!」


「…………」


誰からも返事が無い。お通夜でもあるまいし、静かに食卓を囲うのはやめよ?


「お好み焼きと言う名の通り、さっきの代表的な具材以外にも、もち、キムチ、もやし、にら、エビ、ホタテ等々、いろいろ準備してみたぞ! かけるものもソースにしょうゆ、マヨネーズにからし、ケチャップと何でも取り揃えた!」


「…………」


……お願いします、声を聞かせて。ここまでノリノリな自分がバカみたいなので、どなたか発言をお願いいたします。


「ほれほれ、ユッチ。何か作ろう!」


「…………」


こらユッチ、女の子同士じゃないと話せない話をいっぱいしたんだろうが。アオちゃんを元気にするんじゃなかったのかよ。


「ほら、ユッチのために子供向けのベビースターラーメンも準備してみたんだぞ」


「……はあ?」


「ユッチ、ベビースターラーメン好きだろ? うまい棒の方がよかったか? どっちも子供が大好き!」


「ボクは子供じゃないい! 夕ご飯にお菓子を準備なんてするなあ!」


……始めて声が聞けた。罵声なのになんだか嬉しい。


「はいはい、分かったから何か作ってみ? それともお子様用のお好み焼きを作ってやろうか? 甘口、やわらか、ミニサイズ」


「子供扱いするなあ! ヤスだって精神年齢小学生のくせにい!」


精神年齢小学生という言い方をすると駄目なやつに聞こえるので、童心を忘れずに成長したと言ってくれ。


「はいはい……ま、一枚目は俺が作るか」


サラダ油をしいておいたホットプレートの上にまずは生地を薄く伸ばす。その上にたっぷりのキャベツ。ちょっとだけあぶっておいた肉をのせて、ネギ、あげ玉、イカを順々にのせていく。最後にもう1回生地を上からかける。


「ヤスのお好み焼きって普通なんだねえ……」


「普通なものほど美味い。王道こそ最強。アオちゃんもそう思うだろ?」


「…………」


ありゃ、まだアオちゃんに話を振るのは早かったか。

そうこうしてる間に一番下の生地がいい感じに焼けてきているので、フライ返しを使ってホイッとひっくり返す。フライ返しでひっくり返す瞬間、過去にお好み焼きを何十回とひっくり返してきたにもかかわらず、なんだかすっごい緊張してしまう……いくぞ。


「ほいさっ!」


べっしゃあ!


「あっはっはあ! ヤスったら失敗してるう! へったくそお!」


「ユッチ、うるさい! いつもの使い慣れたフライ返しを使えばこんな失敗しないって!」


「ヤス兄ってば、失敗を道具のせいにしちゃ駄目だよ」


……ユッチもサツキも、俺が失敗した瞬間に元気になりやがって。そんなに人の失敗が楽しいか…………楽しいな。


「いいんだよ! 失敗してもこうやってフライ返しできれいに形を整えていけば!」


はみ出してしまった具材をフライ返しでちょちょいと整えていき、ぎゅっぎゅっとお好み焼きを上から押さえつける。


「うああ! ヤスう! 何生地の上から押さえつけてるんだよお!」


「ん? 上から押さえつけるとジューって音が気持ちよくていいだろ?」


「何バカな事言ってるんだあ! そんな事したらせっかくふっくらしたお好み焼きが出来上がるはずなのに、硬くなっちゃうだろお!」


「え? そういうものなの? 屋台で売ってるお好み焼きって大抵上から押さえつけてない?」


「それは早く焼けるようにするためだあ! 上から押さえつけないなんて当たり前だあ!」


……当たり前だあ! ってほんとかあ?

きゃんきゃんとユッチと言い争いをしながら、俺作のお好み焼き完成。4等分してそれぞれの皿に盛りつけ。


「やっぱり硬いんだあ……もっとふわっとできるはずなのにい……よおし、みてなよおヤス、次はボクがつくるう!」


「ふんっ、それだけ大口を叩いたんだから、うまいやつを作ってみろやあ!」


「みてろおヤスう!」


おしおし、じっくりみてやろうじゃないか。

って……ええっ!?


「ちょちょちょい、いきなり何やってんの!?」


「ええ? 肉とイカ以外は全部混ぜちゃったほうが、簡単にできるんだよお? 関西風お好み焼きはみんなこうやって作るんだあ」


「……そなの?」


「そおそお。いっぺん食べてみたらおいしいのが分かるからあ、黙って座ってみてなよお」


ジュジュジュジュジュジュー……


「ユッチ、いい音たてるねえ」


「いいだろお。屋台でも、この音聞くとついつい頼みたくなっちゃうんだよねえ」


「焼き上がっていく様子をじっと見てるのもいい」


「焼いてる時に漂うこの匂いもたまらないんだあ」


「分かる分かる。お好み焼きは4段階の楽しみが出来るよな。耳で楽しみ目で楽しむ。鼻で楽しみ、最後は口で楽しむ」


「うんうん!」


ユッチとおしゃべりをしつつ、焼き上がるのを待つ。

いやあ、ほんといいにおい。


「ねえヤス兄、ユッチ先輩。ホットプレートのあいてるところで私も作っていい? ユッチ先輩が作ってるのみてたら私も作りたくなっちゃって」


「どぞどぞー」


サツキもいつもの調子が戻ってきた。後はアオちゃんだけ。


「ほれ、アオちゃんも焼いてみ。お好み焼きは自分のお好みで作るのが楽しく、人が作ったのと食べ比べるともっと楽しい」


「……わかりました……」


おしおし、この場の食卓に参加するきっかけをつかませた。

このままアオちゃんを引き込んで…………!?


「うおおい! アオちゃん、さすがに生地が多すぎじゃないか!?」


「アオちゃんアオちゃん、キャベツそれだけしか入れないんじゃお好み焼きじゃなくて生地焼きだよお! ネギも入れてネギ焼きにしようよお!」


「アオちゃん先輩、豚肉入れすぎですよ! 重なってます!」


「……みなさん、これが私のお好み焼き。食べれば分かります。これがおいしいんです」


うそお!


「さっきヤス君も言ったじゃないですか。『お好み焼きは自分のお好みで作るものだ』と」


いや、言ったけど程度があるって!


「ああ、アオちゃん先輩! 私のお好み焼きにくっつきます! ガードしてガードして!」


「アオちゃんん! ボクのお好み焼きの上にひっくり返さないでよお! ああああ……ボクの最高傑作があ……ううう、ひっくり返すとき慎重にやってよお!」


「お好み焼きをする時は、ホットプレートの上は戦場と化すんですよ。知らなかったのですか?」


……そんな話は聞いた事が無い。


「アオちゃん、肉が飛んだ!」


「イカも飛んだあ!」


「ホタテが! ホタテが空を舞ってる!」


「もやしが、もやしが立ったあ!」


「みなさんあせりすぎです、冷静な心を持ちましょう」


『焦らせてる張本人が言うなあ!!』






……。


「あれ? めっちゃうまいな。このみんなで作った混ぜこぜ焼き」


あんな作り方をしたのにびっくり。


「でも、もうどの部分を誰が作ったのか全然分かんなくなっちゃったね」


「うまけりゃそれでいいって」


「そだね」


いやあ、一時は大惨事になるかと思ったけど、この混ぜこぜ焼きが何故か成功を収めてる。


「みんなの慌てっぷり、ちょっと面白かったですね」


「楽しんでたのはアオちゃんだけだけどな」


「……ごめんなさい」


ごめん、嫌みを言ってしまった。





「はふぅ……おいしかったあ」


その後もみんなでがやがやと叫び合いながらお好み焼きを作って食べた。最後は残った具材を全部1つのボールに入れてどでかいお好み焼きを焼くぞーって作ってみた。みんなで一致団結して頑張ってひっくり返す。ユッチの顔に生地が飛んで大笑い。


「ヤス兄、またやりたいね。お好み焼き」


「んだな。今度はもんじゃ焼きとかに変えてみたいな」


自宅でもんじゃ焼きは難しそうだけど、楽しければよし。


「……とここでちょっと話も変えるけど」


「ヤスう、なんだよお」


「アオちゃんさあ、前『頑張れって言わないで』って言ってたじゃん」


「……」


「『頑張れ』っていう言い方変えよ。『みんなで頑張ろう!』」


「……?」


「頑張れって聞くと、『自分は頑張ってないけどアオちゃんは頑張れよ』とか『俺は頑張っているんだから頑張れよ!』って聞こえるけど、俺もユッチもサツキも、そういうわけじゃなくってさ」


「……」


「みんなで頑張っていけばいいと思うんすよ。1人で思い悩む必要は無いと思うんすよ」


「……でも」


「成果が出ない悩みってみんな一緒だよ。1人で悩むより、みんなで考えようよ。お好み焼きだってさ、1人っきりで焼くより、みんなで食卓を囲みながらわいわい作った方がおいしいじゃないっすか。スポーツだって一緒っすよ。1人っきりでやってるより、みんなで頑張ってやっていった方がきっと結果がついてくるよ。だから『みんなで頑張ろう』よ」


「お好み焼きと陸上を混ぜこぜにするヤス兄」


なぜチャチャを入れる……サツキ。


「そうですね、みんなで頑張ろうですよね……うじうじしててもしょうがないですもんね」


そうそう、そう考えよ。


「ユッチ、サツキちゃん、ヤス君……ごめんなさい、いろいろと」


「いやいや、『こんな時に言う言葉はごめんなさいじゃないんだよ』って声をかけるのが王道か? アオちゃん」


「それで『ありがとう』って返事するのが王道ですね」


ですな、お互いに軽口を叩いてははっと笑いあう。


「また思い悩んだらみんなで集まってお好み焼き、焼かせてくださいね」


そだな、そんな時はまたお好み焼きを焼こう。

……これからも『みんなで』頑張っていこう。


おはようございます、ルーバランです。


アオちゃんの悩みについて工場長先生からアドバイスをいただきまして、大変参考にさせていただきました。

工場長先生、本当にありがとうございます。


それでは。

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小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
オーダーメイド
ええじゃないか
うそこメーカー
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