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22話:山本武、もとい……

今日は4月18日金曜日。仮入部期間の5日目だ。


昨日と一昨日は、ケンをつれて無理矢理別の部活の見学に行った。

俺が、チーム競技は嫌だと言ったので、個人競技である卓球部とテニス部の練習に参加してきた。


……だが、どちらも空振りばっかりだった……。

ケンも俺も卓球の試合をさせてもらったのだが、サーブで自分たちの陣地に入りさえすれば点が入ってしまう。つまりサーブにリターンを返せないのだ。

逆に自分たちがサーブのときは、ボールにかすりさえしない。


次の日にテニス部に行っても同様だった。

テニスボールをホームランする初心者はいたが、空振りを連発する初心者は俺とケンだけだった。顧問の先生も、そんな生徒は今まで見た事無いと苦心してたし。

最後には顧問の先生もさじを投げて、


「もう来るな」


ってと言ってしまうなんて思いもよらなかった。

新入生で言われたのは俺とケンだけだ。


はっはっはっ………むなしい……。



まさか野球部のときのバッティングの下手さが、こんな所にまで反映されるとは思っても見なかった。

だが、個人競技はまだ他に一つ残っているぞ……剣道部だ。今日はそこにいくつもりなのだ!


「待ってろ!大山高校のタマちゃん!」


「……ヤス、きもい」


今は昼休み、ケンと昼食をとっている。昼食は作る時間が無いから、俺はコンビニで適当に買って食っている。ケンは家で祖母にお弁当を作ってもらっている。


「ヤス、いくら卓球部とテニス部で酷評されたからって自我を崩壊させるのはどうかと思うな」


うるさい、俺は繊細なんだ。


「だいたい、人付き合いは最低限にするんだろ?だったら対人競技より、陸上の方が一人で集中できる。お前にぴったりだ!」


「……お前に流されているってのが嫌なんだ。自分で探したいという俺のこの心意気が分からんのか?」


「分からんな」


「……一刀両断に切り捨てたな、ケン……」


「なあヤス、さっきからテンパり過ぎて性格が変わり過ぎだ。もうお前には陸上の道しか残されてないんだから、腹をくくってさっさと陸上部に入ろう。そうしないと俺とウララセンセの貴重な時間が失われるだろ!」


「最後のが本音だろ!お前の思い通りになんて動いてやるか!最後まで抵抗してやる!」


「全く……ん?」


「どした?ケン」


「いや、さっきからちらちらと廊下から、こっちをのぞいてる人がいるんだが……知り合いか?」


「廊下?」


俺は振り返って廊下を見てみた。

えーと、あれは山本武だったかな?


「悪い、俺の知り合いみたいだ」


「何?お前に高校でこのクラス以外に知り合いがいるなんて、明日は雪でも降るのか?」


「お前も見た事があると思うんだが……陸上部長距離に1年生で参加してる、山本武だ」


「ん?えーと……悪い、思い出せん」


「まあ、たいてい人の後ろとかに隠れるような人みたいだしな、前に帰り道で行ってた変なやつとはあいつの事だ」


「……確かに変だな。お前といい勝負をしそうだ」


「何言ってんだ!……まあいい、ちょっと行ってくるよ」


「ああ、行ってきな!……いい傾向だ」


俺は廊下に向かって歩く。

俺が向かってきたのに気付いたのか、おどおどし始める山本武。


……こいつがもしも女だったら、すごいいいシチュエーションになりそうだ……。


「よ、山本武。なんか用か?」


「…………」


黙って俺をびくびくしながらも睨みつける。


「えーと、なんか俺に言いたい事があるの?」


「……き、昨日……一昨日……」


やっぱり単語でしか話さない。こいつ、高校入試の面接の時、どうしたんだろ?


「昨日、一昨日って……あれか?俺が陸上部の仮入部に行かなかった事を言ってるのか?」


こくこくとうなずく山本武。いい加減山本武という言い方を変えたいんだが、なんかいい呼び方は無いだろうか?


「だって、まだ仮入部期間だろ?それなら、陸上部以外のも回ってみてもいいじゃん。大体俺はまだ陸上部に入るって決めた訳じゃないけどな」


本当はかなりの確率で決定してるが……今日の剣道部が駄目な時点で自然と陸上部に行く事になってしまう……。

山本武はすごくさみしそうな顔をする。いや、俺が悪い事をしてるみたいじゃん……。だからそう言う顔は止めてくれ。


「あれ?ヤス君がケン君以外の人と話してるなんて珍しいですね」


でた、アオちゃん。クラスで隣の席に位置するからという事で、毎時間の休みに話しかけてくる。

昼休みの時間は他の女子と過ごすようなんだが、今日はちょっかいを駆けてきた。


前に一度、何でそんなに話しかけてくるのか聞いたら、


「だって、構いたくなるような顔してますもん」


って言いやがった。どんな顔だよ!そんな変な顔してないよ!


で、そのアオちゃんが今俺に話しかけてきたという訳だ。

普通に話すようになったら負けな気がするので、相変わらずアオちゃんには敬語でしゃべってる。


「……いや、そんな珍しくもないですよ……?」


「珍しいですよ。ケン君以外の人にはヤス君から話しかけたのを見た事ありませんもん、声をかけられたらちゃんと答えてましたけど」


そうだったかな。あんまり覚えてない。


「そういえばその人は……陸上部の集合の時に見かけた事ありますね。名前は知りませんが、教えてもらえませんか?」


「……………………」


「恥ずかしがりやみたいですね。ヤス君は知ってますか?」


「……山本武<ヤマモト タケシ>って言いますよ……」


「そうですか……それじゃ、タッちゃんでどうですか?」


「またあだ名ですか!?しかもタッちゃんは色々まずいです!」


「……うーん、難しいですね。ヤス君。何か無いですか?面白く分かりやすくでお願いします」


またその振りかよ!その振りすごい難しいんだってば!














「え、えーと……<ヤマピョン>……」













「……………………」














もうこの展開やだ……。アオちゃん、どうつっこめばいいか分かりません。って顔しないでくださいよ。

こう言うのはケンが得意だろ?ケンがあだ名考えてくれよ。


「……お、俺が……や、ヤマピョン……?」


いや、別にそれじゃなくていいよ。ヤマピョンはちょっと恥ずかしくないか?つけた俺も恥ずかしい。


「……や、ヤマピョン……」


なんか決まりそうだ……アオちゃん、別のを考えて下さい。お願いします。そんなあさっての方を向いてないで下さい。


「……う、うん……」


いま、きっとこいつの中で、肯定したんだろうな、<ヤマピョン>を。これからこいつの事を、ヤマピョンと呼ぶのか……。


「それでは、私が二つ名を与えちゃいましょう!<猫娘キラー、子犬>なんてどうですか?ヤマピョン。あ、ちなみに猫娘というのはヤス君の事ですよ」


「ちょっと待て!何で俺が絡んだ二つ名になるんだよ!?」

「だって、このヤマピョンのつぶらな瞳に怒鳴る事も出来ず、猫娘ヤス君はただただヤマピョンを甘やかしてしまってます。それはまさに子犬の仕草!私がどんなに苦心しても中々心を開かせる事が出来ないのに、こんなにも簡単に開かせてしまったこの人には、まさに猫娘キラーの称号がふさわしいです!」


やっぱり、アオちゃんの思考回路はどこかおかしい。というか、別に心を開いてなんて無いよ。




「ところで、何の話をしてたんです?」


「……話をしてた訳じゃないんですが……俺、昨日、一昨日には陸上部の練習に参加しなかったじゃないですか」


「そうでしたね。私もずっと待ってましたのに……よよよよ……」


「……そんな変な嘘泣きは止めて下さい……、で、どうしたのかとヤマピョンが様子を見に来たみたいです……」


「それはそれは……ヤス君、なつかれてますね」


「……何かした覚えは無いんですが……」


「せっかくヤマピョンが来てくれたんですし、今日は陸上部に来ますよね?」


「……俺、今日は……けんど……」


「あっ、ケン君と来るんですね。楽しみに待ってます」


「いや、ケンとじゃなくて、けんど……」


「そんなケンケン言わなくても、ヤス君がケン君大好きなのは、クラスのみんなが知ってますから」


その言い方止めて!二つ名<腐女子>ことナベリンが喜びそうだ!

……ってか喜んでる!聞き耳たてないでよナベリン!


もうアオちゃんはほっといて、ヤマピョンに直接断ろうとヤマピョンの方を向く。


「悪いんだけど……今日は俺……」


その寂しそうな目で見つめるな!お前は捨てられたチワワかよ!

…………俺は他の人なんてもう気にしないはずだったのに


「……俺が陸上部に行けばいいのか?」


ついつい言ってしまった。……負けた。こいつのすがるような目に負けてしまった……。

パッと嬉しそうな顔になり、こくこくとうなずく。

何がこんなになつかせてしまったのだろう……。俺、こいつを喜ばせるような事した覚えは無いぞ。


「わかったよ。今日は陸上部の練習に行くよ」


これで陸上部の入部が決定的になったな。剣道部の雰囲気がどんな所かも分からないまま入部はしたくないし。……決定打をケンではなくこいつにされるとは……意外だった。


今回決まった一番大事な事は俺の陸上部入部が決定したという事だな。

まあいいさ、1人で走るあの雰囲気は嫌いじゃなかったし。


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