219話:君は君だよ
専門種目ではないとはいえ、女子部員全員に、妹にまで負けてしまって激しく落ち込んでいます。
……まあ、負けることなんて慣れてるけどさ。なんだか負け犬根性が身にしみてしまっているようで嫌やなあ……。
「ところでヤス?」
「……なんですかウララ先生」
落ち込ませた張本人が何か俺に用ですか?
「落ち込んでるみたいだから一言言っておくけど、私が手塩をかけて育てているメンバーなんだから、負けて当然よ」
……ウララ先生。あなためっちゃムカつきますね。負けて当然だと思っている人に無理矢理参加させた訳っすか。
「ヤスくらいに負けるようだったら、陸上部顧問引退するわよ」
ものすごく腹が立つ。いっそのことひきずり下ろしてやりたいと思うのは俺だけではないはず。
あの時、アオちゃんとは0.5秒も差がなかったよな。あと少しでウララ先生を顧問からひきずりおろせたのに……。
「悔しかったらもうちょっと強くなってきなさいよね」
「……………………………………あ。はい!」
あー、ようやくわかった。発破をかけようとしてくれてたんですね。ウララ先生の気持ちはわかったけど……このムカついた気持ちを発散させたい。
「ウララ先生、とりあえず1回だけ殴らせてください。叩くでも蹴るでもチョップでも何でもいいです」
「駄目駄目、鬱屈した気持ちは走って解消してね」
「……」
くう、すました顔が余計にムカつく。殴りてえ。
その後ポンポコさんが400m1本勝負だけじゃ練習量が少なすぎると言い出し、10000m、キロ4分のペース走をやった。
400mですでにかなり肺に来てたので、ものすごいきつかった。短距離の練習に参加したくないと言う気持ちがとても芽生えた1日だったな。
練習も終わって、今は帰り道。相変わらずアオちゃんはブルーなまま。
「アオちゃん、元気を出してよお」
「ユッチ、私は元気ですよ」
さっきからユッチが必死でアオちゃんを励ましてるんだけど、ぬかに釘、のれんに腕押し、馬の耳に念仏といったことわざが思い浮かんでくるぐらい、アオちゃんから手ごたえのある反応がかえってこない。俺も、アオちゃんには元気になってほしいんだけど……。
「全然元気じゃないよお。アオちゃん、明るくなってよお、今の時点で今のタイムだってことなんて、そんなに気にすることないじゃんかあ」
「そうだぞ、そんな事言ったらアオちゃんに負けた俺なんかどうするんだよ。立ち直れないじゃんか。引きこもりになっちゃうぞ」
「……」
ええと、ちょっとくらい反応してほしいなあと思うのは俺だけでしょうか。自虐ネタはひろってくれないとものすごくさびしい気持ちになるぞ。
「そうだよお? ヤスなんか、こんなに馬鹿みたいに元気なんだよお? アオちゃんがへこむ必要どこにあるのさあ」
……ユッチに馬鹿といわれるとは……人生をやり直したい気持ちだ。
「楽観的な人がうらやましいです。私には無理なんです」
……なんか俺がなにも考えてないみたいないい方しやがって……追い詰められてないと知っていたら怒るんだが。
「ボク、元気なアオちゃんのほうが好きだあ!」
「元気じゃない私は嫌いなんですね」
「そ、そそそそんなことないよお!?」
「元気な君が好き〜、きーみがーつーらいーきーもちにーなるととーたんにかーぜは さーむくなる」
「ヤス君に言われても別にうれしくないです」
……俺の存在って一体なんなんだろう……せっかくのスマップの名曲なのに、なにも意味がない。ものすごくこのあたりの風が寒くなったのは気のせいじゃないはず。
「ボクはボクだし、ゴーヤ先輩はゴーヤ先輩、キビ先輩はキビ先輩、アオちゃんはアオちゃんだよお! ほかの人と比べて何か意味があるの? どんなときだってアオちゃんはアオちゃんなんだから、そんなにアオちゃんが悩む必要ないよお!」
「私が強くならなければ、ゴーヤ先輩、キビ先輩と一緒にインターハイに出られないじゃないですか。強くならなければならないんですよ」
「でもでもお! もっと楽しくやろうよお! アオちゃんはアオちゃんのペースでいけばいいと思うんだよお! あせってもいい結果が出るわけじゃないんだからあ!」
「君は君だよ〜 だから誰かの 望むように 生きなくていいよ♪ 君は君だよ〜 だから僕にはかけがえない 1人なんだよ♪ 君は君だよ〜 他の誰にも かわりなんか できやしないんだかーらー♪」
「……」
あれ? すべったか? 俺の中では最高の1曲を歌ったつもりなのに。なぜ、この曲で反応してもらえないんだろう……。だが、俺は俺だ。どれだけすべっても俺は自分のキャラをつらぬきとおす。
「アオちゃんさあ、あせりすぎだよお。さっきゴーヤ先輩やキビ先輩とインターハイって言ってたけど、まだ半年も先なんだよお? 半年間、ずっとそんな気持ちでいるつもりなのお? もっと明るくいこうよお。新人戦でいい結果が出せなかったぐらいでへこたれないでさあ、もっとしぶとくいこうよお」
「jan jan jama jan jama jama ちゃんと! シブトク 強く! 明るくいきまーしょう!」
「…………」
「ヤスは黙ってろお!」
……俺なりにアオちゃんを元気付けようと思ってんのに。そんなにダメなのか……。
「そうだあ! アオちゃん、ボクの家においでよお。ちょうどおねえちゃんとおにいちゃん、外へデートに行ってて明日まで帰ってこないから今日はボク1人なんだあ。お父さんもお母さんも出かけてて帰らないって言ってるし。ボク、さびしいから来てくれないかなあ?」
「……私がいてもつまらないですよ?」
「大丈夫だよお! アオちゃんがいたほうがすごく楽しいもん!」
「盛り上がらないです」
「それも大丈夫! ボクとヤスとサツキちゃんで盛り上げるからあ! ね、ヤス、サツキちゃん!?」
ええと、俺にふるの? 黙っとけって怒ったくせに。
……ユッチのことなんか知ったことかと断ろうと思いつつも、ついうなずいてしまった。
必死なユッチの目を見てると断れない。アオちゃんにも元気になってほしいし。
サツキも同様に俺の隣でこくんとうなずいている。
「ありがとお! じゃあ今日はボクとアオちゃんとサツキちゃんとヤスの4人でパジャマパーティだね!」
「私まだ行くって言ってませんけど」
「……アオちゃん、お願いだから来てよお……アオちゃんがいないパジャマパーティなんてお肉がないすき焼きみたいなもんだよお……」
「……わかりました……でも、すぐに寝ますから」
「ありがとお! アオちゃん!」
……なんか強引だけど、今日はユッチの家でパジャマパーティ開催することに決まった。
アオちゃん、ユッチ、サツキ。
かわいい女の子3人とパジャマパーティ。ちょっとだけドキドキ。
こんばんは、ルーバランです。
スマップの名曲3つです。
1曲目、笑顔のゲンキ。
2曲目、君は君だよ。
3曲目、はだかの王様。
スマップの曲の中で、『君は君だよ』は『世界にひとつだけの花』に匹敵する名曲だと思っていたりします。私はしっかりCD持っていたり(^^
ぜひ一度聴いてみてください。
それでは。