216話:ブルーなアオちゃん
今日は10月11日土曜日。いつものように競技場へ行って練習をする。
アオちゃん、部活中だけじゃなくって、クラスにいるときでもちょっとブルー。前はクラスの中心になってクラスメイト達とおしゃべりしてたんだけど、最近は自分の席についたまま、机に突っ伏してる。クラスの中ですらそんな感じ、部活中ではなおさらブルー。ゴーヤ先輩ともキビ先輩ともサツキとも、ユッチすらともほとんど話してない……。
今週の月曜火曜辺りはまだ明るかったんだけど……必死で練習している気はするのだけれど、思い詰めすぎな気がする。
ううむ……何か声をかけたいんだけど……『頑張れ』って声をかけないようにって思ったら、なんて声をかけたらいいか突然分からなくなった。普段全然しょうもない話もたくさんしてるはずなのに、「この話はしないで」って言われた途端、何も話せなくなってしまった。
どんな話をしても、どっかで『頑張れ』って言いそうな気がしてしまう。
最近はもう朝の挨拶くらいしか話が出来なくなった。帰り道、アオちゃん、ユッチ、ケン、俺ら兄妹の5人で帰ってる時もしばしば無言の時が流れてしまい、何とも……。
「サツキ……本当に困った」
「私に困ったって言われても困るよ。だって私も困ってるんだもん。私もアオちゃん先輩に『頑張れ』って言いたいもん。ユッチ先輩もアオちゃん先輩にもっと頑張れって言いたいと思ってるよ」
うん、俺も頑張れって言いたい。頑張れって言葉は実は頑張っている人にかけたい言葉だよな。
頑張ってない人には頑張れなんて声をかける気にもならない。
「どうにかして、アオちゃんに頑張れって言葉をかけてあげられないかなあ……」
「ヤス兄、この前、ケンちゃんとしばらくは静観しようって決めたでしょ。そっとしといて欲しいって時もきっとあるんだよ」
……毎度毎度妹に諭されている俺、何か情けない。
陸上競技場についた。……あ、アオちゃんだ。アオちゃん今日は早いな……。
「アオちゃん、おはよっす」
「……あ、ヤス君、おはようございます」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
……や、やばい。まったく会話がはじまらん。アオちゃんも挨拶するときだけこちらを向いてくれたけど、すぐに目をそらしてうつむいてしまった。地面と延々とにらめっこ。
そんな思いつめたような顔しないでくれよ。
「い、いやあアオちゃん、今日はいい天気やね」
「……今にも雨が降ってきそうな曇天ですが。まるで私の心みたいです」
……え、えと……。
「き、昨日の野球面白かったよな」
「うちの家、テレビありませんが」
……そうだった。まずい会話を振ってしまった。
「き、今日はまだみんな来ないなあ……ユッチとかポンポコさん、来るの遅いな」
「いつもこんなもんですよ」
「そ、そうだったっけ?」
「ええ」
「そうだよな、まだ8時半だもんな。練習は9時からなんだから、こなくても普通だよな」
「……」
会話が終わってしまった。他には……何かネタネタ。
「ってか、今日アオちゃん早いね」
「私が早く来るの変ですか?」
「いや、別に変じゃないけどさ……珍しいなあって思って」
「私が早く着ちゃいけないって言うんですか?」
「や、そんなことは全然ないんだけどさ」
「ならいいじゃないですか」
「や、そりゃいいよ。別に悪いなんて全然思ってないよ」
「……」
あう、話がさっきから全然続かない。
「さ、最近どう?」
「何のことですか?」
えっと……どうって聞いたけど、俺はいったい何がききたいんだろう。
「体調とか」
「普通ですよ」
「悩みとか」
「普通ですよ」
「成績とか」
「普通ですよ」
「そ、そうなんだあ……」
「ええ」
…………サツキ、助けて。このブルーなアオちゃんに何か会話を振ってやってください。
サツキのほうを振り返ってみたけど、サツキのやつ、『私は無理!』って感じで遠くに逃げている。……こんな状態のアオちゃんとずっと俺が会話するの?
俺も逃げさせてください。
「き、昨日さ。サツキとスパイダーマン2のDVDを借りて見てた。スパイダーマン、かっこいいよな。誰に感謝されるでもなく、誰にその功績をたたえられるでもなく静かに人を助け、去っていく……すげえよな」
「見てないです。わからないです」
「あ……そ、そうなんだあ」
「……」
あ、あれ? もっと話が盛り上がるつもりだったのに……。
「『やなせたかし』さん作詞の『アンパンマンのマーチ』ってさ。『愛と勇気だけが友達』ってどれだけ友達いないんだよって思わない?」
「別にどうでもいいです」
「あ、そう……でも、実は『やなせたかし』さん作詞、歌『アンパンマン』の『勇気のルンダ』では『勇気ひとつが友達なんだ』……うわあい、友達減ったあ!」
「……」
「んでんで、映画『それいけ!アンパンマン 手のひらを太陽に』では『やなせたかし』さん作詞の『手のひらを太陽に』が主題歌なんだけど、『みみずだって おけらだって あめんぼだって みんなみんな生きているんだ 友だちなんだ! とんぼだって かえるだって みつばちだって みんなみんな生きているんだ 友だちなんだ! すずめだって いなごだって かげろうだって みんなみんな生きているんだ 友だちなんだ!』なんだよ。みみずもいなごもって……どれだけ友達やねん! って感じだよな」
「そうですね」
……どうでもよさげに返事された……。サツキにもう一度助けを求めたけど、ごめんと手を合わせてる。
……俺ももう、無理っす……今日はそっとしておこう。
最近更新頻度が低くてごめんなさい。