210話:コンドコント
10月3日金曜日。
サツキの授業参観日。
父兄の人と一緒に、なんでもいいから発表をするという授業。
授業参観のはずなのに、俺は現在サツキと2人で、サツキのクラスの壇上にあがっている。サツキのクラスメイトとその親達の視線は俺とサツキに向いてる。
……これって参観じゃなくて参加だよな。
うん、これからは授業参観日と言わず、授業参加日と言おう。
それじゃ、発表しますか。
「どーも、近藤家の兄ヤスです!」
「妹のサツキです!」
『2人合わせて『コンドコント』です!』
「コンドウとコントをかけたんだね、ヤス兄」
「その通りだ! うまいだろう?」
「んー……70点ってとこだね」
「ん、まあまあだな。合格点って事だろ」
「1000点満点で」
「低いなおい! 低すぎだろ!? もうちょっとひねりが必要なのか妹よ。 ……それじゃあ『コンドコンビ』とかはどうだ?」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「突然話を変えるな妹よ」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「こら俺の話を聞いてくれよサツキ」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「言葉のキャッチボールをしようじゃないか妹よ。あれだぞ、人の話を聞かないというのは友達から『KY』と言われるようになるんだぞ、『麻生? あっそう』とか言ってもKYだからな」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「聞いてくれよサツキ! ……ごほん。そうだな、大事だ。テニスの時の試合にオカエリさんと言う子がいたな。名字が岡、名前が恵里だった」
「双子の姉がシイコだったね、名字と合わせてオカシイコ。普通な子だったのに」
「変な名前にするとそれだけで目立っちゃうから、変な名前の子供って出来る限り目立たないように、普通でいるようにしようとするんだって。だからオカシイコさんはおかしくなかったんだよ」
「変な名前にしちゃ駄目だよね。オカ姉妹は結婚すれば名字が変わるからまだいいよね」
「逆に結婚して変な組み合わせになる事もあるよな。ユッチ家の姉の名前を知っているか?」
「知らないよ、何なの?」
「マコト」
「いい名前じゃん。どんな名字でも変な組み合わせにならなさそうだよ」
「ふっふ、残念」
「もったいぶるな、ヤス兄」
「すみません……結婚した相手の名字が『相戸』なんだって。組み合わせたら」
「『愛と誠』だね」
「『君のためなら死ねる!』」
「プロポーズのセリフはきっとそれだね」
「『たとえどんなに生き恥をさらそうと 人間が自分を偽ってはならぬもの。それが……愛!』」
「しつこい、ヤス兄」
「すみません、他にも『愛と誠』の名セリフを紹介したくなりました」
「言い訳するな。『男らしい男になれい』、ヤス兄」
「サツキもしつこく名セリフを紹介してるじゃん!」
「人がしているからと自分もするのか? 『男らしい男になれい』、ヤス兄」
「くう、こんこんと言いやがって。お、コンビ名思いついたぞサツキ、『コンコンコンドコンド』とかどうだ?」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「だから俺の話を無視するな!」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「妹よ、俺の話ってそんな無視したくなるのか?」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「妹よ、無視したくなってもたまにはにこやかに返事してくれよ。へこんで立ち直れなくなるぞ」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「文句を言っても効果がない……ごほん。ああ、大事だな。知ってるか妹よ」
「何を?」
「サツキが生まれたとき、サツキじゃなくて別の名前にしようとしてたんだが、その名前」
「知らないよ、何?」
「夢が生まれると書いて、夢生ちゃんだったんだぞ」
「いい名前じゃん。私たちに子供が出来たら付けてあげようよ」
「そうだな、つけてあげよう……って違う。ようく考えてみろサツキ。俺たちの名字は何だ?」
「近藤だよ?」
「続けて読むと」
「近藤夢生ちゃん」
「近藤夢生、コンドウムウ、コンドームウ、コンドームだったんだあ!」
「ヤス兄、死んでしまえ!」
「いたいだろ、思いっきり殴るな!」
「ヤス兄、死んで?」
「そんな笑顔で言わないでくれ。子供が出来てもそんな名前にしないから」
「芸能人とかぶるのも何か恥ずかしいよね」
「勇という名前もやめような。近藤勇になる」
「新撰組だね」
「井の中の蛙 大海を知らず されど空の高さを知る」
「ヤス兄、『恥ずかしいセリフ禁止!』」
「そのセリフは歯の浮くようなセリフを禁止するんだ。下ネタは禁止されていないな。近藤夢生は言い続けてもいいか?」
「妹にセクハラをして楽しい?」
「ごめんなさい、今度から気をつけます」
「よろしい」
「……お、コンビ名思いついたぞサツキ。『コンドコンドまた今度』って言うのはどうだ?」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「またかよ!?」
「ヤス兄、名前って大事だよね」
「無限ループしたいの? コンビ名について意見聞かせてくれよ」
「ずっと言ってるじゃん、『名前って大事だよね』って。コンビ名はもっと考えようよ。適当に決めるのはやめようね」
「そう言う意味かよ!? 最初から主語を言わんかい!」
「ずっと『名前』って主語を言ってたでしょ。キャッチボールしてないのヤス兄だよ」
「俺の方かよ!?」
「ヤス兄、KYだね。イニシャルもKYだし」
「俺はYKだ!」
「だから『読め、空気』でしょ?」
「もうええわ、『ありがとうございました! 今度今度また今度!』