21話:長距離の練習
今日の練習は学校周りを回るらしい。ゆっくりとしたペースで全員で回るから、遅れずについてきてくれと言われた。
……おれ、半年も運動してないよ、ブランクがあるから無理だろ……。
そう思ってスタートしたが、本当にペースはゆっくりだった。
俺は先輩達よりさらに5mほど離れて後ろにつき、のんびりと走っていた。
周りの風景を見ながら、淡々と走る。
野球部のときも、長い距離を走らされた事はあるが、かけ声を駆けながらだったから、周りの風景を見るなんて事、全く無かったな。
先輩達は余裕なのか、しゃべりながら走ってる。
……問題なのは、山本武という俺と同じ1年生だ。
なぜか、ずっと後ろにへばりついて、俺の影のようになって走っている。
……昨日、先輩達に何かされたのか?
そうなんだったら、よく今日も練習に来たな。
ゆっくり走り続けるだけだったが、少しずつ疲れてきた。ブランクのせいだ、きっと。
時計も持ってないし、距離が分かる指標も無いから、どれくらいは知っているのか分からないが、そろそろ終わりにするぞー!という先輩の声が聞こえたので、学校周りを回るのを止めて、学校内に入ってきた。
その後、軽くストレッチをして終了だそうだ。
なんか、短距離とは全然違うな。これは短距離と長距離の違いなんだろうか?
俺からひっついて離れようとしない山本武と、練習を開始する前にしたストレッチをもう一度行っておいた。
ちらっと横目で短距離を見てみると、短距離はまだ練習中らしい。
今日は高さが30cmくらいのハードルを出して、タタタッと素早くそれを越えていっている。
どういう効果があるかは知らない。後でケンにでも聞いてみようかな。
ウララ先生に練習終了の報告に全員で行って、挨拶をして終わった。
俺は、部室で着替えて、ケンが来るのを待つ。
先輩達はもう帰ったのに、山本武が、何故かまだ部室にいる。
「………………」
「………………」
ただ単に沈黙しているだけなら、俺は全然平気だ。そんな事には慣れっこになってしまったから。
だが!なんでこいつはずっと俺を見続けているんだ!しかも、ずっと真っ正面に座られていると、本当に落ち着かない。
体の向きを変えても、何故か俺の前に来てまたじっと見つめ続ける……。
誰か、こいつをなんとかして下さい……。
「えっと……山本武君……」
「は、はい!」
「……何で、帰らないの?」
そう聞いたら、人生の終わりのような悲しい顔をした。
お前は俺にどうして欲しいんだよ!!?
「……え、と……その……」
口を挟んだら負けだ。我慢して次の言葉を待つ。
「……俺……帰る……?」
疑問系なのがよく分からないが、帰ろうとしてるんだろう。
「ん、じゃあな」
そう言ったら、悲しげな視線をちらちらとこちらに向けて、帰って行った。
何故、追い出した気分になるんだ……なんか、なんも悪い事してないのに悪い事した気分だ。結局あいつは何がしたかったんだろう?
その後すぐに短距離も終わったみたいで、続々と陸上部の面々が部室内へ入ってくる。
「ケン、お疲れ」
「おー、お疲れ!長距離は終わるの早かったんだな」
「ん、まあね」
そしてケンが着替えるのを待って、その後、2人で帰る帰り道。
「そういや、あのちっちゃなハードル、どんな意味があるんだ?」
「あれをやると、足が速くなる」
「いや、そりゃ分かるんだけど……どうして速くなるんだ?」
「練習するからに決まっているだろ?そんな事も分からないのか」
「…………」
「ん、自分の馬鹿さ加減に気付いたか?これからもっと努力していい頭になるようにしろよ」
違うわ!お前の馬鹿さ加減にあきれ果てて声も出なかったんだよ!お前の方こそ脳みそ取り替えてこい!
「ところで、ヤスの方の練習はどうだった?」
「まあ、初練習だったからか楽だったよ。同じ1年なんだけど、変なやつがいてすっごく疲れた」
明日もいるんだろうか?明日は別の部活に行こうと思うし……関係ないな。
「お前が変なやつって言うからには、とてもまともなやつか、めちゃくちゃ変なやつかどっちかだな」
「何でだよ!俺はめっちゃまともだよ、変なやつ代表のお前に言われたくねえよ!」
「自分のことをまともって言うやつは99.9パーセントまともじゃないって統計があるんだ」
「ねえよ、そんな統計。あるんだったら見せてみろよ……もしあったとしても、俺は残り0.1パーセントのまともな人間だ!」
俺は断言する。俺がまともなのは自信があるからな。
「………………コマネチ!!」
ケンがかけ声と同時に股から手をスライドさせる。
「……だーっ!忘れろ!その事は頭の中から焼却処分させろ!」
「もうサツキちゃんに写メール送っちゃったもんね」
「お前ほんと最悪だーっ!いつの間に撮ったんだよ!?」
帰ったら、サツキに馬鹿にされる事間違いなしだ……帰るのがおっくうになってきた。
家に着いたら、当然ながらサツキに写真を見せられて、大爆笑された。
くそう、ケンのやつ、覚えてろ!