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204話:坊主

今日は9月16日、新人戦が終わって2日目だ。

昨日は反省会含め、話だけで終了。しっかり休むようにと言われた。

こっそりユッチと俺とサツキの3人でのんびりと走ってたのはここだけの話。


「ヤス兄、何でそんなもの学校に持ってくの?」


「ちょっとある約束してたの思いだした。任務を遂行するためにはこれが必要なのだ」


「……よく分かんないけど、変な事はしないでね。ヤス兄」


俺は変な事はしたことはないぞ。

全く失礼な妹だ。







何事も無く学校も部活も終えて、放課後。

今日はまだ疲れが残ってるからってまた長い距離をのんびりと走った。

こうやって走るってのも楽しいんだよな……120分もなきゃだけど。ポンポコさんのメニューって長い距離が多いよな。

もう短距離連中もほとんど帰っちゃってて、残ってるのは俺と、俺を待ってるケンとサツキのみ。


さてと……ようやく任務を遂行できる時間がやってきた。


「ケン、ちょっといいか?」


「んあ? なんだヤス? さっさと帰ろうや」


「や、俺が5000m走ってるときにケン叫んだじゃん。『あいつら抜けたら坊主になってやんぞ!』って。それを今日実行しようかと思って」


「いや、俺ちゃんと『あいつら』って言っただろ? ヤス、2人のうち1人しか抜けなかったじゃん。その時点でその約束は無効だろ」


「いやいや、2人のうち、1人は抜けた訳じゃんか。つまり約束事のうち、半分までは達成できた訳じゃん。テストでも半分しか出来てなくても0点にはならずに50点になる訳だろ」


「へ理屈だね、ヤス兄」


へ理屈でも押し通せば理屈だ。


「だからご褒美として、約束の半分を遂行させてくれ。要は髪を半分切りたいって事」


「……髪の毛を半分くらいにするって事か?」


「そうそう。半分なら別にいいだろ?」


はさみを取り出してじょきじょき鳴らす。


「……まあ、そろそろ床屋に行きてえって思い始めてたから、それくらいだったらいいけど。虎刈りにすんなよ?」


「ケン、虎刈りって何?」


「虎刈り……刈り方が下手なために、髪が深く刈ってあったり、浅く刈ってあったり、刈りあとがふぞろいで虎の毛のようにまだらになっている状態の事を虎刈りというのだ」


「ええと……俺、髪の毛切った事無いからちょっとぐらいなっても許してくれ」


「まあ、それくらいいいぞ。最悪失敗しても床屋に行き直せばいい事だし。んじゃ頼む」


ブルーシートを広げて、その辺に転がってるいすをブルーシートの上に置いて、首にタオルを巻いて髪を切ってもらう体勢になるケン。

……かかったな、ケン。


さっきまで見せていたはさみは片付けて、鞄の中から準備していたあるものを取り出す。

まずはケンが逃げられないように全身をぐるぐるとヒモでしばっとく。


「おい! こらヤス! 何のつもりだよ!?」


「や、ケンが動いたら危ないじゃん? だったら動けないようにしとこうかと思って」


「それはいい! その右手に持ってるものはなんだよ!」


「ん? これ? 見て分からん?」


「分かるけど! なんではさみじゃなくてそれ使うんだよ!?」


ぽちっと電源ボタンを入れる。

ウイイイイィィン……。

そう……俺が右手に持ってるものはバリカンだ。


「髪の毛を半分にするためじゃん。今さら何言ってんのさ、ケン」


「半分って髪の毛の『長さ』を半分にするんじゃないのかよ!?」


「何言ってんだ、ケン。俺がそんな器用な真似できる訳無いじゃん。俺がするのは髪の毛の『数』を半分にするだけ」


ちょっと聞けば分かっただろうに。ふっふっふ……楽しみだ。


「待て待て。というか何故サツキちゃんはヤスの暴走を見ているんだ? 止めてくれよ」


「ん? 止めたら面白くないじゃん。私は面白い方の味方だよ。ケンちゃん」


「こ、この兄妹ども……」


小学校の時から俺らと接してきて、そんな初歩的な事も忘れてしまうとは……焦ってるな、ケン。


「サツキもやる? 半分くらい」


「いいね、バサッとやっちゃお」


「ちょっと待て待てまてまてマテマテ待てーっ!」


ジャキジャキジャキジャキ……バサバサバサバサッ。


「まじか……今どこを切った?」


「ん? てっぺん」


「ケンちゃん、現在てっぺんハゲだよ。カッパみたい」


「ちょっと待て……まさかお前ら兄妹、カバーつけてないとかないだろうな?」


「カバー? そんなんあったっけ? サツキ」


「んーと……あ、ヤス兄の鞄の奥にあったよ」


「おいおいおいおいおい! カバーつけずに刈ったのか!? それって1mmハゲって事か!?」


「んー……カバーつけないとどうなんの? サツキ、知ってるか?」


「確か、カバーつけとくと3mm、6mm、9mm、12mmって選べるんじゃなかったっけ?」


「そうだよ! せめて坊主にするにしても9mm、12mmくらいならまだ許せたのに! よりによって1mmかよ!?」


……ふっ。なんかこれだけ焦っているケンを見るのは楽しい。


「んじゃ、次サツキの番か」


「はいほー。それじゃ、バリカンかりるね、ヤス兄」


「サツキちゃん! 今からでも遅くない! バリカンにカバーをかけてくれ! 12mm……いや、3mmでも構わないから」


「あれ? このバリカン、レバーがついてる。えっと……刃の長さを調整できるんだね。説明書持ってきてる? ヤス兄」


「おいおい! サツキちゃん! 無視するなよ!」


残念だったなケン。サツキは楽しい事が目の前にあると人の話は聞かなくなるぞ。知らなかったのか?


「えっと……お、説明書あった。なになに? 『カット調整レバー付きです。このレバー1つで、カバーをつけなくても3mmから、なんと0.3mmまでのカットが可能です。しかもどんなに押し付けても、頭皮を傷つける事はありません』だって、すげえな。0.3mmだって」


「へえ、すごいね! ヤス兄」


「ちょっと待てサツキちゃん! さっきより目がキラキラしてる気がするのは俺の気のせいか!? おい、なんでレバー回してるの!?」


「ん? ちょっとでも長くなるように3mmの設定に変更しようとしてるの……これが3mmの設定かな。わっかんないなあ。でも、試してみれば分かるよね」


「ちょっと待てサツキちゃん! 試すって何だ!? 誰で試すんだ!? やめてやめてやめてやめてやめてやめてー!!」


ジャキジャキジャキジャキ!


「あれ? なんかさっきより短くなっちゃったね、ヤス兄」


「だなあ……間違えちゃったな。まったくドジだなあ、サツキは。こらっ」


「えへっ」


「そこのバカ兄妹! 『こらっ』『えへっ』じゃねえよ! 絶対確信犯だろ!? 俺の髪どうすんだよ!?」


「んー……ちょうど半分くらいになったか?」


「今縦にまっすぐ道が出来てるけど……まだ半分いってないんじゃない? 頭の上に十字路を造るとちょうど半分ぐらいになりそうだね」


「なるほど、十字路だな」


サツキ、ナイス発想。


「おいおい! 十字路ってなんだ!? 俺の髪は道路じゃねえぞ!」


「ちょっとした比喩表現じゃんか。な、サツキ」


「ね、ヤス兄」


「『な』『ね』じゃねえ! お願い、ストップストップ!」


……懇願してるなあ……だが止めない!

ウィイイイイイイン……ジョキジョキジョキジョキ!


「はあ……すっきりしたあ……サツキもラストやるか?」


「やるやる!」


ウィイン……ジョキジョキ、ジョキジョキ……バサッ。


「人の髪を切るって楽しいね、ヤス兄」


「またやろうな、サツキ……ケン、鏡見るか?」


「……」


ケン、自分の頭見ても完全に沈黙したなあ……何を思ってるんだろ。


「よし、これでおしまいだな」


よいしょ、ヒモほどいてっと。


「それじゃサツキ、帰ろか」


「……なあ、ちょっと待ってくれ」


「ん? ケン何?」


「この頭はきついから、いっその事全て坊主にしてくれ……情けは無用だ……」


「え? まじ? いいの?」


「いい……ひと思いにやってくれ……」


「んじゃ遠慮なくやるか、ケン……動くなよお」


ジャキジャキ、ジャキジャキ、ジャキジャキ、ジャキジャキ。

髪をバサバサと落としていくこの瞬間がたまんなく楽しい。


「うん、完璧じゃね?」


ツルッツルの坊主頭。本当に毛が無い。

触りてえ……ぺちぺち叩いてみたいなこの頭。


ぺちぺち……ぺちぺち。

うわ、すげえ叩き心地いいじゃん。


「……」


ドンッ!


いってえ! 突然ケンにタックルを食らった。

あまりに唐突だったもんだからよろめいて持ってたヒモとバリカン落としてしまった……。


「おい!? 何すんだよケン!? ……ケン?」


……やばい、なんかケンがキレてる……。

ちょっとやりすぎたか?


「……コ・ノ・ウ・ラ・ミ・ハ・ラ・サ・デ・オ・ク・ベ・キ・カー!」


「ちょっと待てケン! 俺が悪かった! 謝るからストップストップ!」


「コノウラミハラサデオクベキカー!」








……次の日。


「おはよーアオちゃん」


「あ、おはようご……どうしたんですか? ヤス君?」


「いろいろとありまして……」


……あの後、俺も揃って0.3mm坊主になりました。

サツキに延々と大笑いされたのはちょっと心の傷でやんす。


「ヤス、何か悪い事をしたのか?」


「ヤスだからやりかねんよな」


「むしろ今までの事を猛省してまるめたんじゃん?」


……クラスのこの反応は何だろう。俺ってそんなに悪い事してたかなあ……。


「おっすヤス! アオちゃん!」


「あ、おはようございます、ケン君。 イメチェンですか? すごく似合ってますよ!」


「……ほんとか? ありがとアオちゃん!」


……その反応の違いは何だアオちゃん。


「何か、ケン君さわやかになったね」


「スポーツ少年って感じでいいね」


「かわいらしい! なでなでしたい!」


……何故かケンを殴りたくなってしまった……ちょっと悔しい思春期の俺。


参考にさせていただきました.


バリカン

http://www.rakuten.co.jp/direct-com/587961/587963/


0.3mm坊主頭、こんな感じです。

http://www2.tokai.or.jp/santama/bosea.htm

このページによると、ハンカチ王子=12mm、えなりかずき=9mm、亀田=3mmぐらいらしいです。

スラムダンクの桜木花道の頭は9mm〜12mmくらいな気がします。


私は高校時代に6mmやった事があります。


それでは。

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小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
オーダーメイド
ええじゃないか
うそこメーカー
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