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200話:ユッチの涙

アオちゃんが励ましたみたいだけど、まだユッチは落ち込んでるみたい……そりゃそうか、あれだけ張り切って挑んだ200m予選でボロボロの結果だったんだから。

4×400mリレーも今日あるから、それに影響しなきゃいいけど……。


男子200m、マー君先輩がいい走りをして頑張ってたけど、残念ながら予選敗退、準決勝進出はならず。

男子800mは……言える事は何も無いっす。


そして、女子4×400mリレー、通称マイルの競技開始時間。

決勝進出は2組2着プラス4。1組目が8校出場、2組目が7校出場で、出場校は計15校。

県大会は12位までが出場できるから、県大会に行けなくなるのは3校だけ。

よっぽどの事が無い限り、ゴーヤ先輩もキビ先輩もいるんだから、県大会は出場できるだろう。

ゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん、ユッチの4人は既に招集を済ませ、スタートの位置に集まっている。


「なあポンポコさん、ユッチは大丈夫かな? さっきまで応援席でずっと暗い顔で座り込んでたけど……」


「心配だが、もうスタートラインに行ってしまっているからな、私たちではどうしようもない」


そ、そうなんだけどな……結構ポンポコさん、ドライだな。

……第1走者のキビ先輩がスタートラインに立った。


「キビ先輩、ファイトー!」


キビ先輩、笑いながら手を振り返してきてくれた。キビ先輩は場慣れしているっていうか、余裕があるな。


「ユッチとアオちゃんが心配だけど、キビ先輩とゴーヤ先輩が引っ張ってってくれるから大丈夫だよな」


「そうだな。普通に走れば、大山高校は入賞できる実力を持っている。後は全員が全員、実力通りの力を発揮するだけだ」


……ポンポコさんのお墨付きだぞ。めったに褒めてくれないポンポコさんが、絶対にいけるって言ってんだ。

ゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん、頑張って……ユッチも頑張れよ、気持ちで負けんな。


ついに開始時間がやってきた。審判がピストルを上にかかげた。


「位置について…………………………………………ヨーイ」


パン!


キビ先輩がいいスタートを切った。

やっぱりキビ先輩の走り、めっちゃきれい。

8レーンのランナーにどんどん追いついていく。


「キビ先輩、ファイトー!」


俺たちに出来る唯一の事、応援。ひたすらに声を張り上げる。

俺たちの応援がちょっとでも、キビ先輩の励みになるかもって、大声で叫ぶ。






第2走はユッチ、キビ先輩は誰よりも速くバトンを渡した。ユッチもこれなら気持ちをリラックスして走れるだろ。


「ユッチ、落ち着いていけえ!」


第2コーナーを回った。ここからセパレートコースじゃなくて、オープンコースになる。

決まったコースを走るのではなく、ランナー達が自分の走る領域を奪い合う。


ユッチ……いけ!







……リレーが終わった。


「……ゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん……ごめんなさい……本当にすみませんでしたあ……」


泣きそうな顔してるユッチ。

絶対に泣くもんかって思っているのか、泣く事を我慢しているのか、涙は流れていない。


……あの瞬間、いいポジションに入ろうと焦ったユッチは、6レーンのインコースに入ってしまった。

その瞬間に大山高校は失格。焦らなくても、1番を走ってたんだから落ち着いてポジショニングすれば、いけたと思うんだけど……。

失格になってしまったため、大山高校は女子4×400mでの県大会は残念ながら出来なかった

今はゴーヤ先輩、キビ先輩、アオちゃん、ユッチの4人で集まって、話をしてる。


「なんでユッチが謝る必要があるんだろうな?」


「だって……ボクがミスしたせいで県大会出場も出来なくなっちゃって……」


「ユッチは手を抜いて、そんな失敗をしたの?」


「そんな事は無いよお……でも、県大会行けなくなっちゃったのはボクのせいだもん……」


「一生懸命やった結果だったら、私は何にも言わないよ。むしろ、よく頑張ったねって言いたいよ」


「……キビ先輩、でもお」


「ユッチ。失敗したんだと思ったんだったら、その失敗を糧にしてくれればそれでいいよ。それでユッチがもっと伸びてくれると思ったら、楽しみじゃないか」


「ありがとお、ゴーヤ先輩……でも……怒ってない、アオちゃん?」


「何で怒る必要があるんですか?」


「吹奏楽部に入りたかったはずなのに、ボクが無理矢理誘っといて、ようやく来た初めての大会でこんな結果に終わっちゃって……怒ってない?」


「全然です。むしろ吹奏楽部に入ってたら、こんな風にユッチと一緒に頑張れるって事が出来なかったんですから。ユッチには感謝してますよ」


「……」


「……」


「……」


「……」


みんなが沈黙して、しばらくの時間が経ったころ、うつむいてるユッチがゆっくりと話し始めた。


「……ボク……実は中学校の頃、チームメイトの事、きらいだったんだあ……だって、口だけばっかり頑張るって言ってて、全然頑張ってくんなくって、ボクがバトンミスした時も、ブツブツ文句ばっかり……」


……。


「なんかボク1人で空回りしてた気分だったんだあ……」


……。


「でも……大山高校にこれて、ゴーヤ先輩に会って、キビ先輩に会って……一緒に頑張れる仲間がいるって言うのが本当に嬉しかったんだあ」


……。


「ほんとは家の近くの高校だったり、もっと別の高校に行きたかったりしたはずなのに……ボクのわがままにずっとついてきてくれたアオちゃんには、すごく感謝してるう……」


……。


「ボク……このチームで一緒に走る事が出来て、本当に嬉しいです。ゴーヤ先輩……キビ先輩……そして……アオちゃん……これからもよろしくお願いします」


「よろしくだな」


「うん。これからもよろしく」


「こちらこそよろしくです、ユッチ」


……よかったな。ユッチ。

ユッチの話が終わったその時……ぽろりとユッチの目から一筋の涙が流れた。

部活で初めて流れたユッチの涙は悲しみの涙じゃなくて、チームが1つになれた、嬉しさの涙だった。


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カカの天下
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ええじゃないか
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