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2話:ケン

先ほどのもやもやした気分が抜けないままホームに入ると、電車に乗り込むために学生やサラリーマンの人たちが、列になって並んでいた。

さすがにこの時間帯は人が多い。

この駅から学校の最寄りの駅までは、そんなに都市化している訳でもないのに、何でこんなに人がいるのか。


明日からは、時間をずらして学校に来た方がいいかと考えていると、知っている人物を見つけた。

向こうもこちらに気がついたようで、思いっきり手を振りながら、俺に近づいてくる。


……恥ずかしい。もうちょっと周りの目を気にしてくれ。


心の中でそう突っ込んでおいて、俺は手を上げて答える。


「おっす! ヤス! 超久しぶりだな!」


「昨日も会ったばかりだろうが、だいたいぶんぶん手を振り回すな! 周りを見ろ! 恥ずかしいだろ!」


「おー、今日も元気だなヤス。昨日あんなに激しく奇声を上げてたのに、まだ元気が有り余っているみたいだな」


「変な言い方をするな! カラオケで歌を歌っただけだろうが! しかもお前がリンダリンダを何回も入れたからだ! おかげであの後のどが枯れたぞ!」


「枯れたって、なんて卑猥な……」


「枯れたのはのど! そっちじゃねえ!」


「声が出けーなー、周りが見てるぞ、恥ずかしくないのか」


「叫ばせているのはお前だろうが! これ以上、変な事は言うなよ!」


「言い訳は見苦しいぞ、ヤス。その後、妹と突きあって喜んでたじゃないか」


「……妹って……」


「最低だな……」


「……うらやましい……」


「それ、ビリヤード! 突いてたのはボール! 喜んでたのは、9ボールで妹に勝ったから! 変な言い方をしない! 俺が変態みたいだろ! くそ、うらやましいとか変な事言ってるやつもいるし……」


「妹に勝てて喜ぶってのも、器がちいせえな」


「うっさい! 器が小さいって言うな、朝に妹にも言われたよそれ! 大体その前に何連敗したと思ってる!? 10連敗だぞ10連敗! 喜ぶに決まってるだろ!?」


「ヤス、うるさい。通勤ラッシュはみんなイライラしてんだから、もうちょっとまともに行動してよ。」


「誰のせいで…………ふぅ、まあいいや……ケン、おはようさん」


「やっと挨拶が出来たか。挨拶はコミュニケーションのための基本だぞ」


「黙れ、元凶」


やっと挨拶が終わった……。

ケンといるとこんな言い争いがしょっちゅうだ。

まあ、これからの嫌なことばかり考えてて、鬱々としてたから、気分転換になってちょうどいい。


ケンは俺の友達……まあ、親友と言ってもいいかもしれない、恥ずかしいから絶対に言わないけど。


ちなみに本名は健次<ケンジ>だ。だれもかれもがケンと呼ぶから時々本名は健次だったか健太郎だったか分からなくなるやつもいる。

最初はケンって呼ばれると、


「犬みたいだから嫌だ!」


と反発していたけれど、最近はもう完全に慣れてしまっている。

人間慣れって大事だよな……。


小2の頃、同じクラスになってから、何かとうまがあって、一緒に行動するようになった。小2からずっと一緒だから、幼馴染と言っても言いのかな。男同士の幼馴染って言うのも気持ち悪いが。こういうのは腐れ縁って言うんだな、うん。

中学校の時の部活も、こいつに誘われて一緒の部活に入った訳だしな。

運動神経はかなりいい。とにかく足が速く、小学校でも中学校でも毎回運動会、体育祭ではリレーのアンカーを務めてた。それに比べて俺は平々凡々なレベルだ。


これから通う高校も、ケンと一緒の高校を受けた……ってか、ケンが無理矢理受けたんだが。

ケンはあまり成績が良くなかったから、当日の試験の出来が良くないと、無理だって言われてた。


それでもこの高校に受かろうと必死になって勉強してた。

俺もいろいろ教えてたけど、何とかなったのは、ケンの努力のたまものだな。


理由を聞くと、


「この学校の先輩にめちゃくちゃきれいな人がいるって聞いた」


って言ってたけど、実際は俺に合わせてくれたってのは分かってる。


どちらにしても、ケンが同じ学校に来てくれるというのはありがたい。

高校に入っても、ケン以外のやつと上手く話せるかどうかは分からない。


そう考えると、ケンって本当に貴重な存在だなと思えた。


「なんだよ、ヤス。俺の顔をまじまじと見てきて」


「いや、別に。同じクラスになれるといいな」


「そうだな」


そう言って、とりあえず会話を打ち切った。

それと同時に、俺たちの乗る電車がホームにやってきた。


乗ってみると、そこまできつくない。電車内で身動きができず、周りの人たちにつぶされるというのをイメージしていたが、どうやらそんな事はないらしい。あれは、東京とか大阪みたいな大都市で起きる現象みたいだな。


「いやー、これぐらいの混雑ぶりでよかったよ。もっと増えてたら、学校行く前に疲れきって、学校では何も出来なくなるとこだったよ」


「ケン、お前は中学の時も疲れてなくても授業中ぐーすか寝てやがっただろうが。どうせ高校でも授業中寝て過ごすつもりだろ」


「それはもちろん」


「テストどうすんだよ」


「それはもちろん」


「ノートは貸してやらねーぞ」


「いや、ヤスに借りなくたって、優しい女の子が俺に貸してくれるんだよ。『頑張ってね』みたいに声をかけてくれたりして」


「言ってろ、そんな妄想ばっかりしてると全員逃げてくから」


「ひでーな、ヤス。その毒舌っぷりは相変わらず健在だね」


電車が目的の駅に到着したので、降りて学校に向かう。

隣で相変わらずケンがしゃべり続けていた。

妹とケンと3人で遊ぶときはとにかくやかましい。

女3人集まると姦しいとは言うけれども、男2人と女1人でもここまでうるさくなるものなのかと思ってしまう。


「おっ、掲示板の前に人が集まってる」


どうやら、学校に到着したらしい。

聞き流してばかりで上の空だったから気付かなかった。


「おしっ!さっさと見に行こう!」


ケンがそう言って先に走っていく。俺は焦る必要もないかとのんびりとついていく事にした。


「ヤスー! 俺たちの名前あったぞー! 2人とも1年3組だー!」


「そんな大声で叫ばなくても聞こえる! 周りが振り向いてる!」


「気にするなー! いきなり俺たち、有名人だなー!」


「そんな有名人にはなりたくない! 恥ずかしいだろ!」


俺は慌てて掲示板の前からケンを引っ張っていって、校舎内へ連れて行った。

周りの全員が俺たちに注目してた。きっと俺の顔は真っ赤になっていたに違いない。


「ところで、俺を引っ張っていっているけど1年3組はどこかわかってるの?」


「……あ………………」


「ヤスって、変なとこで抜けてるな。真面目すぎるのも考えものだな」


「うっさい! お前が叫ぶから悪いんだよ!」


「はいはい、いいから、もう一度掲示板に戻って場所を確かめないと」


「また戻るのか……」


仕方なしに、また掲示板の前に戻った。自意識過剰なのは分かっているんだが、周りの視線が自分に注がれているようで気まずくてしょうがない。

1年生は3階のようだ。2年生も3階で、3年生が2階、その他特別教室等も2階にあるらしい。


先ほどは恥ずかしくてみれなかったのだが、どうやら自分の中学から3組になる人は俺とケン以外いないみたいだ。

ケン以外仲が良かったやつもいないのだから、それはそれでよかったかもしれない。


1年3組に入ると、半分くらいの人が既に座っていた。

どうやら、今の所はどの席に座ってもいいみたいだ。

俺とケンは適当な席に前後に座って、話を続けていた。


「ヤス、いい加減に携帯持てよなー」


「いいじゃねえか。どうせかけるやつなんかいないんだし。ケンだったら口笛を吹いたらどこからでも駆けつけるだろ」


「俺はイヌかよっ! ……ってそうじゃなくて! 昨日だってわざわざお前ん家に電話しただろ。その時、サツキちゃんが出て『まだ寝てたのに!』って怒ってたじゃん。」


「そりゃ、春休みの7時に電話されりゃまだ寝てるやつもいるだろ、俺は手が離せなかったし。……っていうか昨日は電話ぐらいでサツキはよく起きたなー。普段は全然起きない癖して」


「話がずれてるって。だからさ、携帯持ってたらわざわざ家に電話する必要もなくなるし、サツキちゃんを困らす必要もなくなるだろ。だから、お前も携帯持とう」


「お前のためだけに買うのはやだ」


「うわ、ばっさり切り捨てやがった。お前なあ、例えば今ここで俺たちに話しかけてきて、お友達になろって言ってくる女の子がいたとするだろ。そんときに携帯でアドレス交換しておくのと、携帯持ってないよって言ってそこで終わるのと、どっちがその女の子と仲良くなれると思う?」


「大丈夫、そんな奇特なやつはいないから」


「ひどっ! お前、俺の事をどんな風に見てる訳?」


「面白い友人&万年彼女欲しい病にかかっている変人」


「そんな微妙な答えは嫌だ……」


がっくりときているやつをほっといて、教室全体を見ていると、隣の席に女子が座った。


「こんにちは」


なんと、隣の席に座った女子が俺たちに話しかけてきた。

や、ひょうたんからこまと言うか、うそからでたまことと言うか、さっきケンが話してた事が現実に起こりうるとは思わなかった。


女の子は、もう座っているから実際の身長は分からないけど、結構背は高め。

髪は長くて、後ろで結んでポニーテールにしている。

かわいいよりもきれいってイメージな人。

偏見だけど、眼鏡をかけているだけで、委員長って思うのは俺だけだろうか。


「どうも……」


「その人、どうしたんですか」


「いや、別にどうもしないですけど……」


俺が歯切れ悪く答えていると、隣の女子は気にする風でもなく、


「あなたたちって、掲示板の周りで騒いでた人たちですよね」


「あ、多分そうです……」


「すっごい元気でした! いけないって思ったんですけどついつい笑っちゃいました、すみません」


「いや、別にいいです……」


ずっと尻すぼみにしゃべっていたら、ケンが見かねたのか


「ってヤス、さっきから何ぼそぼそとしゃべってんだよ。もっとちゃんとしゃべれよ。あ、俺、ケンジ言います! フルネームは早川健次、どぞ、親しみを込めてケンとお呼びください!」


「私は木野あおいっていいます。好きに呼んでいいですよ。これから1年間、同じ1年3組同士、よろしくお願いします」


「俺、近藤康明<ヤスアキ>って言います……よろしくお願いします。」


「こいつ、めちゃ人見知りするんだよ。別にそんな警戒しなくてもいいてのにさ。あおいさん、こいつはヤスって呼んでくれれば言いから」


「って勝手に決めるなよ!」


「はい、わかりました。ケン君に、ヤス君。…………うん、覚えた。これからよろしくお願いしますね」


「あい、よろしく、……あおいさん、もしよかったら――」


ケンが何か言いかけた時、がらっと前の扉が開いて、


「新入生、移動するよー! 今から体育館に行くから適当にやってきてー!」


「だって、じゃまた後でね、ケン君、ヤス君」


「あ、うん、また後で」


「…………じゃ……」


そう言い残して、木野さんは教室から出て行った。

俺は、ふーっとため息をつき、ケンはがっくりと肩を落とした。

そんなケンを一瞥して、


「じゃ、俺たちもいこうぜ」


「そだな」


そう声をかけ、体育館に向かって、廊下に出ていった。


大山高校はモデルにしている高校がありますが、実際に通った事もありませんし見た事もありません。

インターネットや資料で調べて、残りは自分で想像して作りました。

モデルにした高校にアタリを付けて、その高校とは全然違っている!

とか言わないでくださいね。


モデルにした高校はすぐに分かると思います。よかったら当ててみてください。

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小説内で使わせていただきました。ありがとうございます
カカの天下
オーダーメイド
ええじゃないか
うそこメーカー
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