184話:マンネリ
日曜日は結局、今履いてるのと同じ靴を買った。
サツキはタータントラック専用のと土でも使える兼用のスパイク、2足買った。
……靴って金かかる。
今日は9月8日月曜日。
部活では15キロ走ってきた……しかし、今週の土日が試合のはずなんだが、ポンポコさんからメニューを減らせとか何も聞いていない。このままいつも通り走っていてもいいんだろうか?
練習量を減らして試合に疲れを残さないようにするとかやるもんなんだと思ってたんだけど、ちがうのかな?
家に帰ってきて、今はサツキと2人で夕食中。
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「……は?」
……朝じゃないから寝ぼけてなんかない……はず。
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「妹よ、突然意味の分からないセリフを言うな。俺たちは会話が減ってきてしまっている熟年夫婦か」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「いやそんな事はないな、最近は毎日最低でも4時間はサツキとしゃべっている。朝起きて1時間、休み時間に30分、放課後部活、帰り道で1時間、夕食、夕食後に2時間。うん、全然マンネリじゃないじゃないか」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「……夫婦ちゃうやろ! と言うツッコミが欲しかったんだが……そうか会話の内容か? 会話の内容がマンネリなのか? いや、歌に本に漫画にゲームに料理に友達に部活に勉学に、果てはブリーフ、トランクスという議論までしているというのに……」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「すまん悪かった。議論したのは『青のり』か『石焼きイモ』のどちらが名曲かと言う話で、下着の話をしたわけではない。怒るのは分かったから別の言葉を発してくれないか?」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「ああそうだ、確かにマンネリだ。3日連続でカレーは飽きるよな」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「だが聞いてくれサツキ、カレーは3日目からが一番おいしいんだ。じっくり素材を吟味して弱火でコトコト時間と手間ひまと愛情を込めて煮込んだカレーな上に3日も置いたカレーなんだぞ。いくらマンネリと言われようとこんな最高のカレーを食べれるって幸せじゃないか?」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「悪かったサツキ。素材は確かに吟味した。だが安さで吟味をした。その時点で最高のカレーと言うのは嘘になるかもしれない。だがそれでも弱火でコトコト時間と手間ひまと愛情を込めて煮込んだカレーだ。マンネリかもしれないが3日目になると味にも深みが出てきてマンネリではないだろう?」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「まだマンネリと言うか妹よ。というか『じっくりことこと以下略』ってヤックンだろ、お前はヤス君だろとか言って欲しかったんだが。古かったか? そうか分かったぞ。あれだな、食後のデザートが毎回桃だったのがいけなかったのだな。だが桃と言ってもだな、白桃、黄桃の缶詰を使い分け、さらには缶詰でもSSKとはごろもフーズを使い分けてみたんだ。どうだ、マンネリではないんじゃないか?」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「分かったサツキ、レパートリーが最近少なかったか? 一応そのメニューを一度作れば次に作るのは最低でも1月先にはしているつもりなんだが」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「すまんサツキ、確かにユッチに教えてもらったおからシリーズは週1で作っているな。だがきちんとハンバーグ、卯の花、春巻きと手を変え品を変えメニューを出して飽きがこないようにしているつもりだ。明日もおからで何か作ろうと思っていたのだが……別の物にするか」
「ヤス兄、最近私たち、マンネリだよね」
「まだ言うか妹よ。そろそろ別の言葉が聞きたいし、夕飯のネタがしつこい気がしてきたんだが……もしかしてマンネリって夕飯の事じゃないのか?」
「うん」
「夕飯の席で初めて会話が出来た。それは嬉しいんだが『うん』しか言ってくれないのはどうなんだ妹よ」
「私たち最近、マンネリズムだよね」
「省略をやめただけじゃん!」
「私たち最近、mannerismだよね」
「発音いいな。だがさっきと一緒だぞ」
「私たち最近、何か足りないよね」
「恋人同士みたいな言い方やな……それはそれで嬉しいんだが、何が言いたいんだ?」
「思うんだよね。ヤス兄が頑張って、ヤス兄がボケて、ヤス兄がいじられて、ヤス兄がドジって……」
「全部俺やん」
「何かオチを付けるのってヤス兄なんだよね。たまには別のオチもいるんじゃないかなあ」
「時々はユッチがオチ作ってたり、アオちゃんがなんかして終わったりする事もあるぞ」
「そう言えばそうだね。でもさ、やっぱり最後はヤス兄が何かフォローしようとしてオチを付けるんだよ」
「……そうだったか? ……結局サツキはなにがしたいの?」
「ときめきが安らぎに変われば刺激と言うスパイスだって必要だよね、ヤス兄」
「おいサツキ、お前は誰にときめきを抱いた事があるんだよ……その歌手が大好きだったのは知ってるから」
「大好きだったのに……。それは今は置いといて、ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ」
「分かったスパイスだな。今回のカレーは確かにカレールーから作ってしまった。前にハウスとS&Bとグリコを混ぜて作ってみたらものすごくうまかったからついついルーから作るようになった。だがサツキがスパイスから作って欲しいと言うのなら次回のカレーはシナモン、ターメリック、コリアンダー、ブラックペパー、クミン、レッドペッパーと言ったスパイスを使って作ってみよう」
「ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ」
「久しぶりに作るな、本格的なカレーは」
「ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ」
「今欲しいのか? 今あるのはせいぜいトウガラシとこしょうくらいだ。それでいいならすぐに渡すぞ」
「ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ」
「……サツキ、壊れたスピーカーみたいに同じセリフを繰り返すんじゃなくて、言葉のキャッチボールをしようよ」
「ヤス兄、スパイスが欲しいんだよ」
「……サツキがボールを受け取ってくれない……ごほん、スパイスって何すればいいのさ?」
「んー……突然光に包まれて異世界に行きたいよね?」
「どうやってやるんだよ。大体それやると漫画だと打ち切りになるやん」
「んー……どっか私とヤス兄で旅にいこっか?」
「それも漫画なら打ち切りになるネタやん、スパイスにならんって。ものすごくやってみたいけど」
「んー……新しい友達見つける?」
「……俺そんなに友達少ないか? ついでにそれって大抵今までいた人が消えていくよな……交流が変わるから?」
「んー……それじゃ宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探しにいってみようか?」
「ああ、うん、えと、ええと……いいともー!!」
……俺はバカだ。
「んー……やっぱりどれもしっくりこないね。現状維持でいっかな?」
「そうそう、こんな感じのほのぼのした生活がいいんだよ。マンネリと言うと悪く聞こえるが、アオちゃん的に言えば『王道』なんだ。『変化を求めようよ』って言ってくる奴にはこう言ってやれ」
「んー……ヤス兄、なんて言ってやるの?」
「『あなたとは違うんです!』」
……こんな感じで今日ものほほんとご飯を食べてる俺とサツキ。




