176話:遅刻しないための
今日は8月29日金曜日。
今はサツキと一緒に部活へ向かうところ。
合宿の後、一昨日から部活も再開されてサツキも毎日一緒に来るようになって、短距離女子と一緒になって練習してる。
今のうちから一緒になって部活に出とけば、体力も落ちないですむから、大山高校に入学してすぐにあるインターハイ地区予選の時から試合に出れるもんな。
……ちなみに機嫌を損ねたサツキにはシフォンケーキを焼いてどうにか許していただきました。
怒らせる度に何かしらデザートを作って機嫌を直してもらってる自分。
……ま、まあいいや。
「来年からはこうやって毎日登下校するんだなー」
「そだね、ヤス兄……楽しみ? それとも面倒?」
「楽しみに決まってるじゃん。何でそんなこと聞くんだ?」
「べっつにー」
……変なサツキ。でもホント楽しみ。
「時々はここにケンちゃんも混じるのかなー?」
「ケンって朝、学校に来る時間まちまちだからよく分からん」
朝は目覚ましかけても気付かずに寝てる事がよくあるって言ってたし。
高校生になったんだから自分で起きろって親も放置らしくって時々遅刻してくる。
「下校は一緒になるんだね」
「そうなんじゃん? ケンはいつもはユッチとアオちゃんと一緒に帰ってるって言ってたから、下校は5人でって事になりそうだな」
「2学期からは私もヤス兄の部活行くから、今年の2学期から帰りは一緒だよ」
おお、楽しみだ。
さてさて、今日の掃除はこんなもんでいっか。
……お、アオちゃん到着。
「ヤス君、サツキちゃん、おはようございます」
「おはようさん」
「おはようございます」
「毎朝早いですね。また掃除ですか?」
「ん、まあそれもあるけど。集合時間ギリギリでつくのって怖いじゃん。『間に合うかな? 間に合わないかな?』ってドキドキしながら行きたくないし」
ケンはそう言うのが好きって聞いたけど。俺にはよく分かりません。
「それはそうですね。小学生の時に『5分前集合を実行しよう』ってありましたけど、それを実践してる訳ですか」
「いや? そんな事は全く考えてない」
「あれ? そうなんですか?」
「あれはアホだろ。小6の修学旅行の時に9時集合って言ってるのに、8時56分に到着したとき、『1分遅刻だぞ!』って怒られた。9時集合って言っといて実際は8時55分集合とか訳が分からない」
9時1分に遅刻して怒られるならわかるんだが。
「ヤス君にしてはギリギリですね」
出発前にごたごたがあった気がするんだけど……覚えてねえな。
「ヤス兄が『サツキも連れてくー!!』ってごねたんです。確か私も『私も行く!』って叫んでましたけど」
……よく覚えてんな。サツキ。
「その時は結局母さんがヤス兄と私を言い聞かせたんだよね」
……恥ずかしい記憶は忘れたままにしておこう。
「ま、まあ何か5分前集合ってどうなんだろうな」
「そうだよねー。それなら初めから8時55分集合って言っとけばいいのにね」
「そして8時55分集合を実践するために結局8時50分集合になるんじゃね?」
「さらに8時50分集合が8時45分集合になっていくんだよね、そして45分が40分に、40分が35分に35分が30分に……」
「だんだんと早くなっていく訳だ」
「そうそう。最終的にはすごい早くに集まるんだよね。バーゲン日の開店前のデパートとか、話題ゲームの発売日前のおもちゃ屋とか、コミケの前とか」
……それはまた別な話な気がする。そもそも俺ら全部行った事ないじゃん。
「まあまあ。先生方にとっては5分前になっても現れなかったヤス君に対して『どうしたんだろう?』ってビビってたんじゃないですか? 修学旅行でしたら電車の出発時間もあるでしょうし」
「んー……電車の出発時間は確かかなり後だったから、あんまり関係ない気がする」
ええと……はっきり覚えてない。
「確かにヤス君の言う通り5分前集合ってよくわからないですけどね。5分前集合なんて意識しててもたった5分じゃドジった時に確実に遅刻しちゃいますもん」
「わかるわかる。俺もそうなんだよ」
5分前ーって考えながら動くと確実に5回に1回は遅刻した。
「私たちみたいなトラブルメーカーには5分前なんて意味ないですよねー」
「だよなー……アオちゃんは遅刻しないようにどんな風にしてる?」
「私は実際の集合より30分前集合って自分の中で決めておいて、それに少しくらい遅れてもいいよって考えながら動くと大抵大丈夫ですね。ヤス君とサツキちゃんはどうですか?」
「俺もアオちゃんと一緒。ただし、普通の約束は30分前、大事な約束事は1時間前、ケンとの約束の時は10分前って分けるけど」
ケンはどうせギリギリにしか到着しないので、30分前につくと待ち時間が暇すぎる。
「私はヤス兄に予定を言っときます。ヤス兄って予定は忘れないから、任せとけばほぼ失敗しないんですよねー」
「……サツキ、俺がいない時はどうすんねん」
「ヤス兄……私の前からいなくなるの?」
「うーん……それは絶対ないな」
「じゃあ大丈夫じゃん」
そうだな、大丈夫か。
……なんか間違ってる気もするんだが……気のせいか?
「……おはよお」
「おっす!」
お、ユッチとケンが現れた。
相変わらずユッチは眠そうだ。
「おはよー、ケン&ユッチ。……ユッチは待ち合わせって遅刻しないように何か考えてる?」
「……突然何の事だあ?」
「今、そう言う話してたんだよ。いいから教えてや」
「ヤス、何で俺には聞かんのだ?」
「お前は遅刻を気にしないから」
「気にしてるって! ギリギリ5秒くらい前に毎回つくだろ!」
「5秒くらい後につく事もしばしばだが」
「えっと……そだっけ?」
こら! 忘れんな!
「……まあいいや、んじゃケンは?」
「よくぞ聞いてくれた! 前はわざと時計を早めたりしてたんだけど、あんまり意味ないよなー、結局実際の時間を計算して、『まだ大丈夫』って考えて遅刻するんだよ」
それはわかる。俺もやった事がある。
「最近はもう携帯だな、家でなきゃいけない時間を計算しといて、その時間になったら携帯鳴るようにしとく」
「……毎回ギリギリじゃん。鳴るようにする時間、早めた方がよくね?」
「駄目駄目、ギリギリにしとかずに10分前とかにしとくと結局まだ10分あるって思って漫画読み始めたりするから」
……ケンの場合、意識改革をするしかしょうがないなあ。
「んじゃ最後、ユッチはどんな事する?」
「ボク? ボクは遅刻しないよお」
「なんで?」
「ボク、遅刻すると罰が待ってるんだもん」
なんじゃそりゃ。
「いつも夕食はボクとおねえちゃんとおにいちゃんの3人で食べてるんだあ」
ふむふむ、お父さんとお母さんはどこへ行った?
「その時に今日あった事、いろいろ話するんだあ。そしたら、その日に誰かと待ち合わせして遅刻すると、絶対おねえちゃんが気付くんだよ」
すげえな、ユッチのおねえちゃん。
……ユッチが分かりやすいだけか。
「遅刻はおねえちゃん、ものすごく怒るんだよねえ……『遅刻するような男とは付き合うなあ!』 っていつも言ってるんだあ」
ユッチのおねえちゃん、待ちぼうけを食らった事があるんだろうか……。
「ヤス、合格だぞ」
「ケン君は不合格です。陸上部ではヤス君だけですね」
またそんな話をして……。
「ケンとアオちゃん、何の事だあ?」
「ユッチの恋人候補ですよ。ヤス君はオッケーって事ですね」
「え、え、えええ!?」
ユッチ、聞き流せよ。
「アオちゃんのバカあ! 何でヤスなんだよお!?」
「もうお互いの家にいった事ありますし。お泊まりもしましたよね? ご両親にも会った事あるんじゃないですか?」
ユッチのおねえちゃんとおにいちゃんにはあった事あるけど、両親は見てないな。
「そっか。挨拶まで済ませてるとは……2人とも手が早いな」
お互いの両親に挨拶した事あるのはポンポコさんだな……。
またからかわれるので言うのやめよ。
「ケンとアオちゃんのバカあ! いっつもいっつもボクとヤスをくっつけようとするなあ!」
「ユッチ、顔真っ赤です。照れちゃって、可愛いです」
「うるさいうるさいい! 照れてないい!!」
ユッチ……こういう話は無視しようよ。
騒ぐとノルんだから……俺もすぐに反応してしまうけど。
おはようございます、ルーバランです。
私の場合は『予定より30分早い時間が待ち合わせだと思う』というヤス君とアオちゃんの方法を普段やってます。
同じように遅刻魔の友達には、12時集合だったら、初めから11時45分集合で。と嘘ついときます。
大抵11時55分くらいのちょうどいい時間にきてくれます(^^; 遅刻魔の友達に是非お試しください。
それでは今後ともよろしくです。




