172話:豚のシッポ
さてと……豚のシッポ、いよいよ開戦だ。
「最初の一枚目は……ダイヤの10か」
「普通な始まりだね……」
「いきなりジョーカーとか来るのはつまらんだろ」
そだな……。
「次は……スペードの4」
緊張する。一瞬でも気を抜いたら出遅れるからな。
「ダイヤの2」
ふう……。
「クラブの3」
また違うな……。
「ハートの6」
……関係ないな。
次は俺の番か。
「ダイヤの6……マークが違うな」
シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!
え? あれ!?
「ヤス、マークだけじゃなくて数字も見なきゃいけないんだぞ。そんな初歩的な事も忘れたのか?」
うあ、ケンの野郎、ムカつく。
「ヤス兄、6枚もらってねー」
「ちっ、しゃあない。もらってやるよ」
「負けた人が偉そうに言ってもしょぼいですよ、ヤス君?」
アオちゃんめ、空気砲対抗戦の時もノリノリだったけど、どうやらゲーム中は性格が変わるらしいな。
……久々で勘が取り戻せれてないな。もっと気合いを入れんと!
現在真ん中に置かれている枚数は6枚だ。次はアオちゃんの番だ。
今、アオちゃんがひっくり返した。
ビクビクビクッ!
「えっ!?」
バシンッ!
「あれ? 今ってジョーカーだったよね?」
「ふっふっふっ、キビ先輩、よく見てくださいよ」
「え? あれ? ……ジョーカーじゃないじゃん! これ、クラブのジャックじゃん! 何でこんな紛らわしいの!?」
「ひっかかりましたね! 俺たちのフェイントに!」
「ヤス兄、実はヤス兄もまともに間違えただけでしょ」
「うん、実は。キビ先輩が先に叩いてなかったら俺がお手つきするとこだった」
「うわあ、私。ヤスの手助けしちゃった訳? 嫌だねー」
「なんとでもいうがいいですよ。今最下位はキビ先輩と言う事実はひるがえりませんよ!」
「ヤス兄、魔王の手先みたい」
「最下位じゃなくなって嬉しいんですよ」
サツキ、アオちゃん、そんなに俺の心を読むな。
現在真ん中には4枚。
ピクッ!
バシン!
「なんだよお! ただのスペードのエースじゃんかあ! ジョーカーかと思ったのに! ケンのフェイント上手すぎだよお!」
「フェイントの魔術師と呼ばれた俺の技術にかなうと思うな!」
「ケンちゃん、野球部時代は空振りの魔術師じゃなかった?」
「……サツキちゃん、悲しい思い出を思い出させないでくれ」
「3年夏はバントの仕事人だったっけ?」
「サツキ、それは俺。ケンはパシリ1号だったっけ?」
「何でそんないじめ的な2つ名?」
「ヤスとか俺とか他の野球部メンバーの中でラッキーマンが何故かブームになった」
「古っ! 何年前の作品!?」
さあ……忘れた。
「足が速いケンはスピードマンか一匹狼マンと言う話になった」
ラッキーマンと言う漫画の中に、スピードマンってキャラと一匹狼マンってキャラがいるんだよな。
「俺はどう考えても一匹狼っぽくねえって言われた」
「まあ、それはそうだよね」
「で、スピードマンに決定したんだが、漫画の中で途中から『パシリ1号』って言われるようになってただろ?」
「そうだったかなあ……覚えてない」
「まあ、漫画でパシリ1号って名前変わったもんだから、俺の2つ名もそのままパシリ1号に移行」
「悲惨だねー」
「まあ、中学校の話だし、今は関係ないな」
「だな」
「お……こんな思い出話を語れるようになったって事は、ヤスも中学の野球部の事、どうでもよくなってきたか?」
「そだなー」
今、毎日が楽しいし。
「いいなあ……ヤスは」
「ん、なんだ? ユッチ」
「なんでもなあい……」
……何の話? ……まあいいや。
「さて、ユッチ! 豚のシッポ、負けねえぞ!」
「……ふん! 今はまだボクのが勝ってるんだもんねえ!」
現在、真ん中には14枚。中々揃う事なくここまできてしまった。
……カードはスペードのキング。
これを取ってしまうとほぼ確実に下位は決まってしまう。
「き、緊張するね」
「キビ先輩……しゃべっている間にとられますよ?」
「ヤス、そう言う事言わない!」
事実だからな……。
「も、もう! もちょっと和やかな空気で」
シュシュシュシュ!
「え!?」
今、ジョーカーが出た。
キビ先輩の注意がそれてたおかげで取らずにすんだが、俺の手が一番上だからな。
あぶねえあぶねえ。
「キビ先輩? 15枚どおぞ?」
「うわ、くやしい!」
パチン!!
「いってえ!! 何するんですか! キビ先輩!」
「何か悔しかったんだもん! 別に真ん中に振り下ろすだけならルール違反じゃないでしょ!?」
や、そりゃそうだけどさあ。
「キビ先輩、今何枚なんですか?」
「ええと……1、2、3…………22枚」
「他、ヤス兄が6枚、ユッチ先輩が5枚ですね」
最下位はキビ先輩に決定だろ。
「今、シッポのQに残ってるのは21枚か」
「キビ先輩、ヤス兄かユッチ先輩のどっちかに残りを集中させれば、最下位を免れますよ!」
そんな事が出来るもんかい。
「それはサツキとケンはミスらない自信があるって事だな」
「もっちろん、今のヤス兄の反射神経には負けないよ?」
……ここまでこけにされて黙ってられるかい。
「サツキに絶対1枚はとらせてやるからな!」
「志が低いよ、ヤス兄」
……しもた。
現在9枚……。
ピクピクッ!
うわっと、あぶね!
バシン!
「いった! キビ先輩! それずるいっすよ!?」
今、すんでのところで止まった手をキビ先輩に上から押し付けられた。
「え、何で? ケン君、これってルール違反?」
「全く。ルールの範囲内です。技術の一つですよ」
「はっはあ! ざまあみろ! ヤス!」
「まだキビ先輩が不利なのは変わんないっすよ!」
現在俺が16枚、キビ先輩が22枚、ユッチ5枚……残り11枚。
ユッチに勝てないの決定しちゃったやん。
現在真ん中に置かれてるのは3枚。
「ジョーカーだ!」
シュシュシュシュシュ!
「ああ!? 私!?」
「ふっふ、サツキ。油断したな」
「ヤス兄がジョーカーひいたから早く反応できただけじゃん」
「サツキ……運も実力のうち。と言う言葉を知らないのかね?」
「今のヤス兄がいっても哀れだね」
「そんな事ないさ……一矢報いる事が出来たんだからな」
「私、このゲームでヤス兄を嵌めてないよ?」
ん? そだったっけ? 最初はただ単に俺が遅かっただけ、2回目はケンとユッチとキビ先輩の連係プレー……ほんとじゃん。
「言葉の使い方は気をつけようね、ヤス兄」
ごめんなさい……。
現在、キビ先輩22枚、俺16枚、ユッチ5枚、サツキ4枚、残り7枚。
現在4枚……残り3枚。
「このまま合わなかったら、キビ先輩の負けは自動的に決定ですね」
「こずるい手は使っちゃ駄目だよ。ヤス」
どやって使うねん。
「ハートのエースか……」
残り2枚。
キビ先輩が残り2枚のうち1枚をひく。
「クラブのエース」
スパパパパーン!!!
「くそお! 遅れたあ!!」
一番上にある手はユッチか。
ふぅ……。
「キビ先輩、この時点で順位決定ですね」
「……残念、負けちゃったかあ」
「結果は1位ケン、2位サツキ、3位ユッチ、4位俺、5位キビ先輩って順ですね」
「うん、これ中々白熱するね」
「ですよね!? キビ先輩面白いでしょお? 豚のシッポ!」
「んじゃまたやるか?」
うん、いいね。やろやろ。
「たまには罰ゲーム、無しで楽しもか。毎回罰ゲームありってなんか息詰まるもんな」
「おお、ケンにしては良い提案!」
「……なんかヤスに対してだけは罰ゲームをありにしたくなったな」
「ごめんなさい! 普通にやろ!」
「ん、冗談だ。普通にやろ」
ふう、危ない危ない。
途中でゴーヤ先輩とミドリちゃんもやってきて、交代交代で遊んでた。
……うん、こんな時間も良いな。