17話:短距離練習風景
さて、移動先には運動着に着替えてなかった制服の人たちがいる。
その中に、見知った顔の人もいた。
「ヤス君も陸上部を見に来たんですね? そういえばケン君はウララ先生のいる陸上部に入る―! ってずっと言ってましたもんね。ヤス君はケン君の付き添いですか?」
「アオちゃん……」
「はい、アオちゃんです、ついに呼ばせる事が出来ました」
何でアオちゃんって呼ばれるのがそんな嬉しいんだろう? 俺にはよく分からないが。
「俺は、今日の所はケンとの付き合いで来ただけです……」
「そうなんですか、私も今日は付き添いで来ただけなんですよ。だから今日は見学だけです。中学校の時は吹奏楽部だったので、吹奏楽部に入ろうかとも思ってるんですが、今日見てみて、吹奏楽部に入るか陸上部に入るか決めようと思ってます」
「アオちゃんって、吹奏楽やってたんですね……」
アオちゃんが吹奏楽やってたなんて聞いてないなあ。
「自己紹介のとき話しましたよ、ヤス君、覚えてないんですか?」
「……聞いてませんでした……」
「ヤス君、ひどいです! 私があんなに熱弁していたというのに、全く聞いてなかったんですね。ショックです……」
「あ、いや、ごめんなさい……」
「まあ、いいです。今度またしっかり私の話を聞いてもらいますから」
「いや、勘弁して下さい……」
アオちゃんは最初会ったばかりはすぐにひいてくれたが、最近はどんどん押してくる。
たまにはひいて欲しいのだが……。
「それで、今日はユウに是非一緒に陸上部に入ってくれって言われてまして、困ってるんですよ……ユウって言うのは同じ中学校から来た唯一の人です」
ユウって名前なんだし、きっと男だろ? って事はアオちゃんの彼氏かな?
「……アオちゃんは、吹奏楽部に入りたいんですか……?」
「いえ、絶対に入りたいと思っている訳ではないんですが……小学校の時からトロンボーンを吹いてまして、ずっと続けていた物を止めるのはどうかなと思いまして……」
「……惰性でやっているだけなら、止めてもいいと思います。でも、本当にやりたいなら、吹奏楽部に入ったほうがいいと思いますよ……」
俺だって野球が好きなら、どんなに周りに冷たくされようと、また野球をやろうと思ったはずだ。
仲間の輪に入れなくなったから野球なんてもうやるもんかと思った時点で、野球に対しては、そこまで強い思い入れはなかったと思っている。
「……どうなんでしょう? やりたいかどうか、よく分かりません」
「……そのユウって人に嫌われてでもやりたいって思えたら、吹奏楽に入ってもいいんじゃないですか……?」
「……ふふっ、ヤス君の考えって結構極端ですね、私ってば今そんな二者択一に迫られてるんですね」
ん? 変な事言ってしまっただろうか?アオちゃんに苦笑されてしまった。
ってか、やっぱり人に干渉してしまっている。
あれだけ仲良くならないって決めてんのに……無視される事には慣れてても、無視する事は向いてないのか?
や、そもそもそんな事に向き不向きってあるのか?
それから、アオちゃんはぼーっとこれからどうするかしばらく考えていたようだった。あんまり練習が目に入っているようには見えないな。
俺はアオちゃんの事は置いといて、短距離の練習を見ていた。長距離の人たちは分かれてどこかへ走りにいってしまった。
ウララ先生がこちらにやってきて、いろいろと説明をしてくれる。見ているだけじゃさっぱりだから本当にありがたい。
短距離の練習こんな感じだった。
まずはジョギング、陸上ではこのことをジョグと言うらしい。
その後、ストレッチ。1人でやるのと2人でやるのとあった。それにしても、みんな体が柔らかい。俺、大丈夫かな?
次に、フォームをよくするためのトレーニング、ウララ先生はこれの事をドリルと呼ぶと言ってた。
自分が見て分かるのだと、モモアゲをしていた。
モモアゲってのは、太ももを高くあげること。言葉にするとそれだけなんだが、ただももを上げるだけでは駄目で、モモを上げた時に、かかともお尻まで引きつけた状態でなければならないとウララ先生が説明する。極端に言えば、太ももの裏の部分と、ふくらはぎがくっつきそうになってるといいのかな。
とりあえず、考え込んでてウララ先生の説明を聞いてないアオちゃんにも後で分かるように、地面に書いてみる。
悪い例
□□□
□□□
□ □
□□□□□□
□ □
□□□□ □
■←膝□
■ □
■ □
↑ □
足の先□
モモを上げた時に
かかとがお尻に
くっついていなくて、
離れてる。
いい例
□□□
□□□
□ □
□□□□□□
□ □
□□□□ □
■■■□
↑ ↑□
膝 足□
の□
先□
モモを上げた時に
かかとがお尻に
くっついてる状態。
うーん、俺、やっぱり絵の才能ねえな。こんなんでアオちゃん、わかるかな? ■部分が膝より下の部分だ。その部分が膝より上の部分にくっつくように引きつけないとまずいそうだ。いい例のモモアゲをすると、足の接地時間、足が地面についたままの状態が短くなっていいという事だ。
どういう事かと言うと、悪い例のモモアゲだと、足があまりあがっていないために、足がすぐに地面につく。いい例のモモアゲだと、しっかり足があがっているので、足を上げている時間が長くなる。
足が地面についたままの状態が短いほうがいい理由、それは簡単だ。走っているとき、足が地面から離れている時に前に進む。つまり、速くなればなるほど、足が地面についてる時間は短くなるってことだな。
そういえば、かかとをお尻にくっつけようとして、こんな風になっちゃ駄目だぞ。
とても悪い例
□□□
□□□
□ □
□□□□□□□
□足の先
□↓ □
□■
□■
□■
□↑
□膝
モモをあげずに、
膝だけ曲げて
かかとをお尻に
くっつけようとしている。
わけわからん……これほんとに人間を書いたのか? カカシにしか見えん……何で俺こんなに絵が下手なんだろう……
時々、かかとをお尻にくっつける事を意識するあまり、モモがあがらなくなる人がいるんだってさ。
みんなで練習してる時はいいけど、1人で練習してると、モモがあがらなくなってる事に気がつかない事もよくあるんだって。
ほんとかなあ。
オリンピックや世界陸上の100mや200mに出場してる人とかを見てみると、速くて分かりにくいけど、いい例のモモアゲの動きをして走ってるってウララ先生が言ってた。
今度じっくり見てみようかな……。
ウララ先生の言葉を自分なりに解釈したから、もしかして間違っているかもしれん。
聞いていないから分かりませんってのは可哀想だから、後で俺が説明するが間違ってたらごめん、アオちゃん。
それにしてもウララ先生って陸上の知識が豊富だな。さすが東海大会経験者。
モモアゲの仕方も色々あって、ゆっくり姿勢を見ながら行っている物から、リズムに合わせてタンッ、タンッとおこなっている物もあった。
悪い例のようなモモアゲをしていてはあまり効果はなく、いい例のようなきちんとしたフォームで行うことが大事で、1年生の人たちはさっきから先輩に指導を受けている。徐々に慣れればいいという事らしいが、やはり先輩と1年ではフォームが違う。
他にもいろんな練習があるが、全部を説明するのは長くなりすぎる。
この練習は普段しないような動きをしなければいけないために大変だったみたいで、1年生はバテ気味だ。
フォーム修正トレーニング、通称「ドリル」の後、何本か100m程度を走る。
流しと言って、全力の70パーセントから80パーセントの気持ちいいスピードで走る事を言うらしい。
1年生の中には、それが分からず全力で走っているバカがいる。……ケンの事なんだが。
今日のメイン練習として、スタートの練習をする。
立ってスタートしてた、ケンにとってはこれは本当に嫌だったみたいで、しきりに「俺は立って走りはじめたほうが速いんだ!」って主張してた。
んな訳無いだろ! だったら何でオリンピックのスタートはみんなクラウチングスタートをしてるんだよ。
次に、100mを4本、ダッシュした。先ほどの流しの時のフォームや、ドリルの時のフォームを意識しつつ、フォームが崩れないように全力で走る。結構きつそうだ。
最後に、突然運動を止めて体を壊さないために、徐々に運動を緩めていく、クーリングダウン。略してダウンと言うそうだ。これをきちんとしないと怪我の原因になる。
クーリングダウンは何をするかと言うと、ジョグをして、ストレッチをする。
練習がきつかった場合は、各々の判断でマッサージもしてる。
今日は1年生の初練習、しかもまだ仮入部期間という事で、筋トレは無いそうだ。
さらに、筋トレまであるのか。中々大変そうだな。
こんにちは、ルーバランです。
今回、初めて陸上らしい話になりましたが、全然分からない、分かったけど分かりにくい、ここ間違ってる等あれば、教えていただけると幸いです。
今オリンピックやってますね。100mはボルトの世界新記録で終わりましたが、まだ200mがあります。
200mを見てみると、こんな感じでモモがあがってるように見えると思います。
…………見えますよね?(ちょっと不安)
そんな事考えながら、オリンピック見てみるのも面白いかもです。
今後も頑張っていきますので、よろしくお願いします。