157話:ちょこっと観光
ばたっと倒れた後、いまだに起き上がってない。
かれこれ30分近く転がってる気がする。
ようやく呼吸とか、足とかが戻ってきた。
「おい、ヤス……そろそろ起きれないか?」
「了解っす……よっこいしょっと」
うわ、立つのがきつい。
もうちょっと転がっていたい気もするけど……立つか。
「お疲れ。よく頑張ったではないか」
「ポンポコさんが並走してくれたからっすよ」
あんなしんどい道、1人で走ってたら絶対途中で止めてる。
「それにしても……走りきったんだなあ」
「気分はどうだ?」
「や、気持ちいい。完走直後はもうしんどくて、この道は2度と走るもんかって気分だったけど……達成感って言うのかな。やりきったんだなあってしみじみ思う。こういう気分になれるんなら、また走ってもいいさなって」
「それはよかった、それなら明日もここ走るか?」
「それは無理……体がもたないっす」
「冗談だ、怪我してしまったら元も子もないからな」
よかった……なんて怖いことを言うんだよ。ただでさえそこら中筋肉痛だってのに。
「んじゃ俺の体もなんとか動くようになったし、そろそろ帰る?」
そういや帰りはどうするんだろ?
ポンポコさんが乗ってるのは原付だから2人乗り出来んし……。
やっぱまた走んのかな。
「帰るにしても、まずは体操、ストレッチをきちんとしてからだな……だがヤス、ここはどこだ?」
「富士山5合目じゃん」
今更何を言うんだ、ポンポコさんは。
「そうだ。そしてせっかく富士山5合目まで来たのだから、登ってみる気はないか?」
「……走って?」
「いや、ここからは原付では登れないからな、観光気分で登ってみないか」
「あ、そういや走り出す前にも言ってたな」
「そうだ。富士登山がアスファルトの道だけと言うのは寂しすぎるだろう?」
確かに、せっかくきたのにここで終わりってのもつまらんな。
「だから登ろう、頂上や8合目まで登る時間は無いかもしれないが、行けるところまでのんびりとな」
「いいねえ、のんびりとって言うの。……でもさ、昼食時間には間に合うの?」
「大丈夫だ、私たち2人は弁当をもらってきてるからな。夕べの集いにさえ間に合えば何も文句は言われない」
「おお! ポンポコさん準備がいい。その働きっぷりはまさにマネさんの鏡っすね」
ってか完全に専属マネージャーになってもらっちゃってるんだが……俺はありがたいけど、迷惑じゃないだろか?
……怖いから聞くの止めよ。
「よし、行くぞ」
「ラジャ!」
「やっぽー!!」
山に来たらこれだろ。
「おいヤス、それを言うなら『やっほー』だろ。そもそも富士山ではやまびこは聞こえんと思うぞ」
「いいんだよ、聞こえなくたって。高いところに来たらなんとなく叫びたくなるじゃん」
「……そう言うものか?」
「そういうもんそういうもん、ポンポコさんも叫んでみなよ。いくぞ」
「ちょっとまて、私は叫ぶとは言ってない」
「せーの」
『やっぽー!!』
ほんとに言ってくれるとは……最近ノリがいい、ポンポコさん。
「それにしても標高が高いと、やっぱり景色もいいなあ。晴れてよかった」
雨が降ったり、霧が出てたりしたらこんないい景色は見られないからなあ。
「今日は雨の予報だったがな」
「朝、ユッチが『晴れたあ!!』ってすごく喜んでたなあ」
初日ユッチ、『雨、降るのかあ……』ってすごく落ち込んでたからなあ。
「ユッチが昨日の夜、せっせとてるてる坊主作っていたぞ」
「晴れますように?」
「そうだ。20個くらい作って、全てのてるてる坊主に拝んでいた」
ユッチがやっているのを想像すると何となく微笑ましい。
俺とかケンがやってたら……不気味だ。
「今でも全てのてるてる坊主がぶら下がっている、見に来るか?」
「残念だけど、俺今女子の部屋に入るの禁止されてるし」
ケンは確か許されてるよな……何かずるい。
「ああ……ユッチか」
「そうそう、昨日の勉強時間の前からユッチ怒らせてたのに、勉強時間の時にかんかんにさせちゃったからなあ」
……今日なんて俺を見た途端逃げられた。
ちょっとへこむ。
「今日のあの時間に挽回すればいい、今日は何をやるつもりなのだ?」
「えーっと……アオちゃんは、詩でも読んでみますって言ってたけど……」
面白いのだろうか? それ。
「ヤスの方が変な事考える事が好きだろう? アオちゃんに任せるのではなくヤスが考えろ」
こら、変な事考えるのが好きって何やねん。
血液型の話は確かにドラマ風にしようって俺が言ったけど……昼ドラ風にしたのはアオちゃんとポンポコさんだ。
途中から完全アドリブにしやがって。
「楽しみにしているぞ、ヤス」
ポンポコさんも考えてえな。
2時間ぐらい山登りを楽しんで、昼食もポンポコさんと食べて、今から青少年交流の家に帰宅。
今はもう5合目まで下山してる。
「うむ、綺麗だったな」
「ああ……」
「それでは帰るぞ」
「……やっぱり走って?」
「もちろんだ」
そりゃそうか。まあ下りだし、上りより楽だろ。
「ただし、下りはスピードが出てしまうからな。スピードを上げすぎると、足の負担が大きくなり危険だ。下りは登りより、走り方の技術が必要だ。あえてスピードを上げようとはするなよ」
「了解っす」
まあ、行きと同様のんびりと走りますか。
んじゃ、レッツラゴー。
……あれ?
「おいヤス、人の話を聞いたのか!?」
いや……でも、足が止まらないー、これだけのスピードで走れるの楽しー。
「おい、聞いてくれ!」
……しょうがない……ああ、楽しかった。
足が速い人って、あんなスピードを体感できんのね。
「ふう……ヤス、頑張るなら平坦な道や上り道で頑張ってくれ、今は走り方を意識して走ろう」
「ラジャ」
……ゴール。
上りのときよりやっぱり楽だったな。
「……」
「どしたの? ポンポコさん、すごい疲れてるけど」
俺とは逆だなあ。
「ヤスが悪いのだ! 何故何度もペースを上げようとする!?」
「ブレーキが利かないんだよ」
「嘘をつけ。私が怒る度にすぐに下げていた。こっそりとペースを上げようとしても分かるからな」
……ばれていたか。
「あはは。まあまあ、今日だけ許してください」
「……明日の午前、覚悟しておけよ」
こわっ……ポンポコさん、目がめちゃくちゃ怖いです。
おはようございます、ルーバランです。
富士山って上り道たくさんあるから、5合目と言っても高さがたくさんあるんですね。
多分自分の行った事がある5合目は一番低いところなんだろうなあ……。
それでは今後ともよろしくお願いします。