146話:アオちゃんのお勉強理論
さてと、夕食も食べ終わって、風呂にも入ってさっぱりして、今から勉強の時間だ。
何で合宿来てまで勉強? と思う人もいるかもしれないが、そこは高校生の本分だしな、しゃあないさ。
学校の教室みたいな場所を借りて、勉強開始じゃ。
…………zzz。
……zzzZZZ。
zzzzzzZZZZZZ。
や、みんな寝すぎだろ。ウララ先生は他事が忙しいらしくて、見にこれてないので、サボり放題とはいえ……。
……俺も寝よかな。
「ヤス君ヤス君」
「ん? アオちゃん、何?」
退屈だったので、話かけてきてくれてちょっと嬉しい。
「これだけ寝るのはまずいと思うんですよ」
「いいんじゃない? 疲れてるんだよ、みんな」
「さっきまで女子の風呂場前で騒いでたじゃないですか」
「俺は知らん」
ケンと普通に風呂に入ってただけだし。
「と、言う訳で私とポンポコさんで、何か始めようと話してた訳ですよ」
「えっと、んで?」
「ヤス君にも仲間になっていただこうと思いまして、何か聞きたいですか?」
「……特に」
勉強と思うと、何も聞く気が起きん。
「ヤス君、やりましょーよ」
……始めるったって……。
「ああ! なるほど!」
「と、突然なんですか?」
「開始の『始』って言う字はだからそんな字なんだなあと」
「はい? 何の話ですか?」
「何かが始まるときは『女』の『ム』ダ『口』から始まるから、始まるって言う字はこう書くんだろ?」
「ほほう? ヤス、今馬鹿にしただろう?」
「いやいや、ポンポコさん! 馬鹿になんてしてないっすよ!」
「そうか? かなりイラッときたのだが」
「いやいや、気にしすぎだって!」
「……まあいい」
ふう、あぶね。思った事は口に出さん方がいいなあ……そう思って出さずにいられた試しが無いなあ。
「ヤス君? この前の『偽り』もそうでしたけど今回の『始まり』という字も違いますよ?」
「え? まじ?」
また? 俺って勘違いだらけじゃね?
「じゃあヤス君、人間の始まりってなんだと思います?」
「猿」
人間は猿から進化したんじゃなかったっけ?
「……ごめんなさい、言い方が変でした。人間の一生の始まりってどこからだと思います?」
「えっと……赤ちゃんだろ?」
「その通りです。では赤ちゃんってどこから生まれます?」
「女性からじゃん」
「その通りです。……わかりましたか?」
「何が?」
「始まりという字の由来です」
「……えーっと? 分かりやすく言って?」
「人間の始まりは、女の人のお腹ですよね? 『女』の人が土『台』となって人が『始』まる訳です」
キュッキュッとホワイトボードに書いていく。
「『始』と言う字はこういう成り立ちですよ?」
「……なるほど」
全ての始まりは女性から……納得。
いやいや、変な事は言うもんじゃないね。
「それにしてもアオちゃん、詳しいね。さすが勉強好き」
……あんまり褒め言葉じゃないな。
「別にそんなに勉強好きとは思いませんが……勉強嫌いと言う人は、勉強と思うから嫌いなんですよ」
なにそれ?
「勉強するようになるには、必要に迫られるか、勉強を勉強と思わないかのどちらかですよね」
「ふむふむ」
「例えば、ヤス君とポンポコさんなんてこれの典型じゃないですか?」
「俺?」
「私か?」
何かあったか?
「ヤス君の場合は、両親が忙しくて、買い物も料理もしないといけないんですよね?」
「まあ、別に嫌じゃないけど、そうなのかな?」
「それで、買い物行く時に『どっちが安いかなあ』と計算しながら買い物する訳ですよ」
「ふむふむ、確かに考えつつ買ってるな」
「そんな事を小学校のうちからしてたら、計算得意になりますよね」
「そう言えば、そうかも」
算数でつまずいた事はあんまりないなあ。
「計算が得意になってしまえば、なかなか数学苦手にはならないですよ」
そういうもんか? まあ確かに小中と数学だけは平気だったなあ。
「ヤス君は必要に迫られて算数が出来るようになったという典型ですよね。対するポンポコさん、歴史が大好き。歴史に関しては勉強しろと言われなくても、どんどん覚えていきますよね?」
「ふむ、そうだな」
「勉強を勉強と思わないで、楽しく覚えてるから勉強できるんですよ」
「……なるほど」
そう言うもんか。
「基本的には、後者の勉強を勉強と思わず、という方が持続すると思うんですよ」
「何で?」
「前者の必要に迫られて、では必要でなくなったら勉強しなくなりますから。例えば、今ではパソコンが漢字も変換してくれますから、漢字もきちんと覚える必要が無くなりましたよね? 昔の人より、漢字勉強しなくなってると思いますよ?」
確かに……そしてどんどん忘れていくと。
「そういや、そんな考え持ってるアオちゃんとすんごい仲いいのに、ユッチって勉強嫌いだよね」
ちょっと不思議。
何であんなに嫌いなのか。
「ユッチは全然興味持ってくれなくて……この高校に合格したかったら、勉強しないとどうにもなんないですよ! って脅して泣く泣く勉強させました。本来はそのような事したら、一層勉強嫌いになっちゃうんでしなかったんですが……時間が無くて」
ユッチは必要に迫られたから勉強した訳か。
んで、高校合格して、必要なくなったから今寝てると。
……よっぽどこの高校に合格したかったんだなあ……なんで?
「ケン君も勉強、嫌いですか?」
「いや? そんな事無いぞ」
ケンは勉強、実は好きだ。
だから雑学をいろいろ知ってる訳だ。
「その割には成績悪いですよね?」
「テスト勉強とかは嫌いだからな。『テストのための勉強って何だよ!』って言って勉強しないもん。他にも最初の授業で先生が『将来のためだぞ!』って言った先生の授業で、『どんな風に将来に役立つんですか?』って聞いて、『将来のためなんだ!』って言ってしまった先生の授業は全部寝たり」
「中々極端ですね」
その先生が悪い。
「『勉強のための勉強』って言われると全然やる気が起きないんだってさ」
学校でも、先生が『この部分はテストにでるからしっかり覚えろよー』って言った瞬間に寝るよな。
普通の奴と逆だ。
「そう言う事ですか……じゃあ嫌いなのはユッチだけと」
「そだな」
「合宿中のこの時間の目標はこれにしましょうか?」
「これ?」
どれ?
「ユッチに勉強の興味を持たせる、です」
「ふむ……いいかもしれんな、宿題も終わっている事だし」
「ポンポコさんもアオちゃんも英語と歴史、助かりました」
「こっちこそ、数学助かったからな」
「私も読書感想文、書くの大変だったので助かりましたよ」
うむ、これぞギブアンドテイクだ。
「では、今日は時間ありませんし、明日から『ユッチ、救済大作戦』開始ですね」
「ラジャ」
おしおし、暇見て作戦を練るか。
「ところでヤスは何時に起きる?」
「普段は6時だけど?」
「時間があるな……早朝練、やるか?」
「何それ?」
「朝早く起きて少し走っておく、とにかく今のヤスはたくさん走るのが第一だからな。目覚めにもいいぞ」
「うーん……ポンポコさんは?」
「私は朝が弱いから……頑張るが」
うん、頑張ってくれ。
「んじゃ、やろかな」
今日の勉強時間は終わりっと、ほぼ相談で終わってしまったが。
……そう言えば、早朝練やるよって軽く言ってしまったが……体、持つかな?
おはようございます、ルーバランです。
……夏休み、長いです。
100話目から夏休み、いま146話。
なかなか2学期になりませんね……。
進行は遅いですが、きちんと書いていきますので、今後ともよろしくお願いいたします。