14話:初授業、あだ名と二つ名
体力テストも終わり、次の日の金曜日からは授業が始まる。
授業が始まると、やっと高校生らしくなってきた感じがするな。
と言っても、今日は先生の自己紹介の後、これからの授業日程と授業に関する質問会で授業時間の半分くらいが無くなったので、そこまできつくは感じなかった。
今から室井先生の初授業だ。英語の教科書を出して準備しておく。
先生の自己紹介はないので、これからの授業日程からの説明だ。他のより授業の時間が長くなりそうだな。
そんな事を考えていたのだが、室井先生が質問がありますか? と聞いたときから、何かがおかしくなった。
「今度、室井センセとクラス全員で一緒に遊びにいきませんか!?」
ケン、それ質問じゃないから! 授業と全く関係ないし! 堂々と誘うな! しかもクラスメイト全員を巻き込むな!
「室井センセの名前の由来って何ですか? 俺は次男で、健康に育って欲しいからって健次になったんですよ」
関係ない話をするな! お前の名前の由来は誰も聞いてない! そういうのは自分の心の中にだけしまっとけ!
「室井先生、どう頑張ったらそんなに胸が大きくなるんですか?」
そこの女子、そう言うのは男子がいない所で聞いてくれ!! 高校一年生ではまだまだうぶな男の子も多いんだ!
「室井センセって今おつきあいしている人はいるんですか?」
「ケン! さっきから授業内容に関係ない! そんなプライバシーに関わる事を堂々と聞くな!」
さすがにその質問はまずいと思い、声を挟んでしまった。聞かれたくない話に関わるかもしれないんだからむやみに聞くのはよくない。
「えっと、以前付き合ってた人はいたけど、先生になったと同時にお互い忙しくなって自然消滅しちゃった……」
「先生もそんな事答えなくていいですから! しかもなんかその結末悲しいです!」
しまった、また室井先生につっこんじまった。
くそう、ケンが絡むと他の人にまでつっこみを入れてしまう。
……大人の恋愛っていろいろ大変そうだ。
……なんかもう収拾がつかなくなってきた。この時間は授業が出来そうにない。
「室井先生、クラス全員のあだ名を付けませんか?」
「えと、木野さん? ……あだ名?」
「そうです! もしくは二つ名でもOKです。なぜなら、ケン君とヤス君だけあだ名で覚えられてるなんてずるいからです! うらやましいです! 私もアオちゃんって呼ばれたいです! それに、そうすればクラスメイトがもっと仲良くなれるじゃないですか!」
隣に座っているアオイさんが、訳の分からない事を言い始めた。俺は別にヤスって呼ばれたくねえよ!
名字で呼んでくれていいよ。
……あだ名を付けると、仲良くなるのか? ……大体、仲良くならなくてもいいし。
「確かに、ケン君とヤス君だけ特別扱いになっているのはずるいよね。……よし、今日の授業はクラス全員の『あだ名プラス二つ名の命名』にあてましょうか」
特別扱いしないっていうなら名字で呼んでよ! そんな事に授業つぶしちゃっていいの!?
他の人たち嫌じゃないの? ……ってみんな拍手してるよ! すごい嬉しそうだし! そんなにあだ名で呼ばれたいのか?
後、二つ名をつける事も決定したの?
「でも、まだみんなの事をよく知っている訳ではないし、ちゃんとしたあだ名や二つ名を他の人につけてあげる事は出来ないよね。だから、自己申告制でいきましょう!」
自己申告制??
「自分でこう呼ばれたいって名前を付けてね。でも、分かりにくいのはNGだから。ちゃんとケン君ヤス君みたいにすぐ分かるあだ名にする事。」
まあ、確かに<ヤスアキ>って名前で、ナベってあだ名を付けても、絶対忘れられるだろうしな。
ってか俺は自己申告してないんだけど。
「どうしても思いつかないって場合は、ケン君ヤス君に頼めばつけてくれます」
それはない! 無理です! そんな技能俺にはありません! 大体まだクラス全員の名前も覚えてないのに。
「思いついた人から挙手して、あだ名と二つ名を宣言して下さい」
挙手制か……こう言うのって気が弱い人とかノリが悪い人は手を挙げないもんだが……
「はいっ!」
やっぱりケンが速かった。ってかケンは既にあだ名があるぞ。二つ名のほうか。
「出席番号12番、早川健次! あだ名は<ケン>、二つ名は<忠犬>!」
また犬かよ! 忠犬ケンってなんか言いにくいぞ!!
「ほら、次はヤスの番だぞ。クラス委員が先頭をきってクラスを引っ張っていかないと!」
「なんでだよ! 俺は別に二つ名なんていらねえよ!」
毎回毎回俺に振るな!
「ノリが悪いぞ、ヤス! こう言う時にはテンポ良くポンポンと言ってったほうが、みんなも言いやすくなるんだぞ」
「知らねえよ! 大体お前みたいに簡単に二つ名なんて思いつかねえよ!」
「簡単だろ? 今の自分の状態を言えばいいんだよ。ツンツンしてるから……」
「なんだよ! また猫だって言いたいのか? じゃあ俺の二つ名は<猫>でいいよ」
もうめんどい。さっさと終わってくれ。
「ヤス君はただの猫じゃありません」
……いままで隣で俺とケンを傍観していたアオイさんが口を挟んできた。……アオイさん、何を言い出すんですか?
「猫は猫でも<猫娘>です!」
「っ!! ……娘って何ですか? 一応男なんですけど……」
叫びそうになるのを必死で押さえる。
一応じゃなくて完全なる男だが、衝突を避けるためにへりくだってしゃべっている。
この人は俺をどんな目で見てるのだろうか?
「だって、ケン君の面倒を文句をいいながらもかいがいしくみるその姿は、あきれながらも駄目な父親の面倒を見てあげてるまさに娘の鏡です!」
「いや、そんな娘現実世界にきっといないですから……」
「そうなんです! 現実世界ではほぼあり得ませんが、フィクションの世界では多々あるこの設定! その設定を地でやるこの2人に敬意を表して<猫娘>という二つ名をつけるのです!」
アオイさんのセリフのどこに感動したのか知らないが、クラスで歓声が上がった。
『猫娘! 猫娘! 猫娘! 猫娘!』
いや、そんなアンコールみたいにそろえなくていいから……。
「<猫娘>でいいです……」
もう諦めた。二つ名なんてすぐに忘れられるだろう。
ここからは速かった。どうやら、<猫娘>みたいにすごく変な二つ名があるんだから、自分の好きなのにしてもバカにされないだろうと言う思考が働いたみたいだ。確かに男に<猫娘>ほどやな二つ名はないだろ。
とりあえず知り合いのと変なヤツのだけは聞いておこう。
「出席番号24番、木野あおい! あだ名は<アオちゃん>、二つ名は<天然>!」
……自覚あったのか。前々から変な人だとは思ってたが、まさか自分で天然と言いきるとは……。
「出席番号3番、加藤守! あだ名は<マルちゃん>、二つ名は<緑のタヌキ>!」
いいのか?確かにマモルでマルちゃんだったら覚えやすいし、小太りだからマルマルっとしているという意味でもマルちゃんというあだ名は分かりやすい。だが、緑のタヌキって……食べられるぞ。
「出席番号7番、鈴木健太<スズキケンタ>! あだ名は<おじさん>、二つ名は<プレーンヨーグルト>!」
いや、確かにお前の顔は老けているが、それをあだ名にしなくてもいいんじゃないか?
同級生におじさんって呼ばれるのは俺は嫌だな。
ってか二つ名のプレーンヨーグルトは分かりにくいだろ。みんなきょとんとしているぞ。
「出席番号40番、渡辺梨花<ワタナベリンカ>! あだ名は<ナベリン>、二つ名は<腐女子>!」
自分で言うな!! 自分から腐女子って宣言しないでくれ……。……俺とケンが付き合ってるって話の時に真っ赤になってにやけてた人だ。
「出席番号1番、相川数彦<アイカワカズヒコ>! あだ名は<カズ>、二つ名は<ポニーちゃんラブ>!!」
……バスケ部に入るのかな?? 名前がそうなったのは、偶然だよな?
「これで全員決まりましたね?」
40人分決めるってのはやっぱり大変だった。ほとんどの人が自分で決めて、ケンに決めてもらった人は1人だけだった。
結構時間かかったな。チャイムまで後2分くらいだ。
「室井センセ! まだ残ってます!」
ケン、もう終わらせてくれ。俺は疲れた。誰か残ってたっけ?
「室井センセが決まってません!」
……確かにそうだが、俺たちが先生をあだ名で呼ぶ訳にはいかんだろ?
「そうね。私だけ仲間はずれってのも嫌だから、決めようかな」
いいのか? 先生がそれでいいのか!?
「1年3組担任、室井春乃<ムロイハルノ>! あだ名は<ウララ>、二つ名は<狙い撃ち>!」
『春うらら』からとったのか。まあ分かるし、先生の雰囲気に合ってるしいいか。
二つ名もまあよくわからんがまともだ。よかった……<巨乳>とか<ボイン>とか言われたら、顔が赤くなる。
……考えたら、少し顔が熱くなった……。
「せっかく決めたんだから、他の授業の時間は無理かもしれないけど、休み時間やこの英語の授業時間だけでもあだ名で呼び合いましょう」
嫌です! 呼ばれるだけでも嫌だったのに、呼ばなくちゃいけなくなるなんて。
「あだ名も二つ名も忘れないために、後ろの掲示板に紙に書いて張っておくね。」
何!? 猫娘がずっと1年間ずっと残るの? 先生、勘弁して下さい……。
こうして、高校入学後の最初の英語の授業は終わった……。授業じゃないな、これ。
こんにちは、ルーバランです。
出席番号1、7、40の3人はサブキャラなので、覚えなくて結構です。
気に入ったら出てくるかもしれません……。
今後ともよろしくお願いします。