125話:サツキの中総体東海大会、終わり
「ゲーム、ゲームカウント、2−4、ウィナー、カツマタ&カツタ」
終わった……。負けちゃったか。
ダブルス2、キリ&マイマイペアが2−4で負け、この時点でサツキ達の中学の負けが決まった。
……相手に負けたって言うより、自分に負けたって感じだった。
今まで地区予選からダブルス1のサツキ&クロダペア、負けた事なかったからな。
知らず知らず、ダブルス2のキリ&マイマイは『自分らは負けてもまだ大丈夫』という安心感の中対戦してたんだろう。
今回は『自分らが負けたらもう後がない』というプレッシャーの中対戦してたからな。
動きがいつもより固かった。
色々叫んでみたけど、今回は何も効果なかったな。くそう……無力だ。
「ほらサツキもクロちゃんも、まだサキちゃんとミキミキの試合が残ってんだから! 泣くのは後!」
「他人事だと思って……ヤス兄の馬鹿あ」
「はいはい、胸なら貸してやるぞ」
「……うるさい、変態兄」
へこむから……そんな事言わないで……。
さ、泣いても笑っても、これがサツキ達の中学のラストの試合だ。
しっかり応援してやろう。
「ダブルス3、サキ&ミキ vs マダ&カトウ」
うわ、まだ勝つ気かよ……
負かせたれ! サキちゃん&ミキミキ!
まずはマダさんのサーブだ。
どんなサーブを打つんだ?
ん? 上から打たないの?
「テイッ!」
アンダーサーブだっけ? 打つ人始めて見た。
……うわ、すごい回転。アンダーサーブで打つとあんな回転がつくんだ。
めちゃくちゃ返しにくいところにサーブが飛んでくる。
「ふんっ!」
無理矢理変なフォームで返すミキミキ。
返れっ!
パサッ……。
「ネット、ワンゼロ」
いきなり始めてのサーブとの対戦か。
苦戦しそうだ。
もう1回マダさんのサーブ。
「テイッ!」
またアンダーサーブ。
サキちゃん、とれるか?
「こんなもん、余裕!」
お、すげえ、本当に取った。
「むかつくな……テイッ!」
マダさん……怖いから。
マダさんは低めの球を打つ。
トンッ……。
げ、コードボールかよ!?
ミキミキ、とれるか!?
「……やっ!」
慌てて飛び込んだけど届かない。
……狙ったのか?
あ、何か謝ってる。
わざとじゃないなら気にしない。
まあ、低め低めを狙うとどうしてもコードボールも出ちゃう事あるよな。
「ツーゼロ」
しかし、ポイントを取られた事には変わりない。
このままずるずると点を取られ続けるのは避けたいな。
次はカトウさんのサーブだ。
「デイッ!」
カトウさんは上からのサーブなんだな。
中々のスピードのフラットサーブだ。
「ふんっ!」
そう言うサーブはクロちゃんが同じ中学にいるから慣れてる。
バック方向を狙われたけど、落ち着いて返した。
「軽々と返してくれちゃって……デイッ!」
低めの弾道で返す。
トンッ……。
うわっ、またコードボールかよ……。
「このっ!」
サキちゃんが飛び込む。
何とか追いついて返したけど、既にマダさんがスマッシュの体勢だ。
「テイッ!」
スパンッ!
決まったか……。
2回連続コードボールって、かなり不運だな……。
「スリーゼロ」
やばいな、完全に向こうに運が行ってるっぽい。
「あわてんなよ! 運が悪かっただけなんだから!」
『わかってます!』
おし、大丈夫そうだ。
もう1回カトウさんのサーブ。
これを決められたら1ゲーム目がとられてしまう。
「デイッ!」
サキちゃんがレシーバーだ。
いつも通り返してやれ。
「ばっかやろう!!」
……サキちゃんってストレス溜まってんのかなあ。
「これで終わりだよっ!」
トンッ……。
3回連続!? ありえん!
絶対偶然じゃないだろ!?
「相手、絶対コードボール狙って打ってるよ」
「だよね、それができるレベルは確かにすごいんだけど……むかつくね」
……不謹慎な話をするなよ。
「もう最後だし……」
「……やる?」
……やめなさい。
……やるの範囲がそれでよかった。
何をやるのかと思ったら、ただ単に相手をめちゃくちゃ走らせると言ういつものプレイ通りだった。
対抗して相手にボールをぶつけまくるとか、こっちもコードボールを狙うとか、そんな事は止めてくれてよかった。
現在ゲームカウントは3−3。
ゲームカウントはならんでるが、ポイントは後1ポイントでこっちの勝利だ。
相手はバテバテ、もう走れそうにない感じ。
対するこっちの2人組はまだまだ元気。
……お前ら、どんだけ体力をつけてきたんだよ。
ラストを決めるかどうかのサーブはサキちゃんだ。
レシーバーはカトウさん。
……みんな、まだ試合は終わってないんだ。
確かにこれで、お前らの中学のテニスは終わりになっちゃうんだけどな……まだ泣きそうになってんなよ。
「だあっ!」
おもいっきりサーブが打たれた。
小細工も何もないまっすぐなサーブ。
「デイッ!」
何とか返す、カトウさん。
トンッ……。
また、ここでコードボールが来た。
これは本当に偶然起きたコードボールだろう。
ただ、狙われまくって慣れてしまったのか、ミキミキの反応が速かった。
「ふんっ!」
思いっきりマダさんとカトウさんの真ん中を貫いてスマッシュが決まる。
「……ゲーム、ゲームカウント4−3。ウィナー、サキ&ミキ」
終わったか……。
真ん中でお互いに握手をすませて、こっちのベンチに戻ってくる。
全体としては、
ダブルス1 ×
ダブルス2 ×
ダブルス3 ◯
の1−2で、東海大会1回戦負けが決定した訳だ。
「お疲れさま、サキ、ミキ」
「ありがとうございます……先生」
試合には勝ったけど、チームは負けたんだもんな。
……。
「今日までお疲れさま、みんな……レギュラーのみんな、よく頑張ったね。大会に出られないまま終わっちゃったみんなも、サポートありがとうね。ここまで戦って来れたのも、陰ながらのサポートや、応援があったからだよ」
『はい……』
「私たちは日本一頑張ったんだから……いつか思い出になるかもしれないけど、今は思いっきり泣こう?」
『はい……ううううええええん』
エリさんとシイコさんとの約束、守れなかったな……サツキ達の夏はここで終わった。