122話;ヤスのちょっといい話?
「ふぅ、終わった終わった」
ようやく水浸しの床から水を全部拭き取ってやった。
いやいや、大変だった。
ついさっき水道屋さんも来て、きっちり直してってくれたからな。
うちのトイレ、かなり老朽化してたけど、
「このままでも十分大丈夫ですよ」
と言ってくれた。いい人だ。簡単な修理方法も教えてくれたし。
やな人だと、まだまだ大丈夫なのに、こっちが分からないのをいい事に
「もう買い替えないと駄目ですよ」
と言う人もいるとか……。
「……世も末だねえ」
……俺はどこぞのじじいだ……。
現在、午後2時。
「暇だ……」
する事がない。
・宿題……終わった。すげえだろ。こう言うのは早く終わらせて残りは遊ぶと言うのが一番楽しく夏休みを過ごせるんだ。英語はアオちゃんに、古典と歴史はポンポコさんに丸投げしたしな。楽勝楽勝。
・サツキ……いない。
・テレビ……この時間、つまらない。
・本、漫画……家にあるのは全部読んだ。
・電話……みんな忙しそうだよなあ。友達少ないな、俺。
「暇だ……」
風邪引いて療養している身だからなあ、どっかへふらふら出かけると言う訳にも……図書館くらいならいいかなあ。
えーっと、これからなんかイベント……。思いつかんなあ。
「久々にお菓子作りにでも挑戦するかあ」
暇だと突然したくなるんだよなあ。
さあ、ひよこのエプロンしてと。キッチンに立つ。
うむ、やっぱりひよこエプロンだよなあ。サツキからのプレゼントなり。
「ヤスの3分クッキング〜♪ テケテンテンテン♪ テケテンテンテン♪ テケテンテンテンテンテテテテテ〜♪」
鼻歌と言えばこれだよなー、絶対3分じゃ終わらんけど。
「さてさて、今回作るのはみんなが大好き『フルーツケーキ!』」
……俺はどこへ向かって解説しているんだろう?
「準備するものは、薄力粉200g、ベーキングパウダー小さじ2、りんご半分、砂糖70g、塩小さじ1/3、卵1コ、牛乳100cc、水100cc、グラニュー糖小さじ2、バター小さじ2!」
バターがない人は、マーガリンでもいいらしいぞ。レシピにはみかんもあったけど、家にみかんなかったから、使わない。
「今回はびっくりな器具を使って簡単にケーキを焼いちゃいましょう! その名も『ご飯戦隊! 炊飯ジャー!』」
……ごめんなさい。ただの炊飯ジャーです。家のは5合炊きだ。
何何? 上の分量は9合炊きなので、5合炊きの場合は3分の2から2分の1にしてお試しくださいか。
……面倒だな、2個作ればいっか。
ただいまレシピを見てます。
「さて、まずは……何何?『1.ジャーの内釜の底の部分に、バターを多めに塗る。グラニュー糖小さじ1をふる』」
ぺたぺた、ぱっぱっ。よし出来た。
「次は、『2.皮をむいて1厚さに切ったりんごとみかんを並べ、グラニュー糖小さじ1をふりかける』」
……1厚さって何だろう? そんな単位あったっけ?
まあ、適当に薄く切って、並べればいいよな。半分の分量だからリンゴは4分の1個だな。
むきむき、むきむき。とんとん。置き置き。よしできた。
「それからっと、『3.小麦粉にペーキングパウダーを加えて、泡立て器でかき混ぜ、塩と砂糖を加え、更にかき混ぜる』」
よしよし、泡立て器かあ。
「いざ、尋常に!」
まぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜ!!
「はー、疲れる。……と言うかどれくらい混ぜればいいか書いてないな」
まあ、適当でいいって事だろ。
こんなもんでいっか。
「次々〜♪『4.計量カップに卵を割りほぐし、牛乳と水を入れて250ccにする』」
カン! パカッ! ポトッ。 トクトクトクトク。
「オッケー!『5.粉に4.を加えて、泡立て器を使って混ぜる。溶かしバターを加えて混ぜる』」
よし、混ぜるぞ。
まぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜまぜ!!!!
「ありがとうございまーす! いつもより多く混ぜております!」
誰にお礼言ってるんだかなあ。
「さ、ラストラスト。『6.ジャーの中に流し入れて、スイッチを入れる』」
えーと、半分の容量をまず入れるんだからと。
「こんなもんか」
残りはラップして冷蔵庫に入れとこ。
「ん? 後もうする事無し?」
暇じゃん。余計に混ぜたりしたけど、すぐに終わっちゃったじゃん。
「炊飯ジャーじゃ、中の様子見る事も出来んしなあ……」
膨らんでいくのを見るの、意外と楽しいんだよね。
結局、ネット小説見て、暇潰してた。
こう、あまり評価が高くない作品の中から面白い作品を見つけるのがいい。
この面白みを知ってるのは俺だけだな……と。
お、1作品目が出来上がったようだ。
「おー、なかなかうまそうじゃね?」
炊飯ジャーで始めて作ったにしては上出来だ。
「2個目♪ 2個目♪」
いやいや、料理は楽しい。
片付けがめんどいけどな。
「うむ、2個出来てしまった……」
こんなにたくさんどうするんだろう?
そんなにおっきなケーキじゃないけど、2個は……。
あ、そだ。ちょうど家にぶどうがあったなあ。
2個とって、それぞれのケーキのど真ん中に置いて……と。
「この2つのケーキを隣に並べて〜♪」
…………………………俺は馬鹿だ……何やっているんだろう。
……あ、そう言えば。
時間は18時か。
夕飯の支度して、今のうちにケーキを箱に入れて、その他諸々して……と。
「ただいま! ヤス兄、元気?」
「お帰りっと、元気元気。もう大丈夫。心配かけたなー」
「そっか、大丈夫なんだね。よかったよ」
心配ありがと、サツキ。
「だけど、年1回のヤス兄の大暴走、見たかったなあ、面白いもん」
こら、サツキ。
「あれはちょっとしたイベントだよねってケンちゃんとメールしてたんだ」
「あ、そうそう、ケンケン」
「ケンちゃんがどうかした?」
「サツキも今からケンの家行かね?」
「え? なんで?」
「明日行けなさそうだし」
「……そっか、そうだねー、いこっか」
おし、行くぞ。
サツキを後ろに乗せて、ケーキを崩さないようにキコキコ。
……ケンの家に到着。
もうバイトもあがってるだろ。
ピンポーン。
「はいはーい」
お、ケンだ。
「おーっす! おれおれ」
「オレオレ詐欺は現在受け付けておりません」
ガチャッ。
「……サツキ、帰ろっか?」
「まあ、気持ちは分かるけど、リトライだよ、ヤス兄」
サツキが言うなら仕方ないな。
ピンポーン。
「なんですかー?」
あいつ、俺だって分かってるな。
「あ、ケンちゃん? ワタシワタシ」
「なんだよ、サツキちゃんいるなら先に言えよ、待ってろ、玄関行くから」
……ワタシワタシ詐欺はいいんか?
「おっす! 風邪はもういいんか?」
「ああ、元気元気」
「そか、今日ユッチとアオちゃんから、暴走してるヤスを聞いたんだけど、やっぱり現場に居たかったなあ」
「だよね、私も聞きたかったなあ、後で詳細教えてね」
「了解了解」
……俺のダーク版ってそんな面白いの?
「で、今日はどしたんだ?」
「ああ……ほら、サツキ」
「はいはい」
「……ん?」
『ハッピーバースディイブ! ケン!』
「……は?」
「や、明日のほんとのケンの誕生日は、サツキの東海大会とかぶってるから、もしかすっとお祝いできないかもだし」
「と言う訳で、今日お祝いにやってきました! 16歳、おめでと! ケンちゃん!」
「……ああ、そう言う事かあ! ありがとな! ヤス! サツキちゃん!」
「このケーキはヤス兄作だから、お礼はヤス兄に言ってね」
「あいよ、ありがとさん! ヤス。あけていいか?」
「ま、ここであけてもいいけど」
落とすなよ。
「よしよし」
パカッ。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
「ごめんなさい!!! 直すの忘れてました!!!」
「や、いいけどさ。ヤス……このケーキ名は『おっぱいケーキ』とかでいいのか?」
違う! フルーツケーキです!
「すみませんでしたあ!!!」
「ヤス兄、飢えてるんだね……今度エロ本買って来てあげるよ」
サツキ、それは止めて!
ってかそんな哀れんだ目で見ないで!!
「まあ、家族にもこれで見せとくよ。来たついでに夕飯ヤスたちも食ってく?」
「あ、ヤス兄! 久しぶりにごちそうになろっか?」
や、夕飯は構わないけど、それを直してからにしてください。
『ごちそうさまでした!』
夕飯はおいしかった、ケーキも自分で言うのもなんだがおいしかった……でも恥ずかしかった。
くそう、今度はもうちょっとちゃんと作ってやるからな!
おはようございます。
と言う訳でケン君の誕生日は8月8日でした。
……ええと、いい話じゃないですか?
わざわざ親友の誕生日の前日に誕生日に行けないかもしれないからケーキを持って行く。
……暇つぶしに作ったケーキ。
ま、まあ誕生日にわざわざ何か贈り物作る自体いい話じゃないですか!?
ケーキのレシピは
http://allabout.co.jp/gourmet/cookingabc/closeup/CU20030220a/index.htm
からお借りしました。炊飯器はものによっては米しか炊飯できないそうなのでご注意を。
それでは。