117話:ポンポコノート、パートツー
アオちゃん、空気読んでほしいなあ。
えと、『3M』と『3H』……やばい、ポンポコさんにせっかく言ってもらったのに『まじ』『もう』『無理』と『はげ』『へんたい』『はら』しか思いだせん……。
後でアオちゃんにこっそりきこ。
「で、でさ。ポンポコさん。もう1個聞きたいことあるんだけど」
「…………」
……だめだ、放心状態だ。
「ポンポコさん!」
「ん? な、なんだ、ヤス。突然大声出して」
ポンポコさん、ようやく復帰したか。
さっきまで固まってたからな。よっぽど自信作だったんだろう。
アオちゃんもむごいことを……。
当のアオちゃん、ユッチが来たから気まずくなって逃げた。
やってしまったと思ったんだろう。
「聞きたいことが後1個あるんだけど」
「ん、なんだ?」
「このノートの表紙にさ、『叫べ!全国出場!!』ってでかでかとマジックで書かれてるこれは何さ?」
「ヤスがこれから毎日する行動だ」
……は?
「せっかくやる気になったんだろ? しかし、そのモチベーションを維持するのはあまりにも大変だ。特にヤスには長距離内で仲間がいない。ユッチもすごいやる気だから、ユッチと話をすることである程度は保てるかもしれないが、やはり種目の違いと言うのがあるからな。完全に一緒に練習できるわけではないから、やはりどこかでだれてしまう可能性がある」
「ふむ」
それは正しい気がする。
「初心を忘れないためにも叫べ」
その発想の飛躍は何!? というかいつの間に全国大会出場になったの!?
確か東海大会出場だったよ!?
「叫ぶのはいいことだぞ。ストレス発散になる」
俺ストレスは適当に発散してる……はず。
「叫んで他の人に周知させると言うのも大きな理由のひとつだ。不言実行のが格好いいとか言うかもしれんが、何も言わなかったら、後でなんとでもいえるからな」
ま、まあそうだが。
「だから叫べ」
「周知だけなら叫ばなくてもいいじゃん! 何その羞恥プレイは!」
「『羞恥プレイ』じゃない、『周知プレイ』だ」
「言葉遊びしてるわけじゃないから!!」
「……ヤスならそれぐらい、今更だと思っていたのだが」
「そんなわけないじゃん!!」
「仕方ないな……ユッチ、ちょっといいか?」
「へ? ボク?」
何でユッチがここで出てくる?
「ヤスと一緒に叫ばないか」
『はあ?』
何を言っている、ポンポコさん。
「叫ぶのは気持ちいいぞ」
「ポンポコ、わけわかんないよ!」
大丈夫だユッチ、俺もだ。
「ユッチ、ヤスは今すごいやる気なのだ」
「え? そうなの!?」
ユッチ、そんなきらきらした無垢な目で俺を見ないでくれ!
「そのやる気を持続させるためにも叫ぶと言うことが必要なのだ」
「そ、そうなんだあ」
だまされるな! ユッチ!
「ふぉごふぉご!!!」
アオちゃんに口をふさがれて、しゃべることができない。
「だが、1人で叫ぶと言うのがいやらしくてな、そこでユッチが一緒に叫んでほしいのだが」
「ボクが?」
ユッチと一緒でもやだから! この前やってわかったけど、2人でやったって恥ずかしさは2分の1にはならないぞ。むしろ2倍だぞ!
「ふぉごお! ふぉごお!」
「陸上部の中で一番やる気のあるユッチと叫ぶことで、モチベーションを持続できるそうだぞ」
そんな訳ないだろ!
「ユッチ、違うから! やりたくないよ!」
ようやくアオちゃんの手を引き剥がしてユッチに叫ぶ。
「大丈夫ですよ、ヤス君のやりたくないは『わたし、本当はやりたいんです……!』っていう気持ちの裏返しですから」
またそれかよ! 懐かしいなおい!
「そうなんだあ!」
「信じるなよ! 馬鹿かユッチは!」
「ボクは馬鹿じゃない! 馬鹿って言うなあ! この馬鹿ヤス!」
……ユッチ、『馬鹿』しか悪口のストックがないんか。
「というか俺の言うこととアオちゃんの言うことどっちを信じるの!?」
「そりゃアオちゃんに決まってるだろお!」
くそう、アオちゃん……今までそうやってユッチをだましてきたんだろ。
「私も叫ぶときは見てるから」
ならポンポコさんも叫べ!
「うい! わかったよ! ヤス、頑張ろう!!」
もういいや……どうにでもなれ……。
……ユッチはもう怒ってないみたいだな、よかった。
お、ケンもようやく来たか。
「ユッチとケンは3Kと聞いて何を思う?」
ポンポコさん、『3H』と『3M』がよっぽど悔しかったんだろうか。
残りの『3K』だけはまともな意見を聞きたいに違いない。
「何の話だ?」
「いいから、答えてみてくれ」
……強引だあ。
まあ、俺も気になるな。
「3Kと言ったら野球で三振を1イニングで3つ奪ったって事じゃないか? すごいよな!」
さすがケン、兄貴が野球部なだけある。
考え方が野球になるんだな。
「ユッチは?」
「ぼ、ボク!? えーと……」
「ユッチ……何も思いつかないならそれでいいぞ」
「そんなあわれんだ目でボクを見るなあ!! あれだろ!? 新聞のことだろ!?」
えーと……何の話だ?
「知らないの? 馬鹿だね、馬鹿馬鹿! 馬鹿ヤス!!」
うわ、むかつく。
「ユッチ、それってもしかして『産経新聞』の事ですか?」
「へ? アオちゃん、違うの?」
「今、ポンポコさんが言ったのは『3K』ですよ。3つのKです」
……ええと、そんなに顔を真っ赤にしなくても。
「うるさいうるさいい!!! みんなみんな嫌いだあ!!!」
いっちゃった……すぐに練習始まるんだけど。
その後すぐ、ものすごく恥ずかしそうに戻ってきた。
ユッチ、ガンバ。
おはようございます。
叫ぶのは意外とストレス発散です。
私、毎日叫んでます(>_<)
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。




