104話:サツキの中総体県大会、前日
今日は7月28日月曜日。部活中だ。
ちょっとユッチにお願いがあるんだが……頼みにくいなあ。
「あのさ、ユッチ……ちょっといいか?」
「…………なにさ?」
うわ、めっちゃ不機嫌だし……。
「えとさ、明日サツキの応援、来てくれるんだろ?」
「……ああ、うん。午後からだけどね」
午前は部活だからな。
俺は明日、部活は休んで朝から応援行くけど。
「でさ、俺に怒ってるのは仕方ないからもういいんだけど、サツキの応援はちゃんとやってあげて。ついでに今の状態もサツキには見せないで欲しいんだけど……」
「それは、サツキちゃんの前では仲良くしろって事?」
「ああ、うん。お願いできないかな? サツキに他の事考えさせたくないし」
「……明日だけだから」
「ありがと、恩に着ます」
部活も終わり、バイトも終わった帰り道。
ケンとのんびり歩いてる。
「それにしても、大変だな! ヤス!」
「……ケン、なんでお前はそんな明るいんだ?」
ユッチは男子全員にキレてんのに。ケンだって例外じゃないんだぞ。
「ま、元々ユッチは俺とヤス以外の男とは話さないしな。他の男子はどうも思わんさ」
あれ? そだったっけ?
……そういや、しゃべってるとこ見た事ないなあ。
「そして俺は『ケセラセラ』!」
「幸せを呼ぶ生物? 何言ってるんだ?」
「それは『ケサランパサラン』! わざわざボケなくていいぞ、ヤス」
や、素で間違えた。
「『ケセラセラ』は『なるようになる』って意味だぞ。ちゃんとやってりゃその内誤解も解けるさって思ってるからな!」
うう、そう思えるケンが羨ましい。
ついでにほんと、雑学だけは知ってるな、ケン。
「ま、実際ユッチの言う通りだからな。キングとかジャックって叫んでたヤツラ、何したいのかよく分からんし。短距離でも男子ではまともにやってるの、ハードルで県大会行った先輩くらいだ。その先輩も普段ハードルのちゃんとしたコーチがいる所に個別に練習行ってたりしていない事も多いから、残ってる連中は適当なメンバーばっかりだ。真面目にやってる女子から見りゃ、男子の現状腹立つのも無理ないな」
「……ケンは変えようとか思わんのか?」
「ユッチの言う事も分かるけど、俺は俺。人は人。遊びで陸上やってる人も俺はありだと思ってるからな。強制的にやらせてスポーツ嫌いになるよか、遊びでも続けれるならそれはそれでいいんじゃない? 野球と違って陸上はリレーを除けば個人競技だし、適当にやって迷惑かけるなんて事ないだろ?」
そか、ケンはそう言う考えか。ひとりひとり考え方は違うもんだ。
「ま、ヤスには本気でやって欲しいと思ってるけどな!」
「……あいよ、頑張るさ」
「お? 入学時とちょっと変わったねえ」
「ま、色々あってな」
サツキとか、ユッチとか、ポンポコさんとか、ウララ先生にも影響受けたな……もちろんケンもだな。
いやあ、影響受けやすいなあ、俺。
………………誰か忘れてるような。
「うむうむ、いい事だ。……明日は俺、バイト入っててサツキちゃんの応援には行けんけど、頑張れって言っといて。メールでも送っとくけど」
「ほいほい、了解」
「んじゃな! ヤス!」
「おう、またな!」
………………あ! アオちゃんの事忘れてた!
サツキの部活は昨日は完全休養、今日の練習は軽くで明日に疲れを残さないようにしてる。
今は22時。今日は父さん、母さんも早くに帰って来て、家族みんなで団らん中だ。
「ヤス兄、お父さん、お母さん、明日は頑張るからね!」
「ああ、応援してるぞ」
ほんとに頑張れ、サツキ。
この2週間。ありえないくらい練習して来たからな。
最後の2週間で何が変わる? って思うかもしれんが、『俺たちはこれだけやったんだ!』っていう自信を持つ事が大事だ。
4年分の積み重ねも全部発揮してやれな。
「今度の団体戦は絶対カミムラ、フクシマペアに勝ってみせるんだから!」
「そだな、その為にもまずは決勝まで行かないとな!」
「うん、絶対、絶対に負けないもんね!」
「ケンも応援行けないけど頑張れって」
「ああ、メール来たよ。ケンちゃんらしいメール」
「なんだそれ?」
「えっとね、『相手はヤスだと思え! そうすりゃ気兼ねなく打ちまくれるだろ』だって」
ケン! なんてメールを送ってるんだ!?
「明日はケンちゃんのアドバイス通り、ヤス兄だと思って相手コートにばしばしぶちこんでやるからね!」
「やめて! いや、思いっきりプレイはして欲しいけど、何で俺!?」
「だってヤス兄だもん」
訳分からんよ! 理由になってないから!
父さんも母さんもウンウンうなずいてないでなんか言ってやってよ!
「じゃ、明日はヤス兄、応援よろしくね!」
その前に理由教えて!
「みんな、お休みー」
「ああうう、お休み」
結局なんでか分からんかったな。
最近、褒めてくれてたのになあ、なんなんだろ?
ま、いいや。明日は頑張れよ! サツキ!
おはようございます。
「俺は俺、人は人」
でも、仲がいいやつくらいは一緒にがんばりたいなあと私は思ってます。それ以外の他の人がどうあろうと「気にしない」というスタンスです。
それでは。