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ルーシャの魔法・魔術日記  作者: 万寿実
第十一章 海属の秘宝
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p.96 海属の秘宝

 

 幸福時計からの襲撃を追い払ったあと、意外なことにもフェルマーはストイルたち協会軍人を塒にあっさりと入れる。

 ルーシャは約束通り、塒の入口に再度魔法術をかけ直し、その入口を封じる。神語をコピーしていたとはいえ、それらを正しく配列し魔力を練り込むことは一筋縄ではいかず、少し苦労はした。


 ルーシャたちは封印の魔法術をしかけてから海賊の塒に足を踏み入れる。フェルマーの帰還に歓喜をあげる海賊たちだったが、その後に続いて現れた見ず知らずの人間に警戒心を露わにする。そんな海賊たちを後目しりめにフェルマーは捕らえられていたセトを自由にする。


「シスター!」


 自由になったセトは一目散にルーシャのもとに駆け寄る。手荒には扱われたとはいえ、弟子の無事な姿を見てルーシャは胸を撫で下ろす。



「え、ルーシャ・・・弟子いるのか?」



 シスター呼ばれしあっさり受け入れるルーシャに対し、ミッシュはルーシャとセトを交互に見る。


「成り行きでね・・・」


 なんとも言えない表情でルーシャは頷く。



 フェルマーは手早く海賊たちに招集をかけ、ものの数分で海賊団の全員が集まる。屈強な男が数多くいるが、数少ないながらも女や子供の姿も見受けられる。


「コイツらは魔力協会軍部の人間だ。ワケあって共同戦線とすることになった。手荒な真似はするな」


 フェルマーは集めた海賊たちに向かってそう宣言する。多少のざわめきはあるものの、大人しく海賊たちは頭の言葉を受け入れる。

 その姿にルーシャをはじめ、ストイルたちもフェルマーがいかにこの海賊たちに信頼され、今まで彼らを率いてきたのかを目の当たりにする。突拍子のない事を言われてもなお、彼を信じて行動する──信頼関係がなければ成り立たない。


 海賊たちに待機命令をくだし、フェルマーはルーシャ立ちを連れて船長室へと籠る。


「で、フェルマー総長」


 ストイルが先陣を切って口を開く。


「だから、オレはもう総長じゃねぇって」


「それはそうですが・・・さすがにさん付けでは・・・」


 むず痒い表情をしながらストイルは口を開く。もう地位も立場もないとはいえ、フェルマーさんともフェルマー殿ともストイルは呼ぶことに抵抗がある。尊敬し、憧れでもあるその存在を軽々しく呼ぶことが躊躇われて仕方がない。


「じゃあ、フェルマー船長でいいじゃん。実際、海賊船の船長なんだし」


 すっかりとこの場に馴染んだセトが提案する。


「ナイスアイデアだ、少年」


「オレはセト。ただの見習いだから、あんまり役には立てないけどな」


 ストイルに褒められ満更でもない表情を浮かべながらも、セトは自身の力が戦力外であることを感じ取る。


「フェルマー船長、それで海属の秘宝とは?」


 和気藹々(わきあいあい)とする中、ニックは冷静に話を元に戻す。物事に動じず冷静に現状を把握し、さらにすぐになんにでも馴染んでしまうニックにルーシャはただただ頭が上がらない。


「噂でしかオレも聞いたことがないんだが、大海にあまねく魔力の源らしい。どういう類のものなのかは分からんが、あらゆる組織や人間が狙っている」


 真剣な瞳でフェルマーはまっすぐとこの場にいるメンバーを見すえる。その眼は強く、その眼に宿す光はあまりにも鋭い。いかにフェルマーが海属の秘宝を真剣に探しているのかということが垣間見れる。


「ということは、幸福時計の連中も?」


「そうだろうな。数ある文献や噂、伝承からこのあたりが最も海属の秘宝に近しいと言われているから、奴らも探してるんだろう」


「フェルマー船長はなぜ海属の秘宝を?」


 ストイルは純粋な質問をぶつける。海属の秘宝などというもの、長らく魔力協会や軍部に在籍してきたが聞いたことがない。そもそもなぜ、海属の秘宝のためだけに地位も権力も何もかもをフェルマーは捨てたのか。


「海属の秘宝が悪用されることをフィルナルが危惧してたからな。オレもそんなものが誰か個人の手に渡ったら取り返しがつかねぇことになる気がして」


 変わらず難しい顔をしたフェルマーにストイルは納得したように頷く。


「さすが、会長の懐刀ですね」


「腐れ縁だ」


 ため息混じりにフェルマーはそう言う。

 ストイル曰く、魔力協会会長のフィルナルと元海軍総長フェルマーは幼馴染であり、同じ師匠に弟子入りしていた兄弟弟子でもある。


 ともに切磋琢磨し、時には喧嘩もしたし、時には互いに手を取り合ってきた。いやでもお互いの顔や声、魔力がすぐに思い浮かぶほどふたりは共に過ごしてきた。


「じゃあ、フェルマーさんは海属の秘宝を探すためだけに海軍をやめて海賊に?」


「海賊になったつもりはねぇんだがな」


 またもやため息混じりにフェルマーは呟く。何かと気苦労が絶えない様子に、ルーシャをはじめその場にいた面々は彼の有能さと人を放っておけない優しさを感じ取る。


 フェルマー曰く、海軍を抜けて海属の秘宝を探しこの辺りの海をさまよっていた時、たまたま漂流している海賊船を発見したという。その海賊船はボロボロで、帆はズタズタに引き裂かれ、船体にいくつもの傷を負い、船員は甲板に倒れていたという。大嵐にあい、それを乗り越えた直後に海軍に追われた──後に回復した海賊たちは口を揃えてそう言っていた。


 海賊は海に蔓延る悪であり、彼らは民間人や海軍から躊躇うことなく金銭や金目のものを奪っていく。さらには時に人を殺し、人身売買に加担することもあり、元海軍であったフェルマーからすれば許し難い存在であった。


 だが、今にも死に絶えそうな人間を目の前にしてフェルマーは海賊とわかっていながら助けた。彼らの手当をし、食事を用意し、船を魔法術で直した。

 そうして数日をすごし、彼らがあらかた回復したらその場を去るつもりだった。


 しかし、命の恩人であるフェルマーを海賊たちは純粋に慕い、恩返しがしたいと申し出た。そのようなつもりは一切なく断るが、意外にも義理堅い彼らが折れることはなかった。



「じゃあ、俺の手足となって働いてもらおうか」



 フェルマーのその一言に海賊たちはあっさりと快諾し、フェルマーを「お頭」と呼びついてきているという。フェルマーからすれば海に精通し、ある程度の頭数がそろい、なおかつ場数を踏んできた猛者がいることは都合が良かった。海は時に荒れ、時に異様に人を拒絶するように動く。風の、波の、海の動きと畏怖を知らぬものと行動するのは命取りでしか無かった。





「海賊どもの噂や伝説も漁ってみたが、海の女神や海底の秘宝なんてものはあっても・・・海属の秘宝というものはなかった」



 難しい表情のままフェルマーはルーシャたちを見据える。


「存在しない幻・・・もしくは、すでに消失したとかでは?」


 冷静にニックはそう語る。いくつかの情報をもとに今いる場所が一番海属の秘宝に近いと考えられ、フェルマーも幸福時計も動いている。だが、両者ともそれらしきものを一切見つけられていない。



「大海に遍く魔力ってことは、強い魔力なんじゃないですか?それなら海の中を探せば見つけられそうな気がします。かなりの労力を伴うローラー作戦ですけど・・・」


 ルーシャは単純な疑問を浮かべる。どのようなものかは分からないが、恐らくとても強い魔力だと考えられる。それならばその強い魔力というものを片っ端から魔力探知していけば分かりそうな気がする。


 といっても、海中には地上と同じくして大きな魔力を持つ動植物もあるし、それらをひとつひとつ識別して探すことは干し草の中から針を見つけるようなもの。無茶を言っていることは百も承知だが、この界隈の海と分かっているならばルーシャにとって勝算は決して低すぎるというものではない気がしていた。


「海の中で正確な魔力探知は難しい。特にここは世界最大海流のライル大海流が通っているからな。海流につられ魔力が流れていってしまう」


「気流に魔力が集まるのと同じ感じですか?」


 旅をしてきてそれなりの経験をしてきたルーシャだが、海の中で活動したことはない。海の中で起きる事象や、そこがどういう所なのかということに関してはほぼ知識がない。


「そうだな」


「じゃあ、魔力探知して探すのもありだと思います」


 ルーシャはフェルマーの返答を聞いてまっすぐと意見を述べる。勝手も違うかもしれないし、出来ると断言もできない。だが、魔力探知の得意なルーシャからすれば気流の中に混ざる魔力を見分けることは難しいことではない。ならば、海流でも同じ要領で良ければ、海属の秘宝そのものではなくても何かヒントくらい見つけられると思われる。


「だがな・・・」


 ルーシャの言葉にフェルマーは難を示す。海の中のことも熟知しているからこそ、ルーシャの言っていることの無謀さを感じてしまう。

 フェルマーに続くようにストイルも難しい表情を浮かべ、ニックは無表情で静かに何かを考え込んでいる。時計の針の音が妙に鳴り響くなか、すっと一人の人物が手を上げる。


「発言、よろしいですか?」


 静かに話の行く末を見守っていたミッシュが口を開く。


「ん?なんだ?」


 ストイルはフランクに聞き返す。


「僭越ながら、ルーシャの意見に賛成します。ルーシャの魔力探知能力は高く、自分はルーシャなら何か糸口を見つけられると思います」


 淡い紺色のミッシュの瞳がまっすぐとルーシャに向けられ、ルーシャはその言葉と存在に勇気を与えられる。ミッシュと出会ったのはまだ見習いの頃で、初めて師匠の元を離れてアルバイトに出かけた先だった。そこでルーシャは不思議な魔力を感じとり、そこからちょっとした出来事に関わることになった。


 ルーシャのその魔力探知がなければ、その場にいたミッシュもエリスも不思議な出会いも出来事も経験することは無かった。


「フェルマー船長、とりあえず一回試しに海中捜査してみませんか?幸福時計の相手も我々がしますし」


 ミッシュの言葉にストイルはどこか満足気に笑みを浮かべ、フェルマーに提案をする。

 フェルマーは少し考え込んでから口を開く。



「じゃあ、お前らしっかり働いてもらおうか」



 にやりと笑みを浮かべ、フェルマーはルーシャたち一同を見回す。









──────────



海属の秘宝・・・よく分からないけど、凄いものなんだろうな。

大海に遍く魔力の源って、何なんだろう。

わからないけど、陸地よりもはるかに大きな海にある魔力の源って・・・想像もつかない。


それにしても、フェルマーさんが会長の幼馴染とは。

同じ師匠の元にいたってことは、二人の師匠はめちゃくちゃすごいな・・・。

二人も魔力協会の幹部を育て上げたんだから。



実は幼馴染のフィルナルとフェルマー。

ふたりが並んだところを想像すると、なかなか威圧感が強いですね・・・。

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