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ルーシャの魔法・魔術日記  作者: 万寿実
第八章 決意の欠片
74/143

p.72 けじめ

 

 豪華な邸宅の一室のベッドで横たわりながら、ルーシャはぼんやりと目に入る美しい木目調を眺める。思いがけない自分の出生を知った驚きと、それすらも見知らぬ誰かの物語のように感じてしまう感情が織り混ざる。


 マルクとシアの話が終え、二つの疑問点について2人の見解を確認した。

 ひとつは、ルーシャの育ての親であるルイーズの本名はルイーズ・ウィッカ・ホークトであり略称を名乗るとしたらルイーズ・ホークトになる。ならばその子どもとして育ったアストルもルーシャもホークト姓を名乗るのが本来だった。それなのに、ルーシャは幼い頃から母はルイーズ・サールドと名乗っており、アストルもルーシャも苗字はサールドだと思っていた。


 シア曰く、おそらくサールドというのは育ての親・ルイーズの初恋の相手の苗字だろうと。遠く異国の地へと足を運び落ち着くことにしたとはいえ、ルイーズはしばらくダルータ家およびホークト家から距離を置く必要があった。そのため、ホークト姓を名乗るのは無防備すぎ、偽名として初恋の相手のその名を借りたのだろうと。


 ふたつの目の疑問は、何故ナーダルはルーシャの実の両親のいるダルータ家ではなく、ホークト家を訪れるように言ったのかということだった。ルーシャがホークト家にそのまま行き着いていた場合、ここへ辿り着くまでに遠回りな気もした。


 このことに関しては二人の予想でしかないが、ルイーズがルーシャに遺したのがホークト家の家紋のあった指輪であり、それがルーシャに真実を物語る鍵となっていたからではなかったかと。ナーダルはそんなルイーズの意思を汲み取り、あえてダルータ家ではなくホークト家を訪れるようにと伝えたのではないかと。



 ここ最近で様々な話を聞いて、知らないことをたくさん知った。そして、師匠のナーダルが見てきた世界を感じる。魔力協会の成り立ちも、今の世界の実情も、そしてこの先世界が変動していくことも分かっていた。その変動がどのような結果をもたらすのかなど未知数でしかなく、ナーダルはこの先の未来に何を思い描いたのだろうか。


 最後の〈第二者〉という役割を与えられ、今現在の世界に終止符を打つということが生半可な覚悟ではなかっただろうこと。兄の思いを尊重しながらも、それが破滅への道だと思えても止められなかったこと。偶然知ってしまった弟子の出生に対して、それを本人に伝えるべきかどうか悩んだであろうこと。


 今まで考えもしなかった、ナーダルのその心情を考えてしまう。

 そして、これから先のことも考えると頭が痛く、どこか億劫になる。魔法術師になろうと思ったのは、魔力に目覚めた縁みたいなものを感じたからだったし、ナーダルに師事したのも自分を見つけてくれた運命のようなものを感じたから。特にこれといってと酔い同期がある訳では無いので、ナーダル亡き今、どこか足踏みしてしまう。頑張る理由もなければ、諦める理由もなかった。




 もともとはホークト家へ取り次いでもらうために訪問したのに、ここでナーダルのいうルーシャの宿命というものに出会ってしまった。話を聞くだけ聞いて帰ろうかと思ったが、頭が痛くなり寝台のある客間で休ませてもらっていた。


(・・・家族か)


 ここが本来ならば家と呼べる場所なのかもしれないし、両親や姉妹のいる家族なのかもしれない。だが、ルーシャはどうしてもそう思えない。感じる雰囲気も、吸う空気も、何もかもが懐かしいと思う要素がない。


 故郷の村に帰った時はたくさんの懐かしさを五感で感じた。頬を撫でる風の匂いや、踏みしめる乾いた大地に響く自分の足音、陽光が照らす深い緑の森、貧しく立ち並ぶ家々、ふらりと出かければ声をかけてくれる人々──そんな懐かしくて心がいっぱいになる要素がここにはいっさいない。


(・・・兄さん)


 そして、故郷を思い出せば必ず着いてくるのはアストルの面影だった。ルーシャの生きてきた人生に欠かせない家族であり、そこに血の繋がりなど求めてなどいない。血が苦手なので生き物を捌くのはルーシャに任せるのに、そのくせ何かと心配性でおろおろする時もあった。畑で育てた野菜を野生動物に荒らされた時は困ったように笑いながら畑を耕しなおしていたこと、母が病に倒れた時は遠く離れた栄えた街まで薬をもらいに行ってくれたこと、ルーシャが幼い頃森で迷子になった時は真っ先に見つけてくれたこと──その思い出を数えあげればキリがない。


 覚えていないほど些細なことも山ほどあった。腹立たしく許せない一面もあれば、頼りになって大好きな面もある。家族だからという理由でむやみやたらと甘えてしまうこともあれば、頼りない兄だから支えてあげようと思うこともある。ルーシャがセルドルフ王国の城でアストルと一緒にいたいと、過ごしたいと思った日々の中に理由はなかったのかもしれない。


 そんな兄のしでかしたことが、ルーシャの瞼に焼き付けられている。あの日、あの時──確かにアストルはナーダルをその剣で貫いていた。怖いほど真っ直ぐ、なんの躊躇いもなく。


 その場面を無意識に何度も思い出しながら、ルーシャは瞳を閉じて暗闇に身を委ねる。







 ******




 ダルータ家をおとずれた翌日。

 ルーシャは昼過ぎにオールドの元へと、ベタル王国の王城へと帰ってきた。



「おかえ・・・っえ?」



 ルーシャに「ただいま戻りました」と声をかけられたオールドは、クッキーを片手に声のした方を振り向き、その姿に驚き手にしていたクッキーを落としかける。オールドのその典型的な反応を見てルーシャは思わず笑いだしそうになる。


「似合うと思うわよ?」


 どこか言葉を選びながらも、オールドはそう声をかけた。

 ルーシャはセミロングの黒髪をバッサリと切り、肩上までのショートボブへと変化していた。出会ってから今まで一度もルーシャが髪を短く切りそろえているところを見てこなかったオールドは少しその変容に困惑していた。


 ルーシャは話を聞き終え、十分に休憩してからエリスとダルータ家を出た。そのままエリスの家で一泊して、朝に魔力街道にある美容院で髪をカットしてからオールドの待つここへと帰ってきていた。


「シスター」


「はーい」


 呼ばれてオールドは平静を装いながら返事を返す。ルーシャはオールドの隣に座り、同じように皿に盛られているクッキーに手を伸ばし、おもむろに口を開く。


「マスターが見つけてくれた、私のルーツを尋ねてきました」


 まだどこか他人事だが、それでもこれが師匠が見つけてくれたルーシャ自身の事だった。魔力のことと言い、その出生のことと言い、ルーシャにとって大事なことは全部ナーダルが見つけてくれた。ことある事に行先を指し示してくれるのは、やはり師匠だからなのか、それともこれが俗に言う魔力の導きというものなのだろうか。


 ルーシャは知ったことすべてをオールドに話す。ナーダル亡き今、オールドがルーシャの師匠であり、後見人のような立場であり話しておこうと思った。別に隠すことではないし、話したからと言って何かが変わるとも思っていない。ただ、自分を心配してくれるオールドに結果報告ぐらいしておこう──そんな気持ちだった。


「ルーシャが貴族だったとはねぇ」


 驚きながらもまじまじとルーシャを見つめるオールドに、ルーシャは「田舎育ちですけどねー」と軽く冗談を返す。


「まあ、そう言うあたしも王族感はないけどね」


 あっけらかんとオールドは自分を卑下し笑う。


「それはほんと言えてます」


 失礼を承知でルーシャも笑いながらオールドの言葉を肯定する。ナーダルもナーダルで王族感は全くなかったが、オールドはオールドで庶民じみていふ。あまり神々しいほどの威厳があっても、ルーシャはオールドとの距離感の詰め方に悩んでいたであろうからフランクであるに越したことはなかった。


「じゃ、あたしもチラッと現状報告しとくわね」


 オールドはルーシャが留守にしていた昨日、アストルのもとを訪れたこと、合意の末に婚約解消したこと、さらにオールドがナーダルを想っていたことが知られていたことを話す。どことなく今回の件もあり、婚約の継続は怪しいかもしれないと頭の片隅で考えていたルーシャは婚約解消にさほど驚きはしなかった。


「え?!バレてたんですか?」


 アストルがオールドの想い人がナーダルであることに気付いていたことに驚く。思わず大きな声を上げ、椅子の背もたれにもたれかかり、「あらまー」と追加で呟く。あまり色恋沙汰に敏感とは思ってなかったアストルのその意外な洞察力にルーシャはただただ驚く


「ま、なんだかんだあってフリーの身の上となりました」


 過ぎたことは仕方がないという雰囲気のオールドは笑いながらそう言う。一国の姫君が婚約解消をしたというのに、「フリーになった」というのはあまりに身軽すぎるが、ルーシャはオールドらしいとさえ思えた。



「で、ルーシャのそれは一体なんの意思表明?」



 近況報告をして場が温まったところでオールドはルーシャの髪にそっと触れ、弟子を伺いみる。髪を切ること自体は単なる気分転換や、ショートヘアにしてみたかったというものがあるかもしれない。だが、このタイミングでルーシャがあえて髪を切ったことが引っかかっていた。


「まあ、色々考えた結果・・・たとえ故意ではなくても兄さんのやった事は許せません」


  ルーシャはきっぱりと言い放ち、オールドを見据える。青い瞳が迷いなくオールドを射抜くように見つめ、その芯の強さは瞳の光とともに魔力の強さからも口先だけのことではないとオールドは痛感した。


「だからどうこうしようってことではないんですけどね。ただ、ちょっとモヤモヤしたものとか抱えたままはしんどいので・・・ちょっとしたケジメというか、過去を断つってわけじゃないですけど」


 アストルのしでかしたことは許せないが、だからといって復讐してやろうと言うことではなかった。正直、いまのルーシャはアストルの顔など正面からきちんと見れないかもしれない。未だに脳裏に焼き付くあのシーンがあり、そこには冷たいほど無表情なアストルがいた。


 今思い出せば、氷の城へオールドを助けに行った時も1度その顔を見た事があった。殺されるのではないかという、あの恐怖を味わったあの時に既にアストルの魔力は覚醒していたのかもしれない。



 髪を切ったのは、ただ過去にケジメをつけるという心意気なだけだった。アストルとの血縁がなかったことも、母が実は本当の母親ではなかったことも、実の両親が健在していたことも、何もかもが受け止めきれないところもある。色々考えて悶々として、答えの出ない感情にどうすればいいのか分からなくなる。


 だから、一旦すべて過去のことは断ち切る。考えなければならないこともあるし、向き合わなければならないことも多い。だが、今それら全てを一気に引き受けるのはルーシャの身が持たない。ならば一度全てから解放されよう──逃げのようなそんな道をルーシャは選んだ。


「なるほどねー。ま、ルーシャが選んだことなら黙って見守っとくけどね」


「それはありがたいです」


 微笑みオールドはお茶を嗜む。そして、おもむろにテーブルに伏せておいてあった一枚の紙切れをルーシャに手渡す。


「シバからこんなもの貰ってね。どう?そろそろ受けない?」


 ルーシャは紙切れを受け取り、その表面に書いてある文字を口にする。



「今期第十二回目 魔法術師試験」








───────



ここ最近、色んなこと知ったりしたから頭痛いなー。

モヤモヤ悶々してどうしようもないから髪でも切ってみた。


切りに行くの面倒だから伸ばしてたけど、ショートはショートで乾かすのとか楽!


シスターか兄さんとの婚約解消したのは、なんとなくそりゃそうだよなーってところがある。

けど、シスターは元々本家の圧力があって婚約を受けたはず・・・。今さら解消しちゃって大丈夫なのかな?

その辺は謎・・・。



そして、ついに魔法術師試験を受ける時が来てしまった!

個人的にショートカットの女の子が好きです。ロングもロングで可愛いんですけどね。

オールドの髪型は金髪ロングの毛先だけちょっとウェーブかかってるイメージで、The美人な外人さん!って感じです。

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