表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーシャの魔法・魔術日記  作者: 万寿実
第六章 封印の城
50/143

p.48 再会

 母親の墓参りの翌日。

 ルーシャは村長に礼を言う。家を残しておいてくれて、手入れをしてくれていて、いつ帰ってきてもいいようにしていてくれて・・・言葉では足りないほどの感謝があった。そして、ひとつの約束をした──無理はしないでくれと。決して裕福な村ではなく、それは村民であろうと村長であろうと変わりはない。家を維持すること、手入れをすることはそれだけで金と時間と手間がかかることだった。


 ルーシャは村長が無理をしないよう、負担となるならば手放してくれて構わないと伝えていた。帰る場所があることは嬉しいが、ここに必ず帰ってくるという意志も保証もない。ルーシャにとってここは故郷であり、思い出であり、確かに育った場所だった。だが、家族のいないここに絶対戻ってきたいかと問われれば、それは何とも言えない。


 挨拶を終えたルーシャは、ナーダルの描いた魔法陣を使って魔力協会の本部へと向かう。以前、レティルトと訪れたのはあらゆる分野の学問が集結する知恵を司る場・聖本部だった。今回は本部の心臓部分と呼ばれる思想本部へと向かう。


 暗闇の空間を抜け、足を踏み入れたのは建物のなかだった。特別な魔法陣を用いて足を踏み入れたのは、思想本部の入口だった。空間移動は行き先を指定することで、目的地にすぐに移動ができる。だが、魔力協会の本部となると特別な魔法陣を用いて初めてそこに足を踏み入れることが出来る。その魔法陣のなかにはセキュリティの観点から行き先の場所を特定するような神語が組み込まれており、聖本部なら広大な野原の真ん中に、思想本部なら入口専用の建物の中だった。思想本部は特に他の本部に比べてセキュリティが厳しく、入ってきた人間が協会員かどうか、危険物の所持がないか警備員が逐一チェックしているのだった。


 入口専用の建物のなかには無数の仕切りがあり、それぞれの仕切りの足元には魔力を練りこんだペンキで魔法陣が描かれている。思想本部への魔法陣と、そのペンキで描かれた魔法陣が共鳴し、思想本部へ向かうものは強制的にこの建物の魔法陣のどれかに誘導される仕組みとなっていた。


 ルーシャは周りを見渡して圧倒する。次から次へと魔力協会の人間が魔法陣から姿を現し、こんなにも世界には魔法術師がいるのかと驚く。肌の色も、身につける服装も、話す言葉ですら違う人間が一同に集まる姿はどこか異世界のように思えてしまう。驚きながらもルーシャはナーダルに続いてその建物を出る。


 魔力協会の本部の周りには商店や宿、そしてアパートや一軒家などの住宅が広がる魔力街道と呼ばれる場所がある。そこでは魔法術に関する本屋、魔道具屋など魔法術に関わる商店や、飲食店などが軒を連ね常に人々が行き交う。さらに魔力街道で働くもののための住宅などもあるため、街のような発展が遂げられている。本部を取り巻くように魔力街道は賑わい、本部から離れていくと緑が目立ち森がある。



「凄い賑わいですね」



 目の前に広がる光景にルーシャは驚きの声を上げ、心做しかその声が弾んでいるように感じる。ナーダルの仕事の受注のために魔力協会の支部に通うのは日課のようなものだが、本部に足を踏み入れたことは一度しかなかった。それも、ナーダルの呪いを解くためにレティルトに連れていったというもので、ゆっくりする時間は一切なかった。


 あの時は状況が状況だったので、本部への感激など感じる余裕もなかった。しかし、今は違う。こうして改めて本部へやって来てその規模の違いに驚きを隠せない。建物や街道の規模だけではなく、集まっている魔法術師の数に驚きを隠せない。


 魔法術師や魔導士といった、魔力を扱う人間の数は魔力を扱わない人間に比べて圧倒的に少ない。世界中の全人口の約三~五パーセントほどだと言われている。すべての魔力を扱う人間が魔力協会に属しているわけではないので、はっきりとした統計は出せていない。


「魔力協会を創設し、魔力を発見し、魔法と魔術を区割りして神語まで創り上げた偉人の生誕祭だからね」


 魔力協会創設者にして、初代会長のイツカの生誕祭が魔力協会で執り行われている。ナーダルも同様に人々の多さや賑わいに驚きながらも、その名と功績だけを知っているイツカのことを思う。


 もし、彼が魔力を発見しなければ魔法や魔術は発明されていない。もし、神語が創られていなければ、世界共通語のテオス語も開発されていなかっただろう。そして、魔力協会が創設されてなければ今ほどの魔法術の発展も、魔法術師同士の関わり合いも、魔法術の安全や普及はなかったであろう。魔力史の、世界の基盤をつくったと言っても過言ではないその働きにただただ驚く。


 魔力街道の至るところでイベントが開催されていた。広場や道沿いには様々な露店が広がり、世界各国の食べ物や服、アクセサリー、物置、食器などあらゆるものが売られている。ルーシャとナーダルは人混みに圧倒されながらも、それぞれ好きなものを食べ歩きした。初めて食べる行ったことのない国の料理は驚くほど美味しく、ふたりで次はどこの国に行くのも良いなと話が盛り上がる。


 街のあちこちでは魔法術を使った手品などを行う大道芸人、様々な楽器を演奏する演奏者、有志たちによるバンドなど何でも開催されていた。思想本部の建物の二階にある大ホールではイツカの功績や魔力協会の歴史について、貴重な資料や道具も混じえて展示されていた。さらに三階のホールでは「近年における魔法術の発展」というテーマでセミナーが開催されていた。






 広場にある石造りの噴水の周囲にはベンチがあり、ルーシャとナーダルはそこで休憩していた。少し大通りから離れたここには大規模な露店などもなく、穏やかに時間が流れていた。先程までの人混みなど嘘のように人がまばらで、二人は楽しみながらも疲れた体を休めてぼんやりと噴水の水を眺めていた。


 露店では次々と声をかけられ品物を紹介され、人混みではお互いを見失いそうになっていた。ごった返す人波に少し酔ったふたりは、少しでも人の少ない場所を・・・とさまよい歩き、現在の広間にたどり着いたのだった。


「ルーシャ?」


 そんななか、ふと名前を呼ばれルーシャはそちらを向く。魔力協会に知り合いがそれほどおらず、こんなところで自分の名前が呼ばれることに驚くが、目の前に現れたその人物を見てルーシャは思わず立ち上がる。


「・・・エリス?!」


 そこに立っていたのは懐かしい友人の一人だった。魔力協会のアルバイトで出会った、同年代の魔法術師見習いで、今エリスの胸元には魔法術師を証明する協会章が光っていた。アルバイト先で別れた時、たしか彼女は次の魔法術師採用試験を受験すると言っており、胸に光る協会章が無事に魔法術師になったことを示していた。


「久しぶり!」


「すごい偶然!」


 まさかの再開に喜ぶ二人はナーダルの存在を忘れて喜び合う。協会章を指さして無事に魔法術師になれたエリスを祝福する。エリスはエリスで、こうやって偶然にも再会できたことを心底喜んでいた。ふたりは別れる時に特に連絡先の交換などしておらず、再会出来たこと自体が奇跡のようなものだった。


「・・・エリス?」


 置いてけぼりだったナーダルが驚いたようにエリスを見つめ、その名をボソリと呟く。その声に気づいたエリスはナーダルのほうを見て、なぜかエリスも驚く。


「え・・・?!セルト兄様?」


 口元を抑え、まじまじとナーダルを見つめる瞳はルーシャとの再会時よりも大きく見開かれていた。


「うわー、びっくりした」


 心底驚いたようにナーダルはエリスを見つめ口を開く。放心しながらもナーダルはどこか嬉しそうな表情を浮かべる。


「・・・知り合いなんですか?」


 思わぬところの繋がりに驚きながらも、ルーシャは驚いたままベンチに座っているナーダルに問いかける。


「エリスは僕の母方の従姉妹だよ。まさか、ルーシャの友だちだったなんて・・・」


 エリスとの関係性を説明し、ナーダルはルーシャとエリスを見比べる。だが、ルーシャはナーダルの言葉にエリスの身の上を察して驚く。


「マスターの従姉妹?!ってことは貴族?!」


 あまり詳しくは知らないが、元王子のナーダルの父は代々王位を継いできた王家・ルレクト家の人間で、たしか母はロータル国の貴族の出自だったはず。母方の従姉妹ということは、エリスはその貴族ということになる。そういえば、エリスと出会った頃に魔法術師を目指す理由として「家を出たい」と言っていたことを思い出す。


「いやいや、こっちも驚いてるとこ!ルーシャ、セルト兄様の弟子なの?」


 エリスはエリスでルーシャとナーダルを見比べて驚きを隠せていない。それぞれがそれぞれの事実に驚き、お互いに聞きたいことだらけの状況になる。お互いに話を整理するために一旦は落ち着くが、それでもやはりそれぞれの心に戸惑いと驚きは存在していた。


 エリス──本名はエリス・ホークト・ダルータであり、エリスの父親はナーダルの母親の兄であった。リーシェルの反乱があり、ルレクト家の血を引くものはことごとくリーシェルにより惨殺されていった。ダルータ家はルレクト家と親戚関係となっており、惨殺こそは免れたものの厳しい監視下に置かれていた。


 ナーダルとレティルトがもしかしたら、彼らを頼って姿を現すかもしれないという計算のもと、世界最強の女騎士の目が常に光っていたのだった。そんな状況から抜け出したかったエリスは、偶然にも魔力に目覚めた。そしてチャンスとばかりに家を出て、魔力協会の魔法術師・ライラと出会い彼女に師事し、無事に魔法術師となったのだった。


「兄様が無事で良かった」


 あの反乱の後、王と王妃はいのちを奪われたがレティルトとナーダルは逃げたという噂があったが、それが真実かどうかは分からなかった。厳しい監視下にあったダルータ家の者に彼らの捜索など出来るはずもなく、ただ2人の王子の無事を祈っていたのだった。


「皆は元気でやってる?」


「それなりにね。レティルト兄様は?」


「無事だよ」


 ナーダルの言葉にエリスは安心し笑顔を見せる。

 ルーシャとナーダルはエリスの家に泊めてもらうこととなった。生誕祭中は魔力街道の宿は埋まってしまっていることが多い。さらに積もる話のある三人はただただ驚きながらも、空白の時間を埋めるように話し込むのだった。








──────────


魔力協会の思想本部に来た。めちゃくちゃ大きい!

そして、初代会長の生誕祭は物凄く賑わってる。こんなに魔法術師を見るのは初めてで圧巻だった。

お祭りはもう楽しい!いっぱいお店があるし、色んなイベントしてるし!


そして、何よりも驚いたのはエリスと再会できて、まさかのマスターの従姉妹だったこと・・・。とんでもないとこに繋がりがあった。世間は狭いなー。



エリスの再登場でした。実は良いところのお嬢様です、あんまりお嬢様感はないですが・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ