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ルーシャの魔法・魔術日記  作者: 万寿実
第三章 鳥籠の鍵
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p. 23 リラの願い

ほんと、のろのろ更新で申し訳ないです。

 目の前に佇む美しく、どこか儚い純白の鳥の言葉にルーシャたちは我が耳を疑い、言葉を失う。聞き間違いだろうかと思うが、残念なことに一字一句綺麗に聞き取れていた。珍しい名前なわけではないが、今その名を聞くことが不思議と運命のように感じてしまう。


 魔鳥という一族、そしてその名前はルーシャたちには聞き覚えのあるものだった。世界中で二百年ちかく語り継がれているある童話に出てくるもので、いま自分たちが関わる魔道具のモチーフとなっている。あまりに出来すぎた偶然なのではと思うほど、すべてが整いすぎている。


(そんな偶然が・・・・・・)


 全員が心の中でそう反芻する。謎の鳥籠が只者ではないと踏んでいたし、関わると決めたからには何が起きても腹を括るつもりだった。だが、予想だにしなかった名前と存在に動揺しないわけがなかった。純白の魔鳥は不思議そうに固まるルーシャたちを静かに見据える。


 薄暗い部屋のなかに妙に淡く光る鳥籠と、その中にいる純白の魔鳥がどこか神秘的に感じられる。鳥籠は魔法や魔術が施されているとはいえ、おそらく本来はただの鳥籠だったのだろう。だが、不思議と魔鳥という存在に引き立てられ鳥籠そのものも神秘的なものに感じられる。暗闇に淡く光り浮き出る様子は名画の中の世界のようで、目の前の現実が夢なのではないかと思えてしまう。


「待って。鳥籠のなかに囚われたのはリザルじゃなかった?」


 エリスはハッと我に帰り、自分の知っている物語と現在の違いを指摘する。目の前のリラという魔鳥が童話の人物と同じという根拠はないが、ここまで様々なことが揃っていれば童話のリラと考えるのは自然なことだった。


「リザルを知っているの?」


 ルーシャやミッシュやよりも、その名前にいち早く反応したのは純白の魔鳥・リラだった。その名前を、その存在を知っているとなるとただの偶然が重なったというには奇跡すぎる状況となる。もう、彼女が童話のリラと同一人物と決定づけても構わないだろう。


「有名ですからね、裕福な少年リザルと魔鳥の友達リラの童話は」


 どこから説明すればいいのかは分からない。だが、彼らの名前は世界中の多くの人々が子供の頃に一度は耳にしたことのあるものだということは確かだった。あの童話が普及していない国や地域も数多いが、ルーシャやミッシュ、エリスは幼い頃に親に読んでもらった記憶がある。約束を守らないとリザルみたいに閉じ込められて一生外に出られないという教訓とともに。


 ルーシャたちは童話のあらましをリラに話して聞かせる。童話の登場人物と思われる人物にその話を語るという、どこかおかしな自体になる。リザルが囚われているはずの鳥籠には、今なぜかリラがいる。それに童話の中では魔鳥のリラは黄金鳥だったが、ルーシャたちの目の前にいるのは汚れなき純白の鳥だった。童話は間違って伝えられたのだろうか、それともわざと捻じ曲げられた内容が伝えられたのだろうか。そもそも何が真実なのかもわからない。


 静かに話を聞いているリラは特に口を挟むことはなく、ただ話を聞きいる。なにかに思いを馳せるわけでも、思い出そうとするわけでもなく、ただ童話に耳を傾ける。



 やがて、話を聞き終えたリラは少し何かを考え込んだように沈黙を貫く。どこか淡い青の瞳は揺れていて、彼女の心を映しているようだった。


「本当は囚われたのは私よ」


 沈黙を破りリラは言葉を発する。まっすぐとルーシャたちをその目に映し、美しい瞳は過去を語る。


「私の正体が魔鳥だと周囲にバレてしまって、魔鳥は珍しいから捕まりそうになったところを幼馴染で魔法術師のリザルが助けてくれたの。この鳥籠にはリザルの魔法や魔術がかけられていて、中に何が入っているか見えないし、術者であるリザルしか開けることが出来ないの。だから、私を隠すのにはいい場所だった」


 どこか懐かしそうに、何かを思い出すかのようにリラは優しい口調で語る。リラの瞳はルーシャたちを捉えているが、その目が見据えるのはルーシャたちの知らない──リラしか知り得ない過去の情景なのだろう。


「事が落ち着いてリザルは私を出そうとしたけど、どこかで神語を間違えたみたいで私は出られなくなったの。リザルは私を連れて魔法を解く術を求めて旅に出たのよ」


 淡々と、だがどこか懐かしそうにリラは可憐な声で言葉を紡ぐ。童話にはないリラとリザルの旅路がどんなものだったのかなど、当事者しか知らない。どんな道を歩き、どんな街にたどり着き、どんな会話を重ねてきたのだろう。


「けれど、魔法を解く術は見つからずリザルは旅の途中で事故に遭って死んだの」


 リラはうつむき加減でそう言い、その目を閉じる。


「・・・・・・じゃあ、それからずっとその中に?」


 突然訪れた旅の終わりに驚きながらも、ルーシャは疑問を口にする。術者が死ねばその魔力さえ切れれば基本的に魔法も魔術も効果を失う。だが、彼女は依然として鳥籠のなかにいる。


「リザルが死んでもう二百年は経つわ。あれから私はこの中から出たことなんてないわ」


「そんなに生きられるもんなのか?」


 魔法の効力の云々などより、ミッシュはそちらを気にする。人の寿命な長くて百年前後であり、そこまで生きる人は少ない。自分たちの寿命の倍近くを生きている彼女はルーシャたちよりもずっと年上のようだった。


「たしか魔鳥は長命な種族だったと思う。二、三百年は生きられるって本には書いてた」


 ミッシュの疑問にエリスが答える。


「そうよ」


 リラは頷くがルーシャはその瞳が曇ったことに気付く。リザルが亡くなって約二百年たったということは、リラも近いうちに天命を全うする可能性が高いのではと。正確な寿命など分からないが、人だって百歳まで生きる人がいればもっと若くで亡くなるひともいる。リラの残された時間など誰にも正確には分からない。


「出ることが叶わないなら、故郷に帰りたいと思って二百年かけて人の手を渡り彷徨ってきたの」


「工場では動いてましたけど」


 二百年というルーシャたちでは想像もできないほどの長い時間をかけて、人の手を渡ってきたという壮大な話に圧倒される。だが、ルーシャはふとした疑問をリラにぶつける。彼女を捉えている鳥籠を見つけたのは、その神語がバイトのものではないから、そして粗悪品箱から自力で脱出しているのを見たからだった。


「少し浮いたりすることは出来るけど、鳥籠ごと動くのはかなりつらいの」


 魔鳥というからには魔力をそれなりに扱える一族なのだろう。だから少しではあるが、自分を捉える鳥籠ごと浮かせるという芸当ができる。だが、そんな彼女ですら故郷に帰ることすら人任せにしかできない状況だった。


「頼めば早いじゃない」


 エリスは最もな意見を述べる。


「リザルの魔法で私は誰にも姿も声も気づいてもらえなかった」


 首を横に振り、リラは俯く。皮肉にもリラを守るための魔法が、彼女と世界を隔てていた。その魔法の効力が続く限り彼女は永遠に誰にも気づいてもらえない。


「でも、どうして・・・」


 自分たちには、その姿と声がはっきりと見えるのだろう。魔力探知がまだ苦手なミッシュは無理だが、ルーシャもエリスも鳥籠の魔法が今現在も発動していると、神語から読み取ることが出来る。二百年近くもその魔力が途切れることなく、その神語が掠れることなく、その効力が発揮され続けることなど聞いたことがない。それだけリザルの魔法術師としての実力が他を抜きん出ていたと容易に想像することが出来る。


「それこそ、あなたたちの信じる魔力の導きなんじゃない」


 リラはどこか他人事のようにそう口にする。どんな理論を以てしても説明できない状況に陥ることがある。それを運命だと人々は良い、魔法術師たちは魔力に導かれた結果だと考える。究明することが困難な状況を受け入れるための言い訳のようなものだが、現状を考えればそれこそ運命・・・魔力の導きなのかもしれない。


「で、あんたの故郷は?家とかは?」


 沈黙を守ってきたミッシュが話を先へと進める。どこにあるのだと、こうなったならそこまで連れていくと態度で示すミッシュがどこか男らしく感じられる。


「・・・分からない」


 俯くリラの声は一段低くなり、ルーシャたちは首を傾げる。


「小さな集落で名前もなかったと思うし、知らない」


 当時のリラにとって自分の目の前の世界が世界の全てだった。家の周辺にしか行くことはなかったし、外に広がる世界も街も知らない。だから、リザルが自分を自由にしようと故郷の外の世界へ旅立って初めて見てきた世界の小ささに気付いた。だが、外の世界に夢中で、リザルがずっと一緒にいるものだと思って故郷のことを何一つ知ろうとしなかった。


「じゃあ、帰れないし・・・・・・」


 途中でミッシュは言葉を切る。場所がわからなければ行き方が分からないどころか、故郷にたどり着いたところで二百年たったそこが故郷だと分かるのだろうか。風景も街並みも変わっているだろうし、もちろんリラの知っている人物などいない。もしかしたら彼女の家族なら、同じ魔鳥なら長命なので生きている可能性もなくはない。


「リザルの家が残っていれば可能性はある」


 俯いていたリラがひとつの希望を口にする。


「え?」


「彼の家はとても裕福な貴族だった。一族が存命なら、まだ家があるはず」


 一般人と違い、王族や上位の貴族はその血を絶やさないことに躍起となる。リザルの家が裕福な貴族であったとしても、その貴族がどれくらい上位なのか分からない。財力だけある下位貴族も多く、貴族にとってどれだけ上位に位置するのかは基本的に自国の王族との関わりによる。王族と近しいほど、彼らから信頼されているほど貴族としての地位は上昇していくことが多い──王城で数年生活しているルーシャはそう分析している。


「リザルのフルネームは?」





「リザル・ヨシュア・ヴェルゴット」









───────────────


まさか、鳥籠のなかにいたのが魔鳥のリラだった。まさか過ぎるでしょ。こんなことになるなんて、さすがに予想も覚悟もしていなかったなぁ。

いや、もう鳥籠をこっそり持ち出した時点で覚悟はしてたんだけど、いやいや・・・・・・まさかね。

知っている物語とは随分違っていた。現実は小説よりも奇なりってやつ?うーん、よく分からないけど関わると決めたからには何としてもリラの故郷を見つけないとって思ったんだけど。


リザルのフルネームって、まさか・・・・・・。




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