表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルーシャの魔法・魔術日記  作者: 万寿実
第十四章 五つの誓約
122/143

p.120 巣立ち

 

 セトの巣立ちの儀から1週間が経過した。

 未だに一人前の証である協会章をセトは手に取って嬉しそうに笑っている。ルーシャも少し前までは同じことをしており、懐かしくも微笑ましくセトを見ていた。


 セトは試験後、ルーシャと共に魔力街道にて必要物資の買い物をしていた。これから先、ルーシャとは違う道で世界を旅するセトは生きていくために必要なものがたくさんある。そんな必要なものを一つ一つ手に入れていく。


 そうして、あっという間に一週間が経過した。

 ルーシャはセトの見送りのため、思想本部の出口がある建物の前にいた。魔力協会本部への出入りにはセキュリティの観点から特別な魔法陣が必要となる。本部とそこを取り巻く魔力街道には、特別な魔法陣以外での立ち入りができないようになっている。


「じゃ、適当に連絡するよ」


 セトはあっさりとした態度でルーシャを見返す。


「シスターもすぐ出発なんだろ?」


 セトの問いかけにルーシャは見送りに同行しているリルトを見返す。リルトとリヴェール=ナイトから、竜の封印を解きに行くこと、それが近日中だという話をつい2日ほどまえに聞いたばかりだった。


「その辺はお偉いさんに聞いてみないとな」


 リルトはにやりと笑い後ろを振り返る。セトは何事かとルーシャとリルトの隙間からその人物をみつけ、少し息を飲む。


「会長じゃん!」


 思わずセトは声を上げ、はっと口に手をやって黙る。


「わざわざ来てくれたんですか?」


 何の連絡も情報もなかったため、ルーシャもフィルナルの登場に驚く。フィルナルにとってセトなどヒヨっ子協会員でしかないはずなのに、わざわざ激務の合間にこんなところに来ていた。


「黒騎士に聞いてな。セト、パロマ貸せ」


 面識が殆どないセトにフィルナルは構うことなく近づき、つい先日セトが手に入れた連絡魔道具・パロマを借りる。セトは物珍しそうにフィルナルを見上げ、フィルナルは無言で作業を行う。


「俺の連絡先を登録しておいた。お前にも色々と働いてもらうからな」


「あんまり役に立てる気はしないけど、頑張ります」


 驚きながらパロマを受け取り、セトは改めてフィルナルを見返す。


「黒騎士から聞いた、お前が〈第二者〉だと。覇者の魔力を有するお前の力、これからの協会のために使わせてもらうぞ」


 まじまじとセトを見つめながらフィルナルはセトの魔力を感じる。他者からは感じることの無い強い炎の魔力、それが何なのかフィルナルは分からなかった。そういう魔力があるものかと思っていたが、それはもうこの世で一人しか存在しない者の魔力だった。


 セトはヒヨっ子魔法術師であるが、フィルナルや魔力協会にとって取るに足らない存在ではなかった。竜の魔力を手にした人間は現在セトしかおらず、その強い力に関心もあれば警戒もある。そして何より、反魔力協会組織に絶対に流出させてはいけないものでもある。


 思惑も、それなりの威信もある。

 けれども、ルーシャはそうだとは思わなかった。


(やっぱり、フィルナル会長は優しいとこあるから)


 フィルナルは〈第二者〉として強い魔力を持ちながら、まだ未熟なセトを心配している。確かに、その力の流出や暴走を危惧している部分もあるが、フィルナルの行動理由の大半はセトへの気遣いだろう。


「善処します」


 セトの困ったような返事にフィルナルは手を振り去っていく。嵐のような会長の気遣いにありがたいような、少し困ったようなセトは改めてルーシャに目をやる。


「気をつけてね」


 ルーシャとリルトは手を振り、セトの旅立ちを見送る。不思議と、まだ小さいにもかかわらずセトが1人で旅立つことへの不安はそれほどない。しっかり者のセトなら、何があっても何とかするだろうという根拠の無い信頼がある。


 セトは振り返ることなく本部出口の魔法陣が敷かれている建物へと入り、ルーシャたちはすぐにセトの魔力が感じられなくなる。あっさりと弟子は旅立って行った。



「寂しい?」



 ふいにリルトに尋ねられ、ルーシャは躊躇うことなく首を横に振る。


「手がかからなかったし、私たちは割と淡白な付き合いだったから。それに、何だかんだと最近はリルトと遊びに行ってばかりだったしね」


 笑ってルーシャはリルトを見返す。セトとの日々は新鮮で楽しかったけれど、不思議と別の道を行くことへの寂しさはない。

 なによりも、ここ三ヶ月はなにかとリルトと過ごすことが多かった。ちょっとした空き時間に遊びに行ったり、ご飯を食べに行ったりしており、そういう時間が楽しかったのもある。セトとの時間だけがルーシャの日々ではなかった。


 同世代の誰かと何かをするという経験が極端に少ないルーシャにとって、リルトとの時間は楽しいという一言につきた。会うたびに何を話しても面白く、次に会うのが待ち遠しかった。


「俺は好きで誘ってただけなんだけどな」


「これからもお誘いお願いねー」


 見送りが終わり、シバの家に帰ろうとルーシャは踵を返す。



「ルーシャ」



 歩き始めたルーシャにリルトが声をかける。振り返るとリルトは神妙な面持ちでこちらを見つめている。いつもとは違う雰囲気にルーシャも少し身構えてしまう。リルトが口を開けるまでの時間が妙に長く感じてしまい、胸の鼓動が痛く感じる。



「俺、──」



 リルトが意を決して口を開く。



「セトはもう行ってしまったようだな」



 リルトに気を取られていたルーシャは突如声をかけられ、驚きのあまり小さく肩をふるわせる。

 リヴェール=ナイトがいつの間にやらルーシャたちの前に現れていた。どうやらセトの見送りに来たが、一足遅かった様子だった。


「どうかしたか?」


 驚いたように自分を見つめるルーシャとリルトにリヴェール=ナイトは不思議そうに見つめ返す。


「なんでもないよ。ちょっと遅かったな」


 大きく肩を落としてリルトは溜息をつきながら口を開く。


「残念だ。リルト、これから緊急会議だそうだ」


 そんなリルトにリヴェール=ナイトは仕事の伝達をし、二人で思想本部の会議室を目指すこととなる。何か言いかけていたリルトはルーシャに「またそのうち」と伝え、項垂れるようにリヴェール=ナイトと歩く。ルーシャは突然の仕事に「大変だなー」と思いながら二人を見送る。



 ルーシャと別れてからも溜息ばかりのリルトは隣を歩くリヴェール=ナイトを睨みつける。飄々として感情を表に出さない黒騎士だが、決して感情や思惑がないわけではない。


「どうかしたか?」


 静かに怨念を向けるようなリルトの視線にリヴェール=ナイトは静かに問いかける。


「あんた、絶対わざとだろ。さっきのタイミング」


「なんのことだか」


 表情も魔力も一切変化させずに淡々と答えるリヴェール=ナイトをリルトは軽く小突く。リヴェール=ナイトは急な会議の伝達に来たことは確かだし、セトの見送りも出来ればしたいとも思っており間に合わなかったのは残念な事だった。


「白々しいよ、まったく」


 ムスッとした表情でリルトは前を向き、本部の会議室を目指す。思想本部には数多の会議室があるが、今リルトたち秘密裏に集められた魔法術師たちが連日使っているのは、本部にある第五会議室だった。会議室の中でも広い方であり、そこに有識者から集められた情報が図式化されている。


「これから共に旅する仲間が出来合っていては、少し俺としても気まずいところがあるものだ」


 珍しく口元を弛め小さく笑うリヴェール=ナイトはリルトをちらりと垣間見る。驚きなのか、面映ゆい表情なのか、リルトの反応を窺いみる。


 しかし、そこにはリヴェール=ナイトの予想した反応はなかった。


「・・・え?俺はあんたらとは一緒に行かないけど」


 リルトは平然とそう言い会議室へ入っていく。



「・・・え?」











──────────


セトが旅立っていった。

ほんっと、あっという間の半年だった。セトとの毎日は楽しくて刺激的だった。


なんだか、あっという間に色んなことがセトに抜かされていきそう。セトならすぐに魔導士資格も取っちゃうんじゃないかなー。


それにしても、フィルナル会長直々に見送りと連絡先を渡してくるとは。

〈第二者〉として生きているセトのこと気にしてくれてるんだろうなー。



そして、私も近々また旅に出る。

リヴェール=ナイトさんから竜の封印を解きに行くことになったって聞いた。

頑張って行こー!

・・・過酷な道のりって聞いたけど、大丈夫かな。



ついこの間、登場したセトがあっという間に1人前になり旅立ってしまいました。なんだか私も感慨深いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ