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ルーシャの魔法・魔術日記  作者: 万寿実
第十二章 神の庭
106/143

p.104 影

 

 ルーシャとセトは果てなく続く荒野を歩く。景色は変わらず、重い雲が空を多い、淀んだ空気が辺りを包み込む。枯れ果てひび割れた大地が延々と続き、生命らしきものは一切見あたらない。


 人どころか動植物も見当たらない。


「シスター」


 セトは心配そうにルーシャに声をかける。ルーシャはセトを見返し、その瞳が言葉にはしない不安を物語っていることに気づく。


 本当にここが神の庭なのか。

 これからどうするのか。

 そもそも帰ることができるのか。


 言いたくても言えない言葉がその赤い瞳に映し出されている。


「もうちょっと調べて何もなさそうなら帰ろっか」


 ルーシャに言えるのはそれだけだった。

 この世界に足を踏み入れてから魔力探知をしているが、様々な魔力が渦巻いていることは分かるが、それ以上の何かを見つけることは出来ていない。何かこの場所についてわかるような神語がないかと探すが、多様な魔力の存在にかき消されているのか、うまく神語を見つけることが出来ない。


 今までは魔力探知さえすれば神語が分かったためそれほどの不安はなかったが、明らかに異様な場所に来ているのに魔法術のひとつも見つけられないのは不安でしかない。なにか神語の欠片でもあれば良いのだが、何度魔力探知を行っても見つけられない。



 重苦しい空気を感じながら2人は進んでいく。


「あれって・・・」


 ふと、ルーシャは立ち止まり目を細める。

 今までずっと荒野ばかりが続いていた景色の一部が変わる。


「町っぽいな」


 ルーシャと同じく立ち止まって先を見ていたセトはそう言い、その表情は幾分か明るくなる。

 はるか遠くだが、確かにふたりの目には建物と思しきものが見える。


 変わらない景色の中を歩いてきた二人の覇気を失った瞳に光がやどる。

 何か希望があるのではないかと、ルーシャとセトは足早に建物のある方向へと向かう。町の方へと進むが、あたりの荒廃は全く変わらない。こんなところに人が住んでいるのかと驚くが、それよりも人に会えることへの喜びと希望の方が大きい。



 しばらく歩き、街へとたどり着いたルーシャ。

 町の中は粗末ながらも建物が並び、人々が行き交う。決して裕福とは、発展しているとは言えない街並みが広がる。

 街の人々は旅人のルーシャたちを気にも留める様子はなく、外からの人間を排除しようとする閉鎖的な様子も見られない。


(神語に神の庭って書かれてたけど・・・普通の町みたい)


 もっと何か強い魔力や魔法術、なんらかのものがあるのかと思ったが、目の前に広がるのは在り来りな日常のようだった。

 セトとともに街の中を歩き回るが、あまりにも穏やかな日常があるだけだった。


 市場や店が並び、人々はそれぞれの生活の中にいる。町自体にあまり裕福さは感じられないが、町の外は随分と荒廃していたが町中はそれほど酷い状況ではない。荒地の中にぽつんと出来た町というのに、それなりに栄えて水や食料に困っている様子はない。


 あまりにも的はずれな景色にルーシャな頭を悩ませる。


 明らかな魔法術もなければ、怪しい人やものもない。神の庭を探しに来たのに、何の情報も得ることが出来なさそうだった。


(あの屋敷の魔法術、そして神語に神の庭って書いてたから・・・ここが神の庭だと思ってたんだけど)


 どこかで道か何かを間違えたのかと考えるルーシャは、ふとその視界の端に何かを捕える。


「・・・え」


 思わず立ちどまりその方向を凝視する。

 町の中には大勢とまでは言えないが、それなりの人数の人が行き交う。

 ザワついた町のなか、見知らぬ土地のなかなのにルーシャの目は一所に──ひとりの人物の後ろ姿に焦点を当てている。


 周りの雑踏も、ここへ来た目的も見失ってしまう。


 その濃い茶髪と見覚えのある背格好、そして何よりも醸し出す空気そのものをルーシャは良く知っていた。



「・・・マスター」



 見間違うはずなどない。


 ルーシャの視線の先に映る後ろ姿は、紛れもなく今は亡き師匠・ナーダルだった。


(どうして・・・幻?)


 何度目を擦っても、その姿が消えることは無い。

 何度魔力探知をしても、明らかな魔法術の神語は見当たらない。



「グレン・・・!」



 呆然と視界の先の後ろ姿を見つめていたルーシャの耳にセトの声が届く。

 その瞳はルーシャと同じ方向を穴が空くほど見つめ、心做しか息が上がっている。


 ルーシャは再び視界を戻す。

 やはり、視界の先には見慣れたナーダルの後ろ姿が映る。そしてナーダルと少し離れたところにセトと同じくらいの少年の後ろ姿を捉える。


(グレンって確か・・・セトの友達の子じや・・・)


 セトの呟いた名前を、ルーシャは記憶の中から呼び起こす。たしか前に話していた、孤児院にいた時の友達で、セトのことを助けようとして死んだという。


(マスターにセトの友達・・・ふたりとも死んでいるはずだから)


 目の前にいる二人の共通点がルーシャにとある答えを導き出させる。



「死者の世界・・・」



 ぽつりと零れた言葉にセトは反応を示す。


「グレン!」


 走って友のもとへ進むセト。真っ直ぐと躊躇いのないその姿にルーシャも感化され、同じく視界の先にいる人物の元へと走り出す。


 神の庭とはなんなのか、死者がいるこの世界は何なのか──なにもわかることは無い。


 それでも、ふたりの目の前に大切な人がいる。

 それだけで先へ進むという選択をすることは当たり前だった。




「マスター!」


「グレン!」



 ルーシャとセトはそれぞれ大切な人の背に声をかける。









──────────


随分と荒廃した場所にたどり着いた。

神の庭だと神語に記載されていたのに、随分と廃れている。想像してたのと全然違う。

もっと天井の神々が住むみたいなイメージだったのにな・・・。


そして、荒れ果てた土地を進んでいったら町があったけど・・・それよりも、なんでかマスターがいた。

マスターもセトの友達のグレンもすでに亡くなっている。


まさか、神の庭が死者の世界だったみたい。


死者の世界だからこんなに廃れてるのかな?



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